夏ノ鎖 感想(ネタバレあり)
1.はじめに
どうもこんにちは。名ギ同の八六です。以前に個人の方で投稿したものの再掲ではありますが、名ギ同のnoteができたのでこちらでも掲載させていただくことになりました。『夏ノ鎖』はCLOCKUP制作のエロゲーであり、暴力描写やレイプ描写等の少しきつい表現を含む作品です。その点をご了承した上で、本記事をお読みください。
2.シナリオについて
このゲーム、まずシナリオがとてもいいです。作品全体を通して、鬱屈とした雰囲気が漂っており、可愛いヒロインとイチャイチャドギマギして最後は大団円という作品たちとはまた異なった味のある作品だと思います。また、フルプラじゃないにもかかわらず、文量とルート分岐も豊富であり、とても楽しめました。攻略順としては、BAD→TRUE?→BAD→BAD→TRUEでやっていて、最後のTRUEはおそらく全ルート通った後に開放されます。最初のBADでは、ヒロインである美月を勢い余って殺してしまい、悲しみに暮れるというエンドで救いようがありません。次に見たTRUE?は、今作品で一番心に残ったエンドです。主人公は、美月の家に彼女のドレスを盗りに行った際、美月の父親とひと悶着あったことから、美月に対する考えが少し変わり、彼女が表面的には、自分に隷従しつつあるが、彼女が心の底から折れているわけじゃないことに気が付く。そうして、結局は美月を逃がして、美月は助かり、自分は少年院に入ることになる。そうして、少年院を出て更生した主人公は、タクシードライバーになる。そして、その仕事中、主人公によって引き起こされた過去の凄惨な出来事を乗り越えた美月に再開して、とくに言葉を交わすことなくエンディングを迎える。このルートでは、終始諦観的であった主人公と監禁中も希望を抱き続けていた美月が最も対照的に描かれているルートだったと思う。このルートは実際に読んでみないと、その魅力がわかりづらいのではないかと思うので、ぜひ読んでみてほしい。
次のBAD、こちらはメリーバッドという感じでしたね。美月の心を折って、傷心した彼女の心の穴を埋める形で、主人公が美月の主人になり、それに美月も心から従うといった感じで終わる話でした。一見すると、とても幸福そうな終わり方です。しかし、このルートでは、最後に美月の体の調子が悪そうな様子が描写されており、このことからこのルートにおける幸福というのも長続きしないのだなと思わされるエンドでした。次のBAD、こちらは最悪のエンドです。美月が完全に心折られるという結末です。さっきのTRUEを見た後に見ると、かなり気分が悪くなりますね。あと、個人的にかわいそうは抜けない派閥の人間なので、どちらかというと興奮というよりも冷めた感じで見ていました。また、性器にヴァイオリンを挿入、からのヴァイオリンにゲロを吐かせるという尊厳破壊のオンパレードは見ていて、かなりダメージを負いました。このルートの主人公は特に嫌いです。
そして、最後のTRUE。これもかなりよかったですね。これはそもそも主人公が美月の誘拐を踏みとどまるという選択を取る話。人生にそんな刺激はないし、物事が計画通りにいくこともない。けれど、それでも普通に生きているというのがかなり心に響いた。そして、主人公は、年を重ねてから初めて行った同窓会で美月に再会する。美月は、あの誘拐を踏みとどまった夜のことを覚えていた。そうして少し会話を交わした後、それじゃあと言って離れていく美月とそれじゃあという言葉を反芻する主人公。けして幸福ではないかもしれないけれど、不幸でもないといった終わり方で、一夏の空想に生きていた少年が偽物だと思っていた現実を生きていくことを改めて決意したことを示唆していると感じました。
また、美月という名前について、月というのがまたいい味を出していると思った。勝手なイメージですが、月というのは太陽よりも身近だけれど、届かない存在だと自分は考えています。昔の人々は月のことをよく和歌に詠んでいるし、夏目漱石は月に恋心を託したりもしている。この作品では、ついぞ美月=幸福に主人公が到達することはない。そこがいいなと思います。美月の歩む道、つまり自分の好きなことを職にして、そこで結果を出す、これが誰しもが望むとまでは言えないかもですが、一種の幸福の理想形ですよね。けれど、そこに至れない人なんてのは、ごまんといるわけです。そういった人たちへのメッセージも含んでいるのかななんて深読みもしました。見当違いかもしれませんが、そういった読み方もできるんじゃないかなと思わせてくれるくらいいい文章でした。
3.音、グラフィックについて
音楽は割と単調に感じたが、そこが主人公が現実世界を、そういった単調な世界と認識しているのかなと感じられる気がしてよかったと思う。音楽は門外漢なのであまり多くは語れません。声優さんに関しては、素晴らしかったの一言です。ヒロインを担当されている葵時緒さんの演技は緊迫していて、主人公のやることを心から嫌がっているのが伝わってきてよかった。まだ心が折れていないシーンでのHシーンと折れた後でのHシーンでの演じ分けもまた見事だと思う。正直、かなり好きな声だったので、他作品でも見る機会があるとうれしいなと思いました。
グラフィックについてですが、エロくていいっすね。サークルの先輩曰く陰毛の書き方が素晴らしいとのことでした。表情差分もとても多くて、ほんとにこれフルプラじゃないの?ってなるくらいでした。とにかくHシーンには力を入れているといった印象ですね。スカトロ描写等あるため、好みが出るとは思いますが、楽しめる人はとっても楽しめると思います。個人的には、美月がネコの恰好をしているシーンが好き。猫耳つけた女の子っていいよね!
4.総括
総じて、素晴らしい作品だったと思う。点数をつけるのなら、83点。この思春期特有の鬱屈とした雰囲気と複雑な感情の渦巻く読後感を味わえる作品は珍しいと思いました。ネタバレを少ししていますが、実際に文章を読んだときに何を感じるかは人それぞれだと思いますので、この記事を読んだ未プレイの方はぜひプレイしてみてください!