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やるせない時だけ吸うタバコ。見上げた夜空に飛行機がゆく。

週末に恋人ともめて、とても疲れた。
こんな時、10年前にやめたタバコを吸いたくなる。
こんなふうに、なんかあった時だけ、たまーにタバコを吸う。

久しぶりにコンビニに買いに行く。今は570円もするんだな。
数ヶ月、もしくは数年に一度しか吸わないから、イマドキのタバコの銘柄も値段も覚えられない。
一度本格的にやめているので意外と依存性はなく、数本吸ったら満足し、残りをゴミ箱に捨てるのだけど。


夜更けに、タバコを持ってベランダに出る。
三角座りをしてタバコに火をつけた。
深く吸って煙を吐き出す時、自分はいま本当に疲れていると、しみじみ思った。
冬に向かう夜空。空気がキリッと冷えており気持ちいい。

見上げると、とおく遠く南の空に飛行機が飛んでいることが多い。2機の時もある。
翼の点滅ライトが瞬いて、意外と速いスピードで夜空を横切ってゆく。

それをぼんやり眺めていると、
ほんの少し、気分が和らいでいることに気づいた。


あの飛行機に乗って移動してゆく人々。
行き先を決め、チケットを手配し、必要なものをきちんと準備して鞄に詰める。間に合うように起き、空港に向かい、正しく搭乗手続きをし、旅立つ。
ビジネスかもしれないし、旅行かもしれない。
故郷に帰る人かもしれない。
目的を持って、前を向き、荷物を持ちはるばる移動していく人々。

そんなことを、自分もかつて当たり前にしていたのに
なぜか今は、それがとても大変なことのように思う。
毎日、仕事をして友達とも会い、趣味も家事も普通にこなしているが
なんだか自分が、水の中から世界を眺めているような気分だ。
音が遠くに聞こえ、視界は水のゆらめきに遮られて、現実感がうすい。


そんなことを思っていたら「いかん、いかん!」と思った。


夜空を行き交う飛行機のライトをいくつも見ていたら
恋や愛などとは関係のない生活の営みの確かさを、改めて少し思い出した。
朝が来て夜が来て、また朝日が昇る。
どんなことがあろうとも、規則正しく朝がやってくる。
何も考えず、その流れに乗って動き出したい。

恋人とのことで脳の使用メモリ量が上がり、メモリが不足が常態化している。恋人がいて、一人じゃないことはありがたい。でも、すれ違い、悩み、消耗することに少し疲れた。

夜空に消えていく飛行機を見ながら、
恋人とではなく、ひとりで、もしくは友人と飛行機に乗り込む私を想像してみる。
ウキウキしながら行き先を決める。そうだ南国へ行こう。
前日にトランクに荷物を詰め眠り、翌朝はドアをあけ眩しい光の中を出発する。
空港へは早めに着いて、空港のレストランで休憩し、楽しい想像をして飛行機へ乗り込む朗らかな私。



変わらないといけない時が来ている気がする。
残りのタバコをゴミ箱に捨てて、キッチンで綺麗な水を飲もう。

大好きだった恋人を、少し好きじゃなくなった。
その代わり、自分のことがもっと好きになるような気がする。

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