2022/02/23; 『熱帯』の謎

「俺が考えたのはね、もし色々な本が含んでいる謎を解釈せず、謎のままに集めていけばどうなるだろうということなのよ。謎を謎のまま語らしめる。そうすると、世界の中心にある謎のカタマリ、真っ黒な月みたいなものが浮かんでくる気がしない?」

これは、森見登美彦『熱帯』で語られるセリフだ。今日この本を読み始めて、このセリフを目にして、これは素晴らしい本に出会ったぞ…と打ち震えた。というのも、本、とりわけ物語が含む「謎」について、僕は興味津々だからだ。

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謎が解消された時、僕たちは一種のカタルシスを覚える。その究極系が推理小説で、謎の解消というはっきりとした目的のもと、物語は進んでいく。しかし、こうは考えられないだろうか。謎が全て明らかにされた時、読者が物語に入り込む隙は閉ざされてしまう、と。主人公が事件の真相を詳らかに語ると同時に、読者の練り上げた想像はガラガラと崩れる。その結果、読者は物語の世界から閉め出されることとなりはしまいか。僕は推理小説を読むと妙な疎外感を感じるのだが、その正体はこれであろうと思えてならない。

しかし僕たちが本を読む目的は、謎を解消することだけではないはずだ。

僕が本を読んでいて1番楽しい瞬間、それは自分が物語の中に紛れ込んだように、物語と一体化する瞬間だ。その瞬間は、文章では語られ得ない「謎」に思いを馳せ、自分なりの想像でその空白を埋めた時に訪れる。いわば「謎」は、物語と自分を、物語と現実を媒介する裂け目なのだ。

そう考えると、「謎」は物語の最重要な要素と思えてこないだろうか。「謎」が残ること、それは僕たちがまだ物語に入り込める余地が残っていることを示しているのではないだろうか…。

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『熱帯』は、どんな「謎」を残してくれるのだろうか。先が楽しみで仕方がない。

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