依存の切れ目(掌の力を弄ぶ)

昔もらった手紙や 互いの輪郭の判断がつかなくなる程 

近づいて撮った写真

読み返したり 写真の中にトリップしてみたり

雨で消えた足跡の中 目を凝らして君の形を探すのは少し恥ずかしい

だからこの土地で一番高い所から 指をくわえて見送るよ

君がどんどん前に進んでいくのなら

僕はどんどん還って(かえって)いこうか

君が塵(ちり)ほどにしかみえないところまでいって僕を確かめてみようか

僕は君のことを好きでありながら苦手としていた

逆に言えば苦手なのに好きになったんだよ

どうすれば良かったのだろうね 結局この様(ざま)だけど

少し苦しい想いもしたよ たくさん苦しい想いをさせたね

僕にはいつも持て余している言葉があったんだ

本当は君を膝の上へ置いて 後ろから君の髪の毛を僕の息で震わせながら

聞かせたかったけれど


君はひとり歩いていて椅子をみつけるんだ 戸惑う必要なんてない

椅子はどこを見渡しても それひとつしかない

選びようもなく君は座る そして喜ぶ もう自分の足で支えなくてもいいからね

ただ少し時が経ち 君は気づいてしまうんだ

この椅子はここから持ち出せない

つまり椅子に座っている限り 自分に今以上の刺激はない

ここから一歩も駒を進めることなど出来ないとね

だけど反面 そのぬるま湯から抜け出すのが億劫でもあるんだ

居心地が悪いわけはないのだから しかしもう君の考えは止まらなくなるんだ

もしこの椅子の他にも幾つか椅子があったとしたなら

私はあの時これに座ろうなどと思っただろうか

もし今初めてこの椅子をみたのだとしたら 私はこれに愛着など湧いただろうか

とめどない疑念が君の体中に蔓延り(はびこり)君は椅子から身を離すんだ

座りすぎて少し足先が痺れているのかしばらくの放心を終えたのち 

君はその場を離れる

右足に力を与え 左足に力を与え 前へと我が身を送り出すんだ

残った椅子 

そこに目を向けて欲しいんだ

重みを失くした椅子は初めて乳歯が取れてできた空間のような気持ちでいるよ

だけどもっと痛恨の一撃なのは君がもう一度戻ってきた時にそこに椅子がない時かもしれないね

動くはずのないものだから少し安心して離れていけたのにね

それはそうとして ついこの間のこと

僕しか生きていることを知らない子犬がいたんだ

その犬は僕だけ映して死んだ

こんな広い世界の中でこんな何の役にもたたない僕

子犬はそれをみる為だけに生まれてきたはずじゃないけれど

結果としてそれをみる為だけに生まれたみたいだね


どうしてこんな話をしていたんだっけ

ところで君は右のほうにある星空を 僕は左のほうにある星空を

どこがどう違うとも言えず同じようなふりをしてみつめていたね


野犬の遠吠えが響くから耳を傾けてしまう

僕の愛も傾いた器に注ぐから零れ(こぼれ)続けてしまうのかも


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