2021/01/29; 見習い

ここ最近、残業が多い。要領が良くないので、いちいち作業に時間がかかるのが主な原因だ。実験しながら、資料を作りながら、自分の能力の低さに呆れる日々を送っている。とは言っても、健康に支障を来すほどではないし、特にネガティブな気持ちがあるわけではない。

はたから見ると辛そうに見えたのだろうか。ある先輩が、疲れた時は休みなよ、と心配してくれた。その先輩はとても頭が良く、けどそれを一切鼻にかけることのない、ものすごくできた人だ。こっそり目標にさせてもらっている。そんな先輩に心配されたものだから、嬉しい一方、緊張して返答に少し詰まってしまった。

あまり間が開くのも変だからとりあえずなんか言わなきゃと、苦し紛れの「大丈夫です!」を放った。言い終わってから、変なイントネーションになっていたと気づいた。「本当に大丈夫か?」と思われたに違いない。あぁ、何故言ってしまったことは取り消せないんだろう、LINEなら消せるのに...。僕が自分のコミュ障ぶりを呪っていると、先輩は思いもよらないことを口にした。

「実は俺、残業多くてやばなったことあんねん」

先輩は数年前に、仕事が原因で体調を崩してしまったらしい。運良く何とかなったけど、深みにハマると戻って来られなくなる、そう語る先輩の目は真剣で、誰にも同じ思いをさせたくないという気持ちが伝わってきた。

僕は驚いていた。あんなに優秀な先輩だから、てっきり入社当初から頭角を現し、順風満帆な生活を送ってきたのだと思い込んでいたからだ。それは幻想だった。幻想と言うより、僕の身勝手な願望だった。

僕は心のどこかで、「あの非凡な先輩は、僕と違って悩みなんかないんだろうな」と思っていたのだ。そしてその考えを、自分ができないことの言い訳にしていた。自分は先輩と違って凡人だから、できなくてもしょうがないんだと。

僕は大きな間違いに気がついた。これまでの僕にとって、先輩は「優秀な先輩」以外の何者でもなかった。優秀な先輩であることに間違いはないけど、それ以前に、先輩も僕と同じ人間なのだ。僕と同じように悩むことだってある。今の姿は、悩んだ末に答えを出したことで手に入れたものなのだろう。

僕は決意を新たにした。もう「自分は凡人だから」と言い訳するのはやめにしよう。能力は足りないかもしれないけど、自分のやれることを見つけ、広げていく。そうすれば、目標とする先輩に近づいていけるんじゃないかな。先輩、これからもついていきます。

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