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【禍話リライト】こころあたり

こっくりさんって何回かブームがあったんですよね、その第何次かは知らないですけど、中学生の頃こっくりさんが流行っていて。
放課後、クラスの子たちが楽しく、って言ったら変なんですけど、和気あいあいとこっくりさんをやってて。それでわたしも試しにやってみようかなって参加したら、どういう流れだったかは忘れたんですけど、

あ し た し ぬ


って言われたんです。
まあ普通だったらそんなわけないじゃんって笑い飛ばすところなんですけど、でも軽い気持ちで参加したところにいきなりそれで……真に受けてしまったというか、「どうにかして明日死んじゃうかもしれないの?」ってへこんでしまって。
それで、周りの子たちが
「いやいや、こっくりさんって人を怖がらせようとして普通に嘘言うこともあるらしいよ」
って言ってくれたんです。
たまたま通りかかった、こっくりさんとか興味ない男子達も
「百歩譲って何かが降りてきてるにしてもさ、こんな田舎の中学生の素人がやってるとこにそんな力のあるヤツが来るわけないっしょ」
「どうせしょうもない霊だよ、そんな簡単にすごいオバケが呼び出せるならもっとニュースとかなってるって」
って理屈で励ましてくれて。
わたし家庭科クラブの部長だったんですけど、だからふだん手芸したりクッキー焼いたりしてる人が似合わないことやったから脅かされてるんだって、それで場の空気が和んでみんな笑ってて。
わたしはまだ内心「でも死んじゃうのは怖いな」って思ってたんですけど、でもみんながすごい気を遣ってくれてるのも分かったので、その場は一緒に笑ってたんですね。

それでみんな帰るとなって、たしか何かのプリントを持っていく用事があって、わたしだけ別行動で職員室に寄ったんです。
渡すものを渡して職員室を出たら、近くのロッカーに寄りかかって待ってる人がいて。それはクラスは違うんですけど、同じ家庭科クラブの子でした。といっても、幽霊部員というか。わたしの中学校は全員何らかのクラブに所属しなきゃいけない決まりだったんですけど、ほとんど顔出してなくて、数えるほどしか会話したことない子で。
どうしたんだろうって思ったら、わたしに用があるって言うんです。なに?って聞いたら、
「あんたは応援してくれてる人がいるから大丈夫だよ」
って。なんだそりゃ、誰が何をって感じですよね。でもそれ言いたかっただけからってそのまま帰っちゃったんです。
後からああ、こっくりさんの件で励ましてくれたのかなって思い至ったんですけど、でも明らかに現場にはいなかったし、人付き合いしないタイプだったからうちのクラスの連中に話を聞いたってこともなさそうだし、どうして知ってるんだろうって。


とりあえず帰ったんですけど、完全に家に着いてしまってから忘れものに気付いたんです。
わたしの学校は通学用にカバンとリュックがあって、カバンの方を教室に置き忘れてリュックだけで帰っちゃって。本当気が動転してたんでしょうね。
別に何か困るわけではないんですけど、やっぱそこは中学生だったので自意識過剰というか。明日の朝、自分より早く登校した子がわたしがカバン忘れてるのに気付いたら「やっぱりその場では笑ってたけどすごい動揺してたんだな」って思われるだろうな、恥ずかしいなって。
そうなると死ぬ死なないの心配は吹き飛んじゃって、早起きしてみんなより先に教室にいようと決めて、その日は寝ました。


それで翌朝、もちろん死んでないんですけど、いつもより全然早く登校しまして。校門の所で挨拶してる体育の先生も「おお~早いな」って言うくらいの時間で。
教室に入ったらまだ誰もいなかったので、良かった間に合った~って自分の席まで行って。見たら教科書とか机の中に全部入ったままでカバンにしまってすらいなかったんですね。でもカバンを動かしたらガサガサって何か音がしたので開けたら、便箋みたいな紙が入ってて、でもそれ自分のじゃないんですよ。
こんな紙持ってたかな?って出してみたら、達筆なシャーペンの字でびっしり何かが書かれてました。
書き出しは

あなたを妹のように慕っていたのですが何月何日……


……って。
もうすでに気持ち悪いんですけど、その後も要するに「あなたにはがっかりした私の気持ちが分からない尊敬がない」というような一切自分には心当たりのない内容でした。
最後に女性の下の名前だけが書かれてたんですけど、その名前もクラスの子じゃないし、ちょっと誰だか思い当たらない名前で。
気持ち悪かったのでその場でくしゃくしゃに丸めて、教室の空っぽだったゴミ箱に捨てました。

少ししてみんなが登校してきて、早いじゃんやっぱアレ気にしてたんだ?みたいに言われたんですけど、もうさっきの紙のことの方が気になってしまって。
もう死ぬ死なないはどうでも良かったんですけど、とりあえず適当に話を合わせてたら朝のホームルームの時間になって。
担任の先生が、教室のゴミ箱が昼休みにしか捨てに行かないから溜まっちゃってる、夏だから不衛生だ放課後にもう一回行こう、みたいな話をしていて、それでほら今もってゴミ箱の中を覗き込んだんです。
先生が「え、なんだこれ」って眉をしかめて。「うわ、びちょびちょだよ、駄目だよこれ」って言うんですよ。
え?さっき紙を捨てたときは確かに空っぽだったのにと思って、席が前の方だったのでわたしも覗いてみたんです。
そしたら、こう……雨の中をずぶ濡れになって帰ってきて、ポケットに入ってた紙がぐちゃぐちゃになってた、みたいな感じで、さっきわたしが捨てた紙がびちょびちょになって入ってたんです。でも確かに何も入ってなかったし、濡れる要素はなかったはずなんですよ。

先生はちょうどいいやって感じで「ね、こういう風に昨日捨てたものがこんなんなっちゃってるでしょ、だから最後帰る人がね」って話してる中、わたしはもうそれどころではなくて。
そのときアッと思い出したんです、便箋の最後の名前って、家庭科クラブの顧問の先生の下の名前だったんです。
でもやっぱりなんの心当たりもないんですよ、何か仲違いしたとか。最近確かに授業の方で忙しいとかで、始まりと締めも代わりにやっといてねって言われることが多くて。先生クラブに顔出してないなあとは思ってたんですけど。


昼休みになって、クラスのみんながほら死ななかったじゃん良かった良かったって言ってくれて。
放課後になって、名前の件があったから気持ち悪いなあと思いつつ、クラブに行ったら顧問の先生休みだからあともう全部代わりにやっといてって言われて。
あの幽霊部員の子がその日はいたんです。いつも通りお菓子作りとかしてたら、ふらっとやって来て
「ね、応援されてるじゃん」
って言うんですね。それで今度は、ごめんちょっとぜんぜん分からない、どういうこと?ってちゃんと聞いてみたら。

ああいう遊びっていうのは、死んだのだけじゃなくて生きてるのが来ることもあるから。

え?

要は生霊が来ることもあるんだって。

え??

まあそういうことだから。

って面倒臭そうにどっか行っちゃって。

正直怖かったんですけど、いつも通りに作ったものをみんなで食べて後片付けもして。クラブの活動時間が終わって、先生がいないので最後わたしが家庭科室の戸締りとかをする段になって。
そのとき何かを探して、普段顧問の先生が使ってる机の引き出しを開けたんです。そしたら名簿用か何かのわたしの写真があって。
家庭科の裁縫で使うまち針●●●がいっぱい刺さってたんです。


先生はその後、体調を崩したという理由で学校を辞めることになり、それきり会うことはありませんでした。




※本記事は、猟奇ユニット「FEAR飯」による怖い話をするツイキャス『禍話』のうち、『禍話X 第七夜』(2020/12/05)の12:43~にて語られたお話(禍話wiki様では「明日死ぬ」のタイトル)を、筆者が編集、再構成等を行い文章化したものです。実際の語りとは表現が異なりますので、気になる方は是非本編を視聴してみてください。

※かぁなっき氏に「パンチが弱いから没ネタだった」と元音声で言われている話ですが、聞き終えて「弱いか?」と言った加藤よしき氏に強く同意する者です。こっくりさんで始まりながら、家庭科クラブという要素が最後に針という直球の悪意の表現を導出する鮮やかな展開に感じ入り、リライトした次第です。

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