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終了1時間前の幸運 : 支笏湖−2 

支笏湖ー2とあるが、支笏湖にいくのはこれで9回目。
2022年に初釣行し、3回。2023年は4回、今年はこれが2回目。
関東在住の身だから、航空チケット、レンタカー、ホテル代とばかにはならないが、それでも行きたいと思うのは、80cmクラスの美しいブラウントラウトが釣れる可能性が日本で一番高いと思っているから。

以前ヨーロッパに住んでいたことがあって、そのときもオーストリアの湖でブラウンをよく釣っていた。ヨーロッパでは鱒といえば、ブラウンなのだ。北の方へ行けば、降海型のシートラウトも釣れる。これは1mくらいにもなる。面白いのは、湖にいるブラウンの中でもSeeforelle、という言い方をすることがあって、ドイツ人の同僚は、これを「レイクトラウト」と英訳していたが(もちろん北米原産のあの魚とは違う)、これはブラウンの中でも銀化したもので大型の魚をさすらしい。

日本に戻り、鱒釣りを再開したときに、支笏湖には居つきの黄色のブラウンと、銀ピカの回遊性のブラウンの二種類がいる、という話をどこかで聞いて、ああSeeforelleだな、と思った。

私はヨーロッパではブラウンはたくさん釣ったが、Seeforelleは一匹しか釣ったことがない。ちょうど50cm、決して大きくはなかったが、ドイツとオーストリアの国境の湖でたまたま釣れた、シルバーに輝く魚体の、傷一つない、均整の取れた美しさは、本当に忘れ難い。ドラグを何度も引き出すファイトを繰り返した後、やっとネットに収まってくれたその魚を、惚れ惚れと、5分ほども眺めていたものだ。

コロナ禍の数年前、オーストリアの湖にて

支笏湖なら、そんな魚と出会えるかもしれない、しかももっと大きいサイズに。そう思って通い始めたのだが・・・今回の釣行で、それを現実のものとすることができた。


SNS等で、5月中旬ごろから蝉ルアーで良い魚を釣っていらっしゃる現地のアングラーの方々の様子を見ていたし、実際釣友のひとりも下旬に支笏湖に釣行し、いいブラウンをキャッチしていた。自ずから表層系に対する期待は膨らんでいたし、初日も朝一のシャローチェックにクランクからスタートしたのだが、かかったのはエゾウグイだけ。

ブラ、虹、アメ、サクラときてウグイ。あとチップを釣れば支笏湖コンプリートか。


そうこうしている間に風が強くなり、湖面がやや波立ち始めた。湖岸でお会いした地元のアングラーの方、先週この辺で蝉で結果を出されたらしいのだが、「この波だとちょっとやりにくいですね・・。」とおっしゃる。
背にした山からは、蝉の鳴き声は聞こえるが、湖面に落ちた蝉だったり蝉ルアーだったりをどこまで魚が認知してくれるものか、また風と波はラインメンディングも難しくする。でも、魚にしてみれば、栄養価の高い餌が供給される絶好の時期だし、風波がどうあれ、岸は意識しているはず。そう考えて、風が少し収まれば蝉、吹けばクランクかシンペン、とあくまでシャロー・ブレイクを意識した釣りで、夕方までランガンするも、残念ながら湖から反応が返ってくることはなかった。


二日目、は13:00の飛行機に乗らねばならぬ。色々な作業を考えると、9:30がタイムリミット。昨日より30分早く、4:00スタート。
が、ほぼ完全なベタ凪に苦悩する。ブレイク狙いで次の岬まで歩き戻ってきて6:00。ノーバイト。昨日は浅場に稚魚の群れが入ったりと生命感があったのだが、今日は朝から魚っ気が感じられない。そんな状況が自信を失わせる。
白く靄がかかったように雲に覆われた空、魚にはどう見えているのか。

この場所は、昨秋も、前回の釣行でも朝に魚を釣っているから自分なりに自信を持てていた。この時間、ほかの場所には、アングラーが既に入っているはず。ブレイクがだめなら、タイムアップまで沖を狙って回遊まちをすれば良いし、陽が上がって、蝉が鳴き始めれば、時間ギリギリで、もう1度トップをトライできるかもしれない、というのが昨夜考えた計画。

ホテルで考えた計画と、現場での勘や気持ちのどちらを優先するべきか。PDCAが回せる環境にあるなら、粘ってみて成功でも失敗でも、結果を経験値として次の釣行に活かせばいい。しかし、私にとっては、一回一回の支笏湖釣行は人生の一大イベント。ここで移動しなければ後悔しそうな気がした時、踵を返し、車に向かって斜面を登っていた。


車で移動し入ったポイントは、よりディープが近いところ。ちょうど先行者の方が出られるタイミングで、ラッキーだった。蝉で出たけど乗らなかったよ、とご親切に教えていただいたが、なぜか、もう蝉ルアーは使う気が起きなかった。

スプーン10gで、沖の表層からブレイクまでを流す。5分くらいで魚の手応え。するする、っと寄ってきたのは、シコブラ、というには少し、いや、だいぶ小さいブラウントラウト。

もちろん狙っているサイズではないが、鱒が釣れること自体が嬉しい。少なくとも、北海道まできて坊主ではなかった、と言っていいかな?
感謝しながらリリースし、さて、次。とキャストを続ける。

スプーンで一流ししたあとは、さらに沖へ。ジグミノーなみに飛ぶシンペンをキャスト。多分60mくらいの距離を投げて巻き続ける。

何分か経って、着水から10巻くらいのところで、ティップに重みが乗った。この時よく慌てず、竿を捌くように合わせて、さらに体をひねってしっかりとフッキングさせたよなあ、と今でも思う。待望のバイトだったのに、極めて冷静に対処できたのは、それだけ妄想の中でイメージトレーニングを繰り返してきたからだろうか。

8フィートの竿が大きく曲がる。手応えから先ほどのブラウンよりも全然大きいことはわかる。魚がこちらを向いている間に強めのドラグで巻き続けて距離を詰め、ロッドを掲げてブレイクをクリアしたい。シャロー側に入ってしまえばこっちのもの。

ブレイクのところで魚は反転し、波紋の中にゆらっとシルバーの太く大きい魚体が浮かぶ。デカイ。一気に緊張が走り、ネットで掬えるだろうか、という不安がよぎる。浅瀬に誘導してしっぽから掬ったほうが良いかもしれない、とドラグを引き出して抵抗する魚をいなしながら、少しづつ誘導する。

オーストラリアで出会った魚のように、強烈なダッシュを見せるわけではなく、ひたすら重く、パワーのあるファイト。首を振るたびにバレそうな気がして神にも祈る気持ち。10m手前まで来て、魚体が完全に見えた。太い。必死になって浅瀬へ浅瀬へと。泳げなくなった魚が横を向いた、よし、獲った!

今考えると、フッキングがそうだったように、もう少しスマートなランディングができなかったかと反省する。こここそ、しっかり妄想のイメージトレーニングを行うべきだったのに。
獲った、そう思った瞬間、横になった魚は浅瀬で暴れ、慌ててリーダーを手にして引っ張るとリーダーは切れ、魚は泳ぎだし、私は必死になって魚に覆い被さって押さえつけ、上半身ずぶ濡れになりながら、なんとか確保したのだった。

ネットには完全に入らない。急いで岩場の水のあるところへ。そして鰓に酸素が入るだけの深さのイケスをつくって、一息。時計を見ると8時過ぎ。タイムリミットまで1時間余り。

ここで初めて落ち着いて魚を眺めることができた。シルバーに黒の斑点を身に纏った魚体。先ほど釣った小型がそうであるような、朱点はない。
記憶に残るあの魚は、きらきらと輝くシルバーの魚体だったが、この魚は、いぶし銀の鈍い光。成長し、老成すれば、あの魚も最後はこんな貫禄ある銀色になる、あるいはなったのだろうか。

支笏湖の回遊系ブラウン、又はSeeforelle、71cm。



いや、実はメジャーを当てるまでは80cmあるかも、と思っていました。
これで70cmということは、80cmの大きさ、太さって一体・・・。

いつか釣りたいものです。もっとスマートに、魚にも極力負担をかけずに。

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