2020/08/26; I氏の夕方

友達のIくんの話をしよう。

彼と一緒にラーメンを食べに行った。その日は帰りが遅くて、俺もIくんもお腹が減ってしかたなかった。どこでもいいから近くの店に行こうと適当に調べた結果、見つかったのがそのラーメン屋だった。

昔から夫婦でやってるような、街のラーメン屋だ。俺は豚骨ラーメンと餃子を注文した。たまたまIくんも同じメニューを注文していた。程なくして、ラーメンが来る。

何ぶんお腹が空いていたものだから、2人とも無言で麺をすすった。端から見ると、ただ無心で食べているかのように見えただろう。が、実際は違う。口には出さずとも、当然考えはある。このラーメンは美味いのか。胡椒を入れてみたらどうか。餃子はどんな味か。そんなことを考えているわけだ。

正直、ラーメンは普通だった。取り立てて美味いわけでもなく、不味いわけでもない。しかしここで俺が思ったことは「物足りないなぁ」とか「これなら来なくてもよかったな...」ということだった。

店を出る。しばらく歩いた後、Iくんにさっきの店の感想を聞いてみた。

「さっきの店、どうだった?正直俺は微妙だったんだけど」

「あぁ、めちゃめちゃ普通だった。けど、定食屋とかってあんな感じだよね。昔よく地元で行ってた定食屋を思い出して、懐かしくなったわ」

衝撃が走った。
彼は味にはあまり満足しなかったようだが、あの懐かしい雰囲気でそんなことはどうでも良くなり、むしろ好感を覚えていた。俺は味が普通だったからそれだけで評価を下げていたのに。

どうやら俺は「美味しいものを食べる」ということにとらわれ、食事中に味以外を楽しむ術を忘れてしまっていたようだ。「あんまり美味しくないからもう次回はないな」などと思ってしまっていた俺の傲慢さに、ただただ申し訳なく、恥ずかしくなった。

最近、美味しいことで有名なラーメン屋を巡っていたためか、俺の舌はいつの間にか醜く肥えてしまっていた。Iくんの言葉でそのことに気づけた。これからは、自分なりに美しい舌の肥やし方を見つけていくつもりだ。そう、Iくんのように...。

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