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小さなイエナプラン海のまなびや4日目

「あなたはどう思うの?」

今から20年前のこと、我が家の娘は日本の高校を中退し(校則に納得がいかず、校長に抗議の末辞めた。その後アメリカ行きを決意)自分でバイトをし、貯めたお金で、自分で選んでアメリカに語学留学、そして、その学校ででマネージャーの仕事を獲得した。

その時のエピソード。娘曰く、その語学スクールには世界中から留学生がやってくるが、最初のオリエンテーションで「自分の国を紹介することができない日本人の若者があまりにも多いことに愕然とした」のだそう。日本人の対話力のなさは家庭環境とか、生活習慣なども理由の一つかもしれないが、やはり、基礎を学ぶ学校教育が自分の頭で考えるのではなく、「正解」を教師から教えてもらうといった学びが主流となっていることが原因の一つだと思う。その考えの根底にあるのは恐らく「子どもたちは何も知らない存在だから、大人が教えなければならない」という思考なのかもしれない。

イエナプランでは、大人が答えを教えた瞬間に子どもたちの思考が止まり、「問いが生まれなくなる」といいます。つまり、子どもたちには答えを教えるのではなく「問いが生まれること」「自らの頭で考えること」を大切にして接しているのだそうです。

そして子どもたちだけではなく、イエナプラン協会がオランダでやっている教員向けの研修でも、日本人の研修生だけが研修の最後に提出するレポートを「これでいいですか?」と事前に持ってくるのだそうだ。

そんな日本人研修生に対して担当の講師の先生は、投げられたボールをすぐに投げ返し、「君はどう思うの?」と聞くのだそう。そんなエピソードから、その講師は「日本人は自分で責任を取ることを恐れているのではないか?」と、言っていました。

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クラスボックスを使ったサークル対話

イエナプランスクールは毎日の時間割で4つの活動が繰り返されていきます。その活動は「対話・あそび・学び(しごと)・催し」とあり、その中でも対話は1日の中で朝・昼・夕・と3回、それぞれ15分程度、お互いの顔を見ながら輪になって行うのです。イエナプランでは「サークル対話」をとても重視しています。

教室はリビングルームと呼ばれ、家庭のリビングのように安心でき落ち着いた場所として、子どもたちが自ら装飾したりするのだそうです。イエナプラン校でも、新学期など、子どもたちが互いの関係性を築けていない時期はまずはたくさん「あそぶ」ことで、お互いのこころを解放し、子どもたちが学校が「安心できる場所」になるようにグループリーダーと呼ばれる担当教師は工夫するのだそう。日本の学校では子どもたちは全員が先生の方を見て座る「スクール型」が主流ですが、これだと子どもたちはお互いの顔が見えず、子どもたちは「先生」だけに注意を向けさせられてしまうのです。子どもたちは、毎日何度もお互いの顔を見ながらサークル対話を繰り返すことで、互いを知ることができ、「違い」や「共感」が生まれるのです。そして、イエナプランスクールで使われている「クラスボックス」はそのツールとしてとても効果的です。

小さなイエナプラン海のまなびやサマースクールでも、この「クラスボックス」を使いました。

クラスボックスとは

4段の引き出しがついた小さなボックス。一番下には4色のカラーメモ帳とサインペンが入れてあります。このボックスに子どもたちやグループリーダーが日々の中で感じたことを言葉にして入れていきます。

一番上の段には「感謝や褒め言葉(ピンクの紙)」を入れます。例えば「◯◯さん、水をこぼしたときにすぐに雑巾を持ってきて拭いてくれてありがとう」など、日常の些細な「ありがとう」を相手の名前を書いて入れます。(書く側は匿名)これは子どもたちにとって自己肯定感を高めるきっかけとなります。子どもたちは誰かに強制されることなく自発的に「良い行い」をすることができるようになります。大人でも「人を褒めることができないのは自己肯定感の低さから来ている」と、言われ、ドキッとしました(笑)子どもたちはお互いに良いところを探し、感謝の言葉を伝える習慣が身につくのです。

2番目の段には、「質問(黄色の紙)」を書いて入れます。自分が聞いてみたいこと、わからないこと、「なぜあの時、先生はこんな風に言ったのか?」とか、「なぜあの子はこんなことがさりげなくできるのか?」とか、わからないこと、知りたいこと、を気づいたときに書き留めてボックスに入れて互いを知り合う機会になったり、対話の時間に手をあげるのが苦手な子たちにとっても、クラスでシェアできるきっかけを作ります。

3番目の段には「願望(青い紙)」を書いて入れます。苦情ではなく、「こうだったらいいな」と思うことを提案として、アドバイスとして、なかなか面と向かっては言いづらいこと、を「願望」として書くのです。例えば「朝のサークル対話の時、もっと静かだったらいいな」とか、些細な願望から、なかなか言い出せない悩みなども「願望」とすることで、グループリーダーがサークル対話の中で「テーマ」として取り上げることで、皆で考え互いの意見を出し合う「対話」のきっかけにします。

「対話」で互いの頭の中を解放し合う

ここで気をつけなければならないことがあります。とかく、日本人は「結論を出す」ことに拘る風潮があるのだそう。大切なのは対話を通して、互いの頭の中を、それぞれが考えていることを、知ること、「違いに気づくこと」が大事なのだそうです。つまり、「対話の目的は結論を出すためのものではなく、互いの違いに気づくこと」なのだそう。イエナプラン校では高学年(5〜6年)になったら、サークル対話はグループリーダーの力を借りなくても自分達で行うことができるようになるのだそうです。自分達で時事問題やクラスであった出来事を対話を通して、互いが感じていることや考えていることをシェアしあうことで、子ども同士の「自治」が生まれるのです。「自分とほかの人の違いを知る」ことを大切にし、その上で互いの自由を守り、関係性を築いていくちからを身につけるのです。

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4日目のサークル対話で匠海くんが仲間に伝えたこと

出会って4日目の子どもたちは少しずつ互いを知り、「対話」の時間も少しずつ手が上がるようになりました(ここでグループリーダーが気をつけなければならないことは、子どもたちの「内発的な行動」を大切にするために、決して「指名」をして発表させたりしないことです。)3日目の夜、一緒に和室で寝る仲間ができたこと、そしてそれが一部の子どもたちの間では批判されていることを知った匠海くん。彼は4日目の朝のサークル対話で自分から手を上げて話をしだしたのです。

「僕が夜が怖い理由」

匠海くんの話は自分の過去の辛かった話から始まりました。「僕は前にいじめを受けたことがあります。今でも夜とか暗い所とかで1人になったら、その時の事を思い出して、怖くて、苦しくて、たまらなくなります。だからテントで眠ることができないんです」と・・・。

子どもたちは静かに匠海くんの話に耳を傾けていました。・・・・なぜ匠海くんはその話をしたのか?

そこには4日間、昼夜を問わず子ども同士で一緒に過ごした時間と、日に3回のサークル対話、そして子どもたち一人一人を見ている、グループリーダーという存在があったからなのです。そして匠海くんのはなしをきっかけにほかの子も、自分の辛かった過去の話をしてくれました。自分で考え、自分の意見として、自分のことばで対話に参加するするちから。これは子どもたちが将来社会に出るときに、一番身につけてほしいことだと思います。学校という守られた場所でそのちからを身につけることができるのがイエナプランの素晴らしいところだと感じました。

                           続く


い参考:     DVD教材   「明日の学校に向かって  」   オランダ・イエナプラン教育に学ぶ    より抜粋

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