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結果的に内部の情報が筒抜けになる

神戸大学、医学研究科感染症内科教授の岩田健太郎氏が横浜で停泊中のダイヤモンド・プリンセス号に乗り込み、検疫の実態を報告した動画が日本中に、そして世界中に広がっています。

とりあえず、この行動が正しいか正しくないかという判断に保留ボタンを押して、事態の流れを追ってみると、これは「情報の不十分な状況に動画が一つ投稿されることで、内部の人が手の内を明かさざるを得なくなる」事例として、とても興味深いなと思いました。

まず発端となったのはすでに広くシェアされているこの動画です。

(2/20、7時頃削除されました。それについては最後に追記)

前提として、ダイヤモンド・プリンセス号において発病者が増えているという背景と、2/19には最初の陰性と判断された乗客が下船する前日というタイミングだったというものがあります。

現場のみなさんはとても努力していると思いますが、情報の空隙として、どうしてこれだけ管理されているのにダイヤモンド・プリンセス号では感染しているひとが増えているだろうかという疑問はわだかまっていたところに、ある意味「答え」を与えてしまう形でこの動画が出てきたわけです。

この、プロトコルを無視した形での情報の流出、あるいは現状への批評によって、さまざな反応が生まれます。

1. この岩田教授とはだれなのか? 信頼できるのか?
2. この報告は正しいのか? 我々はすべてを知らされているのだろうか?
3. そもそもどういう状況で乗船し、どういう経緯で「追い出され」ることになったのか

1. については彼をよく知っている人がすぐに反応するとともに、過去のツイートなどの言動が広められて人物像が独り歩きしていきます。

2. についても、動画が投稿されたのが夜だったこともあって、ひと晩かけて英語圏への翻訳、動画への字幕、文字起こし、情報に対する批評、追加の取材なども進んでいきます。

そして 3 について疑念の声が高まるうちに、当事者が口を開かざるを得なくなります。厚生労働副大臣の次のツイートです。

ツイートがというところがポイントで、YouTube動画の投稿によって本来出るはずのなかった現場責任者の言葉が、公式の声明としてではなく、SNSで引き出されてしまった形になります。

ほとんどの人は橋本氏が現場責任者であるということすら、今の今まで知らなかったはずです。それが可視化されたわけです。そしてもちろんこれだけではすみません。ツイートは140字しかありませんので、「私の預かり知らぬ」「私は承知しておりません」の言葉が一人歩きを始めます。

本人は本当に「知らなかった」という意味で使ったかもしれない言葉が、「上から目線で現場の混乱を隠そうとしているのではないか」という解釈の尾ひれが付いて広まるわけです。

ついには、現場で岩田教授との交渉に当たられた方の投稿もでてきました。とても落ち着いた文言で好感がもてますが、しかしこの投稿もまた、プロトコルから考えると不規則発言になります。公式ルートではない形で現場の詳細が説明されてしまっています。

つまり情報が錯綜している、あるいは足りない状態に対して岩田教授が放った動画によって、副大臣が、内部の方が結果的に不規則的な形で手の内を見せざるを得なくなっているという構造があります。これを「テロのようだ」と評することもできるでしょうし、「疑惑の壁を壊した」と評するのもまた、一つの見方です。

私たちの大半は、現場の苦労について詳しくは知りません。現場の動きが感染対策の専門からみて不十分なのか、あるいは現時点での最善の努力としてこれが限界なのかどうかも含めて、すべての情報を知る立場にはありません。それは現場を信頼して任せるということでもありますが、もちろん不安や不審がそれで拭えるわけではありません。まあそもそも、今回の病気が不明な部分を多く含んでいるのもありますし。

一つの動画によって結果的に内部の状態が明らかになってしまう構図は、すべての関係者がその立場において最善を試みている結果ともいえますし、指揮系統・情報系統の乱れと見ることもできますし、もちろん市民の不安をコントロールするというパブリック・リレーションの問題として捉えることもできます。

これは表現の自由や批評の自由が機能しているからこそ起こることと考えるのでいいのか、安全保障上のリスクと捉えるべきなのか、多面的に事態の推移を見つめる必要があると感じています。

(追記)

他の方の投稿で知ったのですが、高山さんは厚労省の技術参与でおられるそうですね。ただ、それも他者の伝聞に過ぎませんし、Facebookにはそういった背景もない書き込みだけがあるので:

1. この文章はどんな立場のひとが書いているのか
2. この見解自体が公式の立場での発言なのか

が不明で、結果的に第三者には怪文書と違いがわかりません。

そうしているうちに一連の流れの源だった岩田教授の動画が削除されました。オリジナルが消失して、それに対する反応だけが、なぜそれが書かれたのかのその動機を参照することができないまま残る構造が出来上がります。

(追記)

状況はどんどん進行していますので、上の記事は2月20日午前1時時点での批評という文脈抜きには読み取れなくなりつつありますが、もう一つだけ。

副大臣がターミナルにおける感染管理のツイートを画像つきで発信し、あとからそれを削除するという流れが生じました。

これもまた、「ちゃんとやっているのか?」という批判に答える形で「ちゃんとやっている」とツイートしたものの、意図と違うものが伝わってしまったケースなのでしょう。

この件について本当に副大臣がつぶやくべきなのか、ツイートの内容のチェックは行われているのかといった点、少し不安になりますね。



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堀 正岳(ほりまさたけ)。Blogger / Writer / Scientist。Lifehacking.jp、mehori.com管理人。「リストの魔法」「ライフハック大全」「知的生活の設計」の著書をもつ作家、本業は気候学研究者。テクノロジーと知的生活について書きます

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