QBハウスの話

QBハウスをご存知だろうか。
駅前などにある、約1000円15分で散髪が出来るというインスタントパーラーだ。

私は昔、この1000円カットが嫌いだった。
安かろう悪かろうというイメージや、スタイリング時間が短い故に満足いく形にならないだろうという思い込み。
そしてなにより洗髪や顔剃りが無いのがアウトだった。

結論から言えばこれらの認識の多くは間違っていた。

実家に居た頃利用していた床屋は、カット洗髪顔剃り込みで2000円の店だった。
この店舗には子供の頃からおよそ15年近くは通っていた事になる。毎回同じ理容師だった訳でもないし、常連向けのサービスが有ったわけでも無いが、なんとなく雰囲気が好きで通い続けていたし、床屋とはこういうものだという認識が強くあった。

中学高校の友人に一人ずつ、床屋の息子がいた。それぞれの店を利用したことがあったが、個人や家族経営系の床屋は一回の利用料が倍近くかかった。
その分理容師と客の距離が近いのは良い点とも言えるが、なにぶんケチな私はそれぞれに一回行ったきりだった。

時は移りおよそ半年前。今一人暮らしをしているSK市には先んじて恋人が暮らしていたため、引っ越す前から毎週末は遊びに来ていた。

その日は遊びに来たものの恋人には美容室の予約があったため、待ってる間の時間に私も散髪に行くことにし、以前から存在を知っていた個人経営系の床屋に入った。

ここで事件が起きた。
カットと洗髪が一通り終わり座席が倒された。
店主がスイッチを操作すると、座席が振動し始る。マッサージ機付きの椅子だったのだ。
熱いタオルを顔に乗せられマッサージされるのは大変いい気分であり、リラックスしていた。
しかし次のステップはそう、顔剃りだ。
リラックスした気分はだんだんと、この振動のままカミソリを顔に当てられるのではという不安に塗り替えられていった。

果たして、不安は的中した。

私は当初とても感心した。
ここに至る過程で店主の人柄は会話を通して解っていたし、ベテランの風格が漂っていたので、いざ顔剃りが始まってからはすべてを委ねることが出来たのだ。

程なくして顔剃りも終わり、仕上げも済んだ。
帰り際にはドリンクを貰えたし、軽くなった頭とさっぱりした顔、そして拘束から解き放たれた開放感が重なりいい気分で店を出た。

しかししばらく歩くと、やはり顎がヒリヒリする。
そっとなでると血が滲んでいた。

やはりかという感想とともに、あそこには二度と行くまいと心に誓った。

それから約2ヶ月後、季節は夏。SK市で新たな暮らしを始めていた私は、再び床屋を探す事となった。

やがて見つけた床屋は、以前通っていた所と同じ値段帯の店だった。

これなら期待できると店内に入ると、結構な人数の理容師がせわしなく働き、待っている客もそこそこ居る盛況な店だった。
整理券を取って待ちながら店の雰囲気やルール等を観察した。

その店は切られた髪の毛が床に散乱し、毎カット毎に掃除をしているわけではなかった。
また、カットや洗髪といった行程毎に担当者が変わるタイプの店だった。

駅に着いたので続く

20100129

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