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トランプ大統領とイラン外相とのツイートが緊張緩和につながった可能性について

敵とは話したくない。でも紛争がエスカレートして全面戦争になる可能性があるときほど、迅速に、直接、誤解がないように文章で対話する必要が生じるのは少し皮肉なものです。

先日はトランプ大統領のツイッターの使い方が、ツイッター自身にも制御できない巨大すぎる政治力をもって暴走している話を紹介しましたが、今回は逆で、ひょっとするとイランとアメリカとの緊張を緩和するのにツイッターが役立ったかもしれないという話題です。

Wiredのこの記事を書いたGarrett M. Graff氏は冷戦時代について本も書いた専門家で、さすがの詳細な解説で緊張にある二国間における通信について紹介しています。

たとえばキューバ危機の際にはモスクワからアメリカに3000ワード弱の文書を送るのに12時間もかかり、逆に在米ソビエト大使館がモスクワに文書を送る際には自転車のメッセンジャーに頼らないといけないなど、頼りない連絡手段しかなかったとか。

その後いわゆる Red Phone と呼称されるホットラインが両国間に敷かれたものの、フィンランドの農家が畑を耕している際に線を切ったり、ボルチモアの火事で施設が焼けたり、デンマークの建設現場で線がやはり切れたりと、信頼性の確保が大事ということが運用でわかったそうです。

その時代からみると、今回のイランによるアメリカへの報復攻撃と、それと同時に送り出されたツイートは面白い位置づけをもっています。

こちらがイランの外務大臣、モハンマド・ジャヴァード・ザリーフ氏のツイート。イランからの報復攻撃があった直後に発信されたものです。ザリーフ氏は元外交官で元国連大使、アメリカでも学んだ国際関係の専門家です。

このツイートは注意深く国連憲章51条の「個別的又は集団的自衛の固有の権利を害しない」の部分を引用しつつ、これが正当防衛であることを強調しつつ、同じツイート内で「戦争のエスカレーションは望まないが、正当防衛はする」と首尾一貫した内容になっています。

英語の280字制限中277文字を使ったこのツイートは、権利の主張、合法性、それでいてさらなる攻撃を避けたいという意思の明言を含む、考え抜かれた内容です。これ、歴史書に保存すべきツイートといってよいと思います。

その13分後のトランプ大統領のツイートがこちら。あまり考え抜かれてはいないようにみえますが、トランプ大統領にしては制御していますし、なにより誤字と文法上の誤りがありません。スタッフが目を通しているなと思わせる応答ツイートで、これでふーっと息をつくことができました。

こうしてツイッターで公式に、全世界の前で自分の立場をいうことで緊張が抑制された例として今回の一件は記憶されることになりそうです。少なくとも表向きはそう見えます。

Wiredの記事によれば、トランプ大統領は弾劾につながったウクライナ問題以降ツイッター漬けになっていましたが、このツイートを送り出したあとは13時間の沈黙を守ります。

誤解をうけるような付け足しのツイートや、愚痴などもなく、状況が収まるところへ収まるのをまっている節もある13時間です。

どうも後ろでは誰かがちゃんと、無制御な戦争にならないように手を打っているものと思われます。

ただ、どうも茶番めいた雰囲気も否めませんし、そうなると大勢の死者を出した今回の事件はやるせないですね...。

p.s.

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