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【全身麻酔】どのように目覚めさせるか

全身麻酔から「どのように目覚めさせたいか」は
症例によって違います。

目的に応じて、
薬剤の調整や麻酔計画を考えていきます。

覚醒したときに何を重視するのか?
さっそく具体例をみていきましょう!


■ 脳外科
- 意識の確認をしたい

麻酔中の鎮静度はBISモニター.002

脳腫瘍の手術ではもともと意識がクリアな人がほとんどです。

手術後に悪くなるとしたら
それは頭の中で何かがあったということです。

術後出血がその例ですね。

手術のあと麻酔の影響で覚めが悪いと、
それがわかりにくくなってしまいます。

意識レベルは重要なモニターなのです。

ということで目標は、
ちゃんと目覚めて応答ができる状態です。

麻酔の選択は例えばつぎのようになります。

鎮静薬は覚醒が早く、蓄積性が少ないデスフルランを。
鎮痛薬は、ぼーっとしてしまう麻薬は極力少なく。
NSAIDs、アセトアミノフェンで鎮痛を図る。

■ 整形外科
- 四肢の動きを確認したい

麻酔中の鎮静度はBISモニター.003

四肢の骨折手術では神経障害が問題となります。

折れた骨の周辺には神経が走っており、
それをよけながらプレートをいれたり、
ワイヤーを通したりします。

なので、手術後はすぐにちゃんと四肢が動くか確認したい。

覚醒直後に指示した動作をしてもらいたいんですね。

麻酔は例えばこんな感じ。

喘息持ちの40歳男性。
橈骨遠位端骨折に対して
プレート固定が計画された。
神経障害の危険性が高そう。

術者と事前に相談して
手が動かなくなってしまう神経ブロックは行わないことにした。

鎮静薬は喘息があり、気管支拡張作用のあるセボフルランを選択。
手術時間は短時間であり覚醒に関するデスフルランの優位性はないと考えた。


鎮痛はフェンタニルとNSAIDsで。
フェンタニルは手術の終盤で自発呼吸をみながら調整する。

■ 呼吸器外科
- 咳こまないでほしい

麻酔中の鎮静度はBISモニター.004

気胸は肺に穴が空いてしまう病気です。
手術でその穴をふさぎます。

術者としては力強く咳こんで欲しくありません。
肺に力が加わって再び穴が空いてしまうのを恐れています。

ところが、全身麻酔の覚醒では咳こんでしまうことが多いです。
挿管チューブを抜くとき、のどに刺激が加わることで起きます。

咳こませない覚醒にフォーカスした麻酔
たとえばこんな戦略があります。

手術終了後、挿管チューブを声門上器具に入れ替え
声帯にやさしい器具に置き換える。
入れ替えたあと、麻酔を切る。
さらに、声門上器具を抜く前にリドカインを静注して咳反射を防ぐ。


■ 小児外科
- 病棟に帰るまでは寝ていてほしい

麻酔中の鎮静度はBISモニター.005

不安が強い子どもは覚醒したあと大号泣、大暴れ。
点滴を抜いてしまうことも、、。

ということで親御さんのもとに帰るまで
寝ていて欲しい。

とはいえ、ちゃんと呼吸はしていなければ抜管できませんし
病室にもどることもできません。

すやすや寝てはいるけど、呼吸はちゃんとしている状態を目指します。

ミダゾラムの前投薬あり。
術後も残ってぼんやりしていることあり。
逆にそれを利用する。

鎮静薬はプロポフォールの持続。
呼吸状態によらず代謝されるので、
抜管のあと寝ていても吸入麻酔薬より安心。

鎮痛はブロック、アセトアミノフェンで。
呼吸に影響がでる麻薬は極力つかわない。


- (番外編)泣いていてほしい

逆に、手術室を出る頃には泣いているくらいが丁度いい。
なんていう要望を小児外科の先生からされたこともあります。

え?どういうこと?

はじめて聞いたとき、私は驚きました。

すやすや寝息を立てているくらいが
いい状態だと思っていましたから。

話をきいてみると、

病棟での監視が手薄なうえ、
自分たちも手術で近くにいられない。
そのくらい覚醒していないと不安。

ということがわかりました。

なるほど。

「泣いていてほしい」というのはたとえでしたが、
そのくらい覚醒していてほしい
という要望なのでした。

このときは以下のような計画で対応しました。

前投薬なし。
鎮静薬は早期に切れるようにセボフルランとプロポフォールのハイブリッド。
鎮痛は覚醒に影響しない神経ブロック、アセトアミノフェンで。
麻薬は半減期の短いレミフェンタニルのみ。


■ さいごに

まとめです。

全身麻酔の覚醒は症例によって目標が違います。
いくつかの具体例をもとに解説しました。

ただ鎮静薬投与をやめればよいわけではありません。
それぞれの目標に沿った計画を立てましょう!

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