[日記]スズメとセミとアブラゼミ

信号が目の前で赤になった。ここは歩車分離式なので、2回待たなきゃ行けない。キツい。暑い。

セミも鳴いている。ジュワジュワジュワジュワ

これはアブラゼミだ。鳴き声が油で揚げ物をしているかららしい。ガキの頃は周りが虫好きだったから無理やり合わせていたが、キツい。しかしアブラゼミにしてがなんだか違和感がある。

アブラゼミはジーーーーーーと鳴く印象だ。ジュワジュワ鳴いている。もしアブラゼミがみんなこうだったら名付けにも納得の鳴き声だ。

もう一つ。そのアブラゼミ、どうやら鳴きながら動いているようだ。

鳴きながら動くことってあるか?と思い、探してみる。

いた。スズメに襲われていた。スズメがセミを食べるのかはわからないが、スズメからは「殺す」という態度を感じ取った。セミをくちばしで攻撃している。

一方、セミのほうは地面を反復横跳びしていた。飛べないのだろうか。よくいる死まで棒読みの状態に見えた。

死までもう少しの状況だというのに、必死に抵抗するセミ。セミの鳴き声(声ではないらしい)は交尾のためらしいが、この鳴き声は交尾のためとは思えなかった。

しかし抵抗もむなしく、ついにスズメに咥えられた。そのまま木の中に持って行こうと飛ぶ。
木の中に何があるのか、メリットがあるのかとは思ったが、とにかくそのスズメは目的地に向かって一直線に飛んでいるように見えた。

セミはまだ鳴いていた。しっかりと咥えられているのに。もう鳴くか死ぬかしかないのに。鳴いても交尾などできないだろう。

木影に入った。大勢変わらず。ただ飛ぶというのは体力を要するらしい。木陰に入って少し気が抜けたのかはわからない。

セミが鳴かなくなった。というよりこちら側からはそのことしかわからない。真相は木の中だ。

…………

……

静かだ。まるで最初から何もなかったかのように。

セミはどうなったのか。スズメは昼ごはんにありつけたのか。木は何も教えてはくれない。現実はいつも突然に幕が降りる。

と思ったら、セミが木から出てきた。アブラゼミだ。飛んでいた。鳴きながら飛んでいた。このセミとあのセミが同一かはわからない。しかしフラフラだ。スズメも出てきた。鬼の形相だった。このスズメは同一だと、なぜか分かった。

あの様子だと絶対に捕まるだろう。

ジュワジュワジュワジュワジュワジュワジュワジュワジュワジュワ

スズメは追うのをやめた。

アブラゼミは車道に出ていた。しかも青信号側の車道だ。

いつもだったら上を飛んだりするのだろうが、アブラゼミは低空飛行だった。車に当たろうとしてるのか、スズメを遠ざけようとしたのか、低空飛行しかできなかったのか。しかしその行動がスズメを遠ざけるに至った。

アブラゼミは対岸に渡ることができた。しかしもう動けそうにない。

アブラゼミは鳴いていた。ここで鳴くと場所がバレると思うのだが、とにかく鳴いていた。

ジュワジュワジュワジュワ

ジュワジュワジュワジュワジュワジュワ

ジュワジュワジュワジュワジュワジュワジュワジュワジュワジュワ

なぜ鳴くのだ。種を残したいのか。鳴くことでしかできなくなるほど力を使ったのか。

やっとわかった。鳴き声の違和感の正体が。

普通のアブラゼミがジーーーーーーと鳴く。これが1鳴きだとすると、このアブラゼミは一瞬で10鳴き20鳴きしている。

体力を使い果たしても、もう飛べなくても、それでも種を残すため、生きるために動くしかない。

行くしかないんだ。

車が止まった。スズメが鳴き声のある方へ向かっていく。

ジュワジュワジュワジュワジュワ。

信号が青になった。僕も行かなくてはならない。

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