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消えゆくのも5Gのスピードで

How to Sell Drugs Online (Fast)というドラマをご存知だろうか。

Netflixでのみ配信されているオリジナルコメディドラマで、ドイツを舞台にして「好きだった女の子に振られ、寝取られた相手がドラッグを持っていたからと妬み、再びアピールするためにドラッグをインターネットで販売する」という話だ。絶対に日本では制作できないエキサイティングさを持っていながら、最先端の映像表現(スマホでのやりとりをそのまま表示したり、削除したり、エクスタシーによる幻覚を3Dで表現したり)が使われている僕のお気に入りドラマだ。

この物語は実際にドイツのライプツィヒで起きたことにイマジネーションを受けた、とWikipediaには書いてある。ライプツィヒでの事件はおそらくこれ。年数と場所、シチュエーションが一致する。「ドイツのティーン・エイジャーが母親のアパートから1トンのドラッグを捌いた」とタイトルが付けられている。まさしくHow to Sell Drugs Onlineだ。

さて、それと(あるいはそれらと)"消えゆく"というタイトルの何が一致するというのか。2019年の5月末にリリースされたこの作品は、制作元であるドイツ語、英語だけでなく、各国語に訳され、日本語でも見ることができていた。僕がHow to Sell Drugs Online(Fast)を最後に観たのはNetflixの契約時期から推察するに2019年の9~11月ごろ。あまりに現代人を的確に表す表現の数々に衝撃を受け、ケタケタ笑いながら、一晩で全話見終えた覚えがある。しかし、それからはNetflixの悪魔と契約しないよう、一度解約し、しばらくサブスクリプションの動画サービスとは距離を置いていた。

月日は経ち、僕が2020年3月になって(エヴァを全話見直したくなったため)Netflixをもう一度契約したとき、マイリストに入っていたHow to Sell Drugs Online(Fast)を開くと、字幕欄から日本語字幕が消えていた。僕は確かにそれを日本語字幕で観てケタケタ笑っていたはずだったのに、字幕の表示欄には出てきていないのだった。

最初、実はすべて英語で観ていたのではないかと自分を疑ったが、それはありえなかった。日本語での記事も検索すれば出てくるし、何よりそこまで読解できるほどの英語力を持ち合わせていない。英語字幕で見直しても、日本語でのおぼろげな質感が思い出されるだけで、英語そのものの質感は覚えていなかった。僕は不思議に思った。観ていたはずの日本語字幕は一体どうなってしまったのか。

つまり、日本語字幕は消されたのだ。内容が内容だけに、さらに最近の日本でのドラッグへの規制の厳しさを鑑みてか、半年も経たないうちに、日本語字幕は無慈悲なまでに跡形もなく消えてしまったのだ。なんということだろうか。もう二度と日本語で観ることはできないし、今後配信されるであろう新シーズンが日本で配信されるかどうかすら怪しい。全編英語になったとしても解読してやるくらいの気持ちではいるが、そもそも日本で配信されなければ観ることすらかなわない。

インターネットによるストリーミング配信が日常となった今、その恩恵は光の速さで受けられる反面、それが何もなかったかのように消え去るのもまた、光の速さだ。ソメイヨシノの桜の花が入学式を待たずに散るように、Netflixの字幕は想像よりも早く、儚く散ってしまったのだ。

観たいものは早く観たほうがいいし、好きな人には会えるときに会った方がいいし、そのためならお金は払えるうちに払っておいたほうがいい。これから5Gに突入しようとしている現代より、はるか前から適用され得たはずだった。

追記:
どうやらアカウントが英語だと日本語字幕が出てこない模様で、日本語のアカウントでよくよく確かめると日本語字幕が確認できた。まだ見られるみたいだ。それが確認できたことによって、この記事は一気にナンセンスさが増してしまった。
しかし、僕のスタンスは変わらない。これも"観られるうちに観ておきたい"もののはずだ。いつ字幕が消されるとも分からない。できることをできるうちに。

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