駐妻の財布

駐妻生活前後の財布事情(外側)

渡航前

駐妻になる前使っていたのは、百貨店で購入したブランド物の長財布だった。金運が上がりそうな派手な色で、たくさんのカードが収納できる、中身が空っぽでも大きくて重たい財布だった。

渡航の時点で1年も使っていなかった。新品の財布を新天地でも使っていくと思っていた。

防犯

先に渡米した夫からは、よく治安・防犯関連の話を聞いた。
曰く「財布は盗られにくいものを」。

出国直前に、慌てて安っぽいカバンと財布を購入した。
金持ちだと思われてターゲットにされないようにするためだった。

引越後、日本で使っていた高級ブランドの財布には日本円の現金を入れて家の中に隠した。
ふにゃふにゃの財布をカバンやズボンに百均のチェーンでつなげて外出するようになった。

日本人村

日本人が異様に多い場所に住んでいた時、ふと周りを見回すと他の日本人は皆ブランド物の財布とカバンだった。

犯罪発生率はそんなに低くなかったので、私はどうしても防犯面が捨てきれず、みすぼらしい財布とカバンを使い続けていた。

当時はこうしたことでも自意識過剰に考えていた。
「他の日本人に馴染めていない…」「私は他の日本人とは違う…」
まるで自分だけが地に足付けて防犯を意識しているつもりの「しっかりした奥様」気取りだった。

自分が他の人と違うのは、性格の悪さや人の持ち物をチェックしている浅ましさが突出していることくらい。
馴染めないのは持ち物のランクの違いのせいではなく、自分から行動を起こしていないか、単純に運悪く相性の悪い人しかいなかっただけだ。

当時はそんなことにも気がつけないくらいにはバカだった。

本帰国

村のような日本人コミュニティから脱出して数年、別の場所で暮らしてから本帰国することになった。

引越の度に空き巣に狙われないよう工夫を凝らして隠していたブランドの財布をひっぱりだした。
その財布を購入してからは結構な年数が経っていたが、帯同生活中は全く持ちださなかったので新品同様にきれいなままだった。

財布を持ってみると、日本を出る前で止まっていた自分の中の何かの時間が動いたような気がした。

帰国便から降りて、ペットボトルの緑茶を買おうと財布から日本円を出した時「もう自分を貧乏に見せなくて良いのだな」と帰国を実感した。

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