七ツ樹(ななつき)

物を書く、ちょっとずつ書く。美味しい物と生き物が好き。

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最近の記事

ある赤い実としょうもない孫のはなし

三十路の日々も折り返しをすぎたというのに、この歳に至っても、私はちょっとしたクソ孫である。 昨夏の私には、コロナ禍以外にも嘆きがあった。 私には愛してやまない漬物がある。私にとっての無二を、漬物というジャンルでカンタンにくくってしまうのはなんだか納得いかないのだけども、一応漬物だ。 それを祖母が漬けなかったのである。 「来年は…来年は…どうかひとつお願いします。できればいっぱい」 矍鑠として90代を謳歌する祖母へ、まだも厚顔におねだりするなさけない中年は無論私で、しかも必死だ

    • 【短編小説】誰か、このさえずりを聞け

       翼をさずけてくれるんでしょう?  ひとりよがりな願いをかけ、一気に飲み干したエナジードリンクは、舌と喉をチクチク刺しながら胃に落ちた。仰いだ空は、泣き出しそうな私みたいだ。  コンビニを出て銀色の自転車にまたがると、薄いグレーのセーラーの襟に、ポツポツと濃い灰色のシミができはじめる。雨粒はみるみるうちに大きくなって、夕立よりはゲリラ豪雨の様相だ。傘もなしに突っ切って、私はただ、こぎにこぐ。  いま、私の中に真っ黒い渦がある。ここからどうにか逃げなきゃならない。  雨に濡れ

      • 最近のこと(作品書籍収録・公募結果)

        夏も終わりに近づくこのごろ、すっかりこちらでの執筆も久しぶりになってしまいました。昨年しばらく、海外ドラマ「アンという名の少女」に熱を上げ、感想記事を書いていたのですが、途中で「?」が多くなりすぎてシーズン最後まで視聴したものの急激に熱が尻つぼんでしまったため、当時の記事は現在非公開にしている次第です。 いいところもとても多かったんですが、アンの物語としての必然性を見出せないことも多かったというか……。 余談ですがそのドラマを視聴後、私に空前の西洋時代劇ブームが訪れ、動画の

        • いつかのザクロ

          『ザクロかあ、もうあんまり食べなくなったなあ』  弟からの返信は簡単なものだった。他愛ない雑談。  なのに、ポツンとひとりきりになったような感覚が、ひどく胸に沁みたのを覚えている。  秋深まるころ、祖母は毎年ひとつ大きなザクロを買ってくれた。  そしてそれをいつも三つに割ってくれたものだった。  赤い皮に包まれた果実の中には、すこしの隙間もないほどびっしりと真っ赤な実が詰まっている。私たち三きょうだいは白い薄皮をはぎ、ザクロを夢中で割りながら、自分のザクロがいかに赤い粒に

        ある赤い実としょうもない孫のはなし

          あちこち向く私の横顔

          七ツ樹七香(ななつき・ななか) 子ども向けから一般文芸までいろいろ、日々、ちまちま書いています。 短編の文学・小説賞でいくつか賞を頂戴していて(賞詳細は後述)、 ちょこっとずつ本や冊子に載せてもらっています。 所属は熊本県文化懇話会、日本児童文芸家協会です。 ■普段していること■記事・コラム執筆(WEB記事、エッセイ執筆) 2018〜2020まで新紀元社のWEBサイト「パンタポルタ」でファンタジーや歴史、雑学についての記事を執筆していました。 やわらかく読みやすい(と言って

          あちこち向く私の横顔