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『耳に棲むもの』

NEUUにてアニメーション作家・絵本作家である山村浩二氏のVR作品「耳に棲むもの」を鑑賞。昨年のBeyond The Frame Festivalにて見逃していたこともあり、公開後すぐに観に行った。

その少年は、毎日土を掘っては、そこで見つけたものをクッキー缶の中に集めていた。そして少年のノートには、彼の人生と、拾い集めた物たちが発する孤独な声たちが記録されていた。そんな彼の耳の奥には、4 人の音楽隊と、レース状の偕老同穴に住む2 匹のエビが住んでいた。彼らは、少年が涙を流すたびに演奏とダンスをして少年を励ましてくれた。彼はお礼に、拾ったものが入ったクッキー缶を振る。そうやって少年は成長していった。

成人した少年は補聴器を売るセールスマンになり、孤独な声を拾い集めることも涙を流すこともなくなっていた。ある日、彼はTVのニュース で見た、日系人強制収容所で見つかった手製の小鳥のブローチに魅了され、少年の頃を思い出し、再び孤独な声たちを拾い集める旅に出る。そこで彼が出会ったものは…?

https://neuu.jp/posts_c/MyInnerEarQuartet

 



山村浩二とVR

不勉強ながら、山村浩二作品は「頭山」しか今まで観たことがなかった。

ケチな男が拾って来たサクランボの種を食べたために、頭に桜が生えて、そこに花見客が訪れる。花見客が騒がしくて桜の木を抜くと今度はその穴に水がたまって、海水浴客が集まってくる。落語「あたま山」を現代、東京に舞台を移し、アニメーションで新解釈を試みた作品。

http://www.yamamura-animation.jp/Jp_FILMS_Short_film_MtHead.html

「頭山」では、ケチな男が生きる等身大の世界と頭の上に新たに広がる世界、この2つを視点とスケールを変えながら物語が進行する。今回の「耳に棲むもの」も、少年が生きる世界と少年の耳の奥の世界(さらには土の中、クッキー缶の中)とがあり、視点の移動・スケールの変更は縦横無尽。山村氏が表現したかったことがVR技術によって達成できるようになった(だからこそ、VRで新作に取り組んだ?)と感じた。


音が聴こえなくなるということ

涙を流すと、耳の奥に住む音楽隊の演奏が聴こえていた少年時代。成長するにつれ、涙を流すことも孤独な声を拾い集めることもなくなり、かつての少年はいつしか音楽隊の演奏が聴こえなくなってしまう。

ここでは、音が聴こえなくなるということが大切な心、感受性を失うことと重ねられているが、歳を取って可聴域が狭まり、他の人は聴こえているのに自分だけモスキート音が聴こえないと気付いた時に悲しくなるのは自分だけだろうか…。

耳年齢テスト

一応、16,000Hzは聴こえた(ホッ)


そういえば、三島由紀夫の「音楽」も音楽が聴こえなくなる話だった。こちらは性的オーガズムが得られなくなった冷感症の女性が「音楽が聴こえなくなった」と精神科医に相談する話だが….

主人公が少年か女性かの違いで、意外にも主題は似ているのかもしれない…?!


シナリオの素晴らしさ

本作、兎にも角にもシナリオが素晴らしい。原作・脚本を小川洋子が担当しており、自分などは「博士の愛した数式」をすらスキップしていたため、ここでその凄さを痛感したわけだが、wikiを読んでいてさらに得心した。

小説を書くときに一番重要視していない要素は「ストーリー」だとし、「とにかく描写につきる」という。人物の内面という形のないものから構想を始めるのではなく、まず、場所や情景や物など、人物の周辺にあるものが語りだすまで徹底して描写を膨らませ、映像化する。自分はそれを書きとっているというイメージだと語る。ストーリーはそれらを収めて読み手に届けるための器であり、人物の内面はそれぞれの読み手の中に生まれるもの。ストーリー自体で見せようとするのは小説というものの本来的な目的ではないとしている

wikipediaより

本作はVR作品といえど自由に動き回ることなどはできない。クッキー缶の中の視点で、少年が拾い集めた物を一つずつ掴んで、少年がノートに書き記した来歴やネーミングを確認するというのが数少ないインタラクティブ要素となる。ただ、その描写が惚れ惚れするくらいに素晴らしいのだ。モノの徹底的な描写を通じて、少年の心が浮かび上がってくる。(あまりに凄すぎて、自分等「この少年、絶対作家になった方が良い」と思ってしまうほどだった)

追記

Real Soundに取材記事が出ていたのでクリップ。

そんな折りに講談社から「この方はどうですか」と勧めていただいたのが、小川洋子さんでした。お名前は存じ上げていましたが、あらためて『小箱』と『密やかな結晶』を拝読したところ「この方はVRとの親和性の高い“VR脳”を持っている方だ!」と思ったんです。

 それで、一度弊社にVR作品を体験しに来ませんかとお誘いしたらすぐに来てくださり、作品を体験してくださいました。そのままの勢いでVRオリジナル原案の執筆をお願いしたら、「VRは自分の世界観とバッチリ合うメディア」と快諾いただけて、大体4ヶ月くらいでプロットを仕上げてくださいました。本当にフットワークの軽い方だなと驚きました。

 一方、山村さんとのつながりですが、元々前職で面識があったのと、作品もかなり拝見していたこともあって、小川さんのプロットを読んだときに直感的に「この作品の監督をできるのは山村さんしかいないんじゃないかな」と思ったので、すぐにお声がけしてみました。

https://realsound.jp/tech/2024/08/post-1744552.html

講談社VRラボ代表取締役・石丸健二さんがエラすぎる。

こちらの記事によると、パーソンズで学び、ポリゴン・ピクチュアズにいたかたとのこと。


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