腎臓病が治る?!世界初のクスリの話。
腎臓。
私たち人間の体にとって必要不可欠な臓器です。
腎臓は、
単に尿を生成しているだけではありません。
血圧を調節するホルモンや、
赤血球を産生するホルモンの分泌など、
身体を健康に保つためになくてはならない多くの働きを担っています。
そんな腎臓の働きが悪くなってしまう病気が
「腎臓病」です。
この「腎臓病」というのはこれまで、
治らない病気とされ、
症状が進行していくと人工透析の治療を死ぬまで続けなければ生きていくことができない病とされていました。
しかし今回、ノーベル医学生理学賞を受賞した「細胞の低酸素応答」というメカニズムが解明されたことで、
腎臓病が「不治の病」から「完治する病」へと変わろうとしているのです。
今日はその具体的な内容と、
腎臓病が治る画期的なクスリについて
分かりやすく簡単に説明しようと思います。
まず大前提として、
腎臓病を患った患者さんは多くの合併症を引き起こします。
その中でも最も顕著な合併症が、
赤血球が産生されにくくなることによって引き起こされる「腎性貧血」です。
もう少し詳しく説明すると、
腎臓の機能が慢性的に低下することで、造血ホルモン(EPO)が産生されず、骨髄への造血刺激がなくなることで、貧血が引き起こされるということです。
現在、この腎性貧血に対する治療としては、
腎臓からの分泌が低下してしまった造血ホルモン(EPO)を補充する形が主流となっており、造血ホルモンが補充されることで、骨髄での造血反応が起こり、赤血球を産生することができるので、貧血状態を改善することができます。
まとめると、
腎不全により造血ホルモン(EPO)分泌が低下
↓
不足した造血ホルモン(EPO)を薬剤で補充
↓
骨髄において造血反応が進み、赤血球が産生される
↓
貧血の改善
しかしこれは、その場しのぎで不足したホルモンを補うだけの対症療法としか言えず、腎臓の機能自体の根本的な改善ではありません。
そこで今回発見された「低酸素応答」のメカニズムです。
今回新たに発見されたHIF(ヒフ)と呼ばれる因子は、低酸素の状態を感知すると発生し、低酸素状態を脱するために全身に酸素をいきわたらせるための赤血球を産生しようとします。
赤血球を産生するためのホルモンは先ほど述べたように腎臓から産生される造血ホルモン(EPO)ですから、
これもまとめると、
HIF刺激薬の投与によってHIFが活性化
↓
HIFが造血ホルモン(EPO)を産生
↓
骨髄において造血反応が進み、赤血球が産生される
↓
貧血の改善
という流れになります。
現在まで主流とされていた造血ホルモン(EPO)自体の補充と比べると、
その前段階のHIFを刺激することになるため、
体内でのEPO産生機構を活性化するということになり、より生理的な機序で貧血を改善することができるのです。
さらに、造血ホルモン(EPO)自体を補充する場合の方法は基本的に注射による静脈内投与ですが、HIF刺激薬は小分子化合物として経口内服が可能です。
これも人工透析を導入する以前の慢性腎臓病患者にとっては特に大きなメリットのひとつで、病院に通院して注射治療を受けずとも、自宅で内服する薬によって腎機能を改善することができるということです。
このHIF刺激薬を日々内服することで、人工透析を導入しなくてよい可能性が出てくると同時に、腎臓の機能自体の改善にも繋がってくる可能性が高いとされているのです。
さらに、HIF刺激薬はEPO産生機構を活性化すると同時に、体内の鉄利用効率を高めるため、EPOによる造血反応のスピードを加速させるという可能性まで秘めています。
少し難しい話だったかもしれませんが、
とにもかくにも今回ノーベル医学生理学賞を受賞したこのHIF因子の発見は、今後の腎不全患者にとってとても明るいニュースだということです。
毎日、透析患者さんと交流しながら透析室で勤務している私にとっても、今回の研究成果はとても大きな希望の光にみえます。
実際に腎不全患者に対して処方されるこの「HIF刺激薬」はすでに臨床試験の第三相試験にまで及んでおり、現場で使用され始める時期も刻々と近づいてきています。
HIF因子は腎臓だけでなく、全身の細胞に存在していることから、
今後の研究が進むにつれて、がんの進行を抑えることができたり、各器官の機能を改善させるなど、より多くの医学の世界に貢献していくだろうと感じます。
こうして長年の研究の成果によって、
今現在の医療があり、
そして今後も進歩し続ける医学の世界。
私が生まれる前から研究し続けられてきたトピックが、30年以上もの時を経て世の中に普及し、当然の真理として根付いていく。
そしてまた新しい技術や真理で、従来の当たり前が塗り替えられていく。
すごい世界だなあと思います。
これこそが、人類が「健康」への道を追い求め続ける姿だと感じます。
私自身も、1人の医療者として、
よりよい未来と、人類の健康への道をそばで支えていく存在でありたいものです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?