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#02 居座りと苦悩の日々の始まり

前年はバタバタで、
まとまった休みをとる ことができなかった私は、
2年目のゴールデ ンウィークに大阪に戻り、
久しぶりに妻、娘 (当時高1)、
息子(当時中2)の4人で天橋 立へ旅行に行った。

それが四人揃っての、最後の旅になるとは、
私だけでなく家族の誰もが、予想していなか った。

出発の朝、息子は体調不良を訴えていたが、
久しぶりの旅行ということもあり、
取り止め ることなく、
無理やり連れて行くことになっ た.

今 から思うと、息子の体調不良は、
先にあ る『暗雲』を予知していたの
かもしれないと感じた。

ゴールデンウィーク中も社内ではスタッフ が、
休み明けに向けて作業をしてくれていたので、
私は旅行の後、大阪の自宅に一旦は戻 ったが、
ゆっくりと家族との時間を過ごすこ ともなく、
そのまま妻の運転する車で、
伊丹空港まで送ってもらい、
妻と娘に見送られ東京に向かった。 

その日以来、大阪の自宅に戻ることはなく、
約4年、子供たちとも会うことが出来なくな った。

旅の疲れとそのまま、東京で続いていた
作業の疲れを癒すために
翌日、また指名を入 れ、
山口の施術を受けることにした。

その2度目の施術中に、彼女と二つの約束 をした。

1つ目は、近いうちに食事に行くこと。

そし てもう1つは、
「1万円でなんでも願いが叶う」というセミナーに
行くことだった。

食事の約束は、3度目の施術から数日後、
お互いの仕事終わりで実現した。

五反田駅近くの鉄板焼きの店に行き、
施術中の話の延長戦のように、
お互いの仕事や家族の話をした。

私は会社が期待する程の売上拡大は見込めず、
新規の案件を探さないといけない…

大阪に帰っても妻が留守がちで… というような、
ちょっとした悩みや不満を話した。

一方、山口は実家が名家で
どんなに素晴らしい家柄なのか…

お嬢様として育てられ た話など
山口家や家族、兄弟の自慢話ばかりだった。

そして、本来はコンサルの仕事をしていて、
たくさんの大企業の社長とも直接懇意にしている
という話や留学、海外経験が豊富だという
自慢話の連発だった。

しかし、仕事への先行きの不安や心身ともに
疲弊していたその頃の私にとって、
そんな話は、とても魅力的に感じられた。

藁をもすがりたい状況の私は、彼女なら
新規案件の仕事を紹介してもらえるかもしれな い、
東京での休日を一緒に過ごす相手ができ た…
そんな思いで、やはり「見つけた」とい う感覚だった。

そして、もう一つの約束の「1万円払えば 何でも叶う」
というセミナーにも、すがる思 いを抱いていた。

山口との関係の始まりは、そんな『打算的で
依存するような思い』からだった。

食事が終わり、いろんな話をしたが、店を出る時間になっても、
まだ話し足りない状況 だった。

彼女は酒を飲まないので、次の店に カフェを探し、
歩き出したが、途中、山口が タバコを買いにコンビニに立ち寄り、
その流 れで互いに好みのスイーツと飲み物を買い、
歩いて数分の私のマンションに行くことにな った。

山口を女性として意識していなかったので、 その時、全く躊躇することなく、マンション に入れてしまった。

今から考えると、軽率な行動だった。

部屋でスイーツを食べながら少し話しをし たところで、
彼女が「疲れた」と言ったので帰宅を促した。

しかし、「翌朝早いから、ここから出勤してもいい?」
という言葉が返っ てきて、その言葉を受け容れ、
その夜、部屋に泊めることになった。

しかし翌朝、「早いから… 」と言っていた が、
全く起きようとしない彼女をしり目に、
私は先に出掛けることにした。
そして、外出 する際に、一階のポストにカギを入れて、
出かけるように伝えた。

その夜、仕事から戻り、1階のポストを探 しても、
託したはずのカギがなく、慌てて彼女に電話をするが不通で、
会社にあるスペア キーを取りに戻るか連絡があるまで
近くで時間を過ごすか悩んでいると、彼女から電話が あった。

「鍵を持って出てしまった… 」との ことで、
お詫びに料理を作るので、買い物をして帰るので、
もう少し待っていてほしいとのことだった。

そして、再び、山口を部屋に入れることに なった。

また、食事をしながら話し込んでい たが、
終電が無くなる時間になってしまい、
私もかなり疲れていたので、「俺が払うから … 」と伝え、
タクシーで帰るように伝えたが、
「申し訳ないから歩いて帰る」と言い、
「夜道が危険なので… 」などやり取りの中、
また 泊めることになってしまった。

翌朝、出かける間際に、
なかなか部屋を出 ようとしない山口に対して、
さすがに腹が立ち、部屋を出るように言ったが、
あーでもな い、こーでもないと言いながら
一向に出よう とせず、挙句の果てに
自分がマンションに泊 まったことを
会社や家族にばらすという脅し に出た。

この時初めて、自分がとんでもないことをしてしまったと気づいた。

私は、「このことを家族や会社が知ってし まったら… 」という
最悪のシナリオばかりが頭に浮かび、
後悔の気持ちでいっぱいになっ た 。

そ して、山口との事を誰にも相談することができず、
ただ彼女が、自ら出ていくのを待 つしかない状況となった。

それからは、私が居ない間に買い物に行く ぐらいで
仕事にも行った形跡がなく、ずっと私の部屋に居続ける状態になった。

何度も何度も懇願するように部屋から出ていくよう伝えるが、
始めは酷い扱いをするという泣きから入り、
包丁を持ち出し、自らを 刺すふりをしたり、
ベランダから飛び降りる真似をして見せた。

そんなことが、何日も毎晩、深夜、明け方 まで続き、
いつしか私は、山口に抵抗する力を失ってしまっていた。

山口は、私の弱みを最大限に活用し、
『私が困る』と考えられるあらゆる策を講じて、
脅しを敢行してきた。

いつしか私の頭の中は、考えられる
『最悪 のシナリオ』で埋め尽くされていた。

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