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意味不明小説集

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自分の意味不明小説や、noteで見かけた不条理だったりホラーだったりする、星新一系の意味不明ショートショート(1頁漫画も)をまとめています。
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#意味不明小説

創作》彼女が僕を殺した理由

冷たい真冬の海。 空も海面も真っ暗に淀む中、僕は静かに浮かんでいた。 自ら好んで入ったわけではない。 恋人が僕を突き落としたのだ。   話は半年前に遡る   僕には付き合ってもう数年になる恋人がいた。 彼女の名前は、ユキ。 同じ会社で働いている。 美人だし、家庭的で、同棲してもう3年は経つ。 いい年齢なので、そろそろ結婚を、なんて迫られていたが、考えの甘い僕は決断できないでいた。 そんなある日、僕はちょっとした気の迷いで、別の女の子と一夜を共にした。 もちろん、

創作》コトバ集め

僕は世界の音という物を知らない。 言葉がどんな音で聞こえるのか、音楽がどんなものか知らない。 しかし、僕にはその人の発する言葉が美しいものかそうでないか、判る。 人は皆、言葉を発する時、羽を吐き出す。 美しい言葉なら純白に輝き、そうでなければ薄暗く、黒ずんでいる。 普通の人には見えていないようだ。 僕はその羽を「言羽」と呼んだ。 言羽は人の口から何枚か吐き出され、地面に落ちる前に消え去る。 たまに消えないで落ちているものもあり、僕はそれを拾い、ガラス瓶に集める事を趣味

創作》コトリの飼い方

「ねぇ、一つ頼みたいことがあるの」 付き合っている彼女がそう言った。 「私、明日から海外に仕事に行くのだけど、私のいない間、私の代わりにコトリの世話をしてくれないかしら?」 「コトリ?君飼っていたっけ?」 「えぇ。いつも一緒にいるの。淋しがり屋だから。でも仕事だし、コトリに構ってあげられないから」 「え、いつも一緒?」 「えぇ。今、私の肩にいるの。ほら、私のいない間、彼の言うことを聞くのよ?」 肩に向かってそう彼女が言う。 「え、ちょっと待って」 「今、貴方の肩に乗っ

創作》帰り道の猫

それは仕事を終えて、家に帰る途中のことだった。 「おい、お前」 頭上から声が降ってきた。 見上げると、太い木の枝にキジトラの猫が座っている。 「え、もしかして、今の……お前が?」 そんなバカな。 猫が人の言葉を話すなんて。 「ほかに誰がいる?」 信じられないという僕の表情など知る由もなく、猫はそう言った。 よく見れば、そいつは見知った猫だ。 近所の、おばあさんが一人で住んでいる古い一軒家の縁側でよく寝ている。 たまに玄関近くにいるので、声を時々かけたり、撫でたり

創作》引越し先の気になるところ

最近引っ越しをした。 築年数5年以内の、綺麗なマンション。 駅近で、見晴らしもよく、日当たり良好。 立地条件は申し分ないのだが、 1つだけ気になることがある。 実は水道の蛇口をひねると、 ざぁーっという水音にまじって、 死にたい、消えたい、いなくなりたい ボソボソと聞こえてくるのだ。 手を洗うたびに、 シャワーを流すたびに、 これが延々と聞こえ続けてくるので、 また引っ越すべきかどうか悩んでいる。

創作》ポスター

駅の改札の側の壁に、ポスターが貼ってある。 ダイエット食品のポスターだ。 ポスターの隅が少しだけ破れていて、悪戯心でめくってやった。 向こう側に、不健康そうな顔で笑う女の子がいた。 申し訳ない気持ちで、めくったところを元に戻した。 original post:http://novel.ark-under.net/short/ss/92

創作》私が手放したもの

その日は薄曇りの空だった。 けだるい朝、外に出るのも億劫。 しかし、行かなければ、社会的な信頼を失うだろう。 その日必要な書類を持っているのは私だけなのだから。 原付きで片道30分。 いつもの道だ。 通いなれた、なだらかな下り坂。 緩やかなカーブに合わせてハンドルをきっていた。 つもりだった。 タイヤは道に沿って大きなカーブを描くガードレールを目指していた。 近付いてくるガードレールの凹みまで、数えられるくらい、緩やかに時間が流れた。 気付いた瞬間にハンドルをきっ

創作》おにさんこちら

少し悩んでいることがある。 それは我が家での出来事。 大きめの部屋に一人暮ししているのだが、どうやら住人が僕以外にもいるようなのだ。 部屋でくつろいでいると突然浴室からシャワーの音がしたり、 トイレから出て電気を消して暫くするとまた電気が点いたり、 キッチンに立っていると靴箱を開け閉めする音がして、玄関を見ると靴が散乱していたり。 自分の頭がおかしくなったのか、と疑ったが、実際問題異常は起き続けている。 そんなある日、リビングで食事をとっていたらベットの上ではしゃぐよ

創作》明滅する世界

部屋の蛍光灯がチカチカと点滅し始めていた。 少し前からやばそうだな、と思っていたが、この繰り返される明滅はだいぶ気になる。 昔、部屋の蛍光灯が切れかけて点滅を始めたら、家の外も点滅をしている、そんな話を読んだことを思い出した。 新しい蛍光灯を買いに行こうと外に出た。 外でも部屋と同じ明滅が繰り返されていた。 これはマズイ。 あの話と一緒ではないか。 慌てて買いに行き、慌てて付け替えた。 部屋の明滅が止み、世界の明滅も止む。 ほっと安堵の息をつく。 そういえばあの話

創作》消された側のぼくら

マンガとかでさ、よくあるじゃん。 『タイムリープ』 主人公とか主人公に近しい誰かが、特殊能力で時間を巻き戻すってヤツ。 ぼくはそれに遭遇したことがあるんだ。 それはまー、びっくりしたよ。 キズだらけになったアイツは、病室のベッドで突然 「こんなはずじゃなかった」 「ごめん」 なんて、中二病かな?って発言したから、頭も検査した方がいいんじゃないと本気で思った。 でも、アイツは泣きながら銀色のブレスレットを触った。 すると身体が眩しく光って、ぼくは眩しさに思わず一瞬目を

創作》宛先

面倒臭がりな私は、自分のメールアドレスを電話帳に登録している。 友達に教えたりする時、管理者情報とか、携帯をいちいち弄るのが面倒だから。 登録者名は「じぶん」にしてある。 ある日、「じぶん」からメールが来た。 内容は 「死にそう」 と一言だけ。 気味が悪くてすぐ消した。 数日後、酷い風邪をひいて寝込んだ。 友達から 「大丈夫?」 とメールが来た。 私は熱で朦朧としながら返信した。 すると数時間後にその友人が 「返信が来ないから心配で来ちゃったよ」 と見舞いに来

創作》晴れ時々ネコ

ある朝、ネコの鳴き声で目が覚めた。 うちにネコは居ない。 近所で時々見かけるが、そんなに多くはない。 気になって窓を開けると、よく晴れた空からネコが降っていた。 意味がわからないと思うが、オレにもよく分からない。 三毛、黒、白、キジ、茶トラ、さばトラ、、、などなどなど、 あらゆるネコが空から、 キャットタワーの上から降りてくるように軽やかに、雲を足蹴にひょいひょいと、 降ってくる。 昔、ブタが降る絵本だかなんだかあったなぁ。 それのネコバージョンかな、なんて、 寝ぼけ

創作》スキマの

時間って奴は、消費すればいいだけのものだ。 そのうち無くなって、自分がこの世から消えれば、それでいい。 スナック菓子の袋を新たに開けながら、欠伸をした。 もう何時だ。 パソコンの画面には大量の文字。 くだらないモノから役立ちそうなモノまで情報が散乱している。 適当に摘み上げて、時間を消費するための道具として再利用する。 この画面の世界は、まるで自分の部屋と同じだ。 居心地がいい。 スナック菓子を食べながら、文字を摘み上げていた。 その時だった。 「おい」 何処からとも

創作》地球儀

月に一度、僕の地元では骨董市をやっている。 駅の近くにイベント広場って場所があって、そこに市が立つ。 古着物に古い置物、掛け軸に食器。確かに骨董品だと思う古い物からそうでないものまで、若干フリーマーケットも混ざったような、そんな市だ。 僕はその市によく足を運んだ。何か面白い物に出会えそうな気がして。 古びた空気が広がった世界の一角で、僕は足をとめる。 硝子細工の置物が目についた。 干支の動物を象ったものから、一角獣に麒麟など、透明な動物たちが紫色の布の上で遊んでいた。