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渦中から君へ8

ちょうど外食をしなくなってきたタイミングで檸檬堂を発見した。
おそらく巷ではとっくに流行っていたのだろうけれど、たまたまなんかの機会にコンビニで買って飲んでみたら本当においしかった。それから近くのコンビニで4種類の檸檬堂を買いまくり、冷蔵庫には常にストックがある日々が続いていた。

缶チューハイを飲むようになったのはここ1年くらいだろうか。健康上の理由から家でビールを飲むのはやめることにし、代わりに氷結などを買いはじめた。だいたいぼくは夕食のときに缶を1、2本飲んで、調子がよければウイスキーの水割りに切り替える。夜は基本的にお米は食べない。みおさんも食べないので、夕食時にお米を食べているのは実は君だけ。でも君もあまり好きじゃないよね、お米。食べるときは食べるけど、食べないときは食べない。みおさんは君にどうお米を食べさせようかいつも頭を悩ましている。

さて檸檬堂の話に戻る。もう氷結なんかそっちのけで檸檬堂ばかり買っていた。とくにアルコール9パーセントの鬼レモンがお気に入りで、お酒を飲むときは毎晩のように飲んでいたわけだった。

しかし数日前、そんな檸檬堂漬けの日々に別れを告げる決断をした。

その晩もうまいうまいと鬼レモンを飲んでいた。みおさんもはちみつレモンの方を気に入って一緒に飲んでいたのだが、ふとみおさんがラベルを見せてと言ってきた。ぼくが飲んでいる鬼レモンのラベルだ。ぼくは何だい?と思いつつも言われるがままにそれをみおさんに差し出した。すると表示を見たみおさんが「やはりか」とつぶやいた。「糖分が高いんだね、これ」

そうか、それで辻褄が合うのだ。

ぼくが週に2回走っているのは、健康のためであると同時にお腹が出るのが気になるからなのだ。1年以上走ってきた結果、順調にお腹の出方は目立たなくなりつつあると感じていたのだが、ここに来てなんだかまた出てきたような気がしていた。ずっと走っているし、食生活も激変したつもりはない。なのになぜなのか、不思議に思っていたところだったのだ。

もともとみおさんは糖分がよくないのだとぼくに教えてくれていた。ぼくはぜんぜん意識していなかったのだが、ここ数年はずっと「糖質オフ」だとか「糖質ゼロ」というのが缶チューハイのトレンドだったらしい。言われてみればよく聞くフレーズである。しかしその結果、味気なくなったこの業界に糖分をこんもりと盛った檸檬堂が際立っておいしく感じられる。それがからくりのようだった。

それを知ってしまうと、びっくりするくらいあっさり僕は檸檬堂さんとの別れを受け入れられた。やはり太りたくないし、あああれは糖の味だったのかと思うと、なんだかとてもつまらなく感じてしまったのだった。

そんなわけで冷蔵庫には再び氷結が戻ってきた。これからの季節、本当はビールがいいんだけれどね。

まだお酒を飲むには十数年早い君は、今日はやたらとヤクルトの匂いが漂っていた。ばあばにもらって飲んできっとこぼしたのだろうな。ばあばの家には飲むヨーグルトもあるし、最高だよね。冷蔵庫にプリンがあるのも見かけたぞ。あれはやはりばあばが君に与えるために買っておいてるんだろうな。

今朝なんてわりとお米もちゃんと食べてからばあばの家に行ったはずなのに、リビングのテーブルの上に食べかけの蒸しパンを見つけるやパクッと食いついていた。蒸しパンもだいたいばあばの家には常備されているよね。

そのせいなのか、年相応なのか、君の腹もなかなかぷっくりしている。なかなか立派なものだと思う。これからもう数年で方々から女の子は痩せてなきゃダメよねみたいなメッセージが飛び込んでくるようになるんだろうけれど、どうかそういうのをうまくかいくぐって私は私よと突っぱねられる強さを育んでいってほしい。

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