たかが移動、されど移動
麻酔が終わったら、
患者さんを手術台から
病棟へ帰るベッドにうつします。
「ただうつすだけでしょ?」
いやいや、これが結構複雑なことなんです。
麻酔科医がやることは結構あります。
ベッド移動のとき、
麻酔科医がなにをみているのか?
まとめてみました!
■ 移動前の確認事項
- 手術台をベッドの高さを合わせる
移動するときは
手術台と移動用のベッドをくっつけます。
このとき高さが合っていないと、
移動途中で患者さんが
段差にひっかかる、
もしくは段差で体をうちます。
- ベッドが固定されているか
移動先のベッドが
固定されていないと、
手術台とベッドの間に患者さんが落ちる危険があります。
引用元:GemMed
患者の移乗時にベッド等が動き「患者が転落」する事例散発、ベッドやストレッチャーの固定確認等の徹底を―医療機能評価機構
https://gemmed.ghc-j.com/?p=33951
過去に1件、
実際に落下した症例に遭遇しました。
幸いそのケースでは全身を打撲したのみで
とくに合併症はありませんでした。
ただ打ちどころが悪ければ、
外傷性くも膜下出血などで
後遺症を残す可能性もあります。
おそろしい…
- モニターが外れているか
モニターが外れていないと、
そのケーブルで
患者さんの体がひっぱられる、
ラインやドレーンなどとからまってしまう
危険があります。
モニターは以下のようなものがあります。
心電図(緑が残りがち)
血圧計
パルスオキシメーター
膀胱カテーテルの温度センサー
患者さんの状態次第で
モニターをつけたまま移動することもあります。
そのときは、
移動してもケーブルがひっぱられないか確認します。
- フットポンプ
深部静脈血栓を防ぐために
手術中、足をマッサージする機械をつけています。
引用元:CardinalHealth
https://www.cardinalhealth.jp/content/dam/corp/web/documents/patient-recovery-jp/brochure/cardinal-health-jp-scd-700.pdf
機械は空気を送る本体とつながっているのですが、
これがつながったままになっていることがあります。
これもやはり引っぱられてしまうリスクがあるので
本体と切り離します。
- 誰がなにを持つか
移動するのは患者さんだけではありません。
患者さんにつながった
ドレーン、点滴、CV、硬膜外カテーテル、フットポンプ
などがあります。
誰がもつのか?
持つ人が明確でない場合は、
指名してお願いします。
また患者さんの「足」は意外と忘れられがちです。
胴体に人が集まって足が置き去りにならないよう
こちらも指名しましょう。
麻酔科医「足をもつひとはいますか?」
看護師 「わたしもちます!」
麻酔科医「じゃあ、菅さんおねがいします!」
■ 移動時の声掛け
声を出して、
目的と目標の共有をします。
このあたり結構大事なんじゃないかと思っています。
共有できていないと、事故の元になります。
ぜんぜん違う方向に力をかけてしまう人がいたり、
ドレーンが置き去りになったり…
確認事項は以下を意識するといいでしょう。
- 目的共有
- 役割確認
- どの方向に
- どのくらい
- 安全確認
「ベッドに移動します!ドレーンは麻生先生、足は菅さんお願いします。まずは左下向きで板をいれます。ベッドロックは大丈夫ですね?じゃ、いきまーす1,2,3!」
■ 声を出して現場を仕切る
どんな現場でも共通することですが、
現場では声が一番大きい人にみなあわせて動きます。
だから麻酔科医は声をださないといけない。
「号令をかける人」が
その場を仕切る人です。
みんながやることに迷わないように
適切に指示をだします。
■ 移動後の確認事項
さて、
声掛けをしつつ患者さんをベッドへ移動したら
もろもろ確認しつつ、帰り支度を整えます。
麻酔科医は下記項目に問題がないか確認します。
- 酸素ボンベの元栓が空いているか
これについては、
以前ツイートした内容を貼っておきます。
- 硬膜外カテーテルに異常がないか
移動のときカテーテルがすれて、
ぬけてしまう、
ひきちぎれてしまう、
ことがあります。
移動先で刺入部とカテーテルを確認します。
- 点滴が下敷きになっていないか
点滴のラインが体の下になってしまっていることがあります。
点滴が落ちるように直しておきましょう。
上記を確認しつつ
患者さんに病衣を着せたり、
モニターを付けたり、
酸素マスクをつけたりしていきます。
■ 麻酔科医が系統的に確認する
慣れた施設では外科医も、看護師も以上の項目を
自然とチェックしてくれるでしょう。
ただそれぞれが「よしよし」と思っているだけで
抜け落ちていることはありえます。
誰かが系統的に一連の確認作業を行う必要があります。
そして
その役割は麻酔科医がふさわしいと考えています。
理由は2つです。
麻酔科医は患者さんの頭側に立ち
全体を見渡せる位置にいるから
移動の号令をかけるのは頭側の人で、
ストップをかけやすい立場だから
安全のために、
麻酔科医が確認するべきです。
■ さいごに
今回は
全身麻酔後の患者さんをベッドに移す
話をしました。
いかがだったでしょうか?
意外と複雑で、
麻酔科医が確認すべきことは多くありませんでしたか?
声をだして現場を仕切りつつ
スタッフと目的と目標の共有する。
今日も安全に患者さんを移動させます!
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