【麻酔維持期】呼吸を維持する
呼吸って、
人工呼吸器にのせたら
あとはお任せでしょ?
確かに麻酔中の呼吸維持は、
人工呼吸器の進歩により
かなりラクになりました。
挿管チューブを
人工呼吸器につないで
ボタンをおせば呼吸はできます。
しかし、
それでも麻酔科医が必要です。
刻々と変化する
患者さんの状態、体位、手術進行。
呼吸も
これにあわせて
変えていく必要があります。
設定を変える作業は一瞬なので、
適当にやっているようにみえますが
いろいろ考えてやっています。
具体例をみていきましょう!
大切なのは何が起きていて、
どうするべきなのかを判断しつづけることです。
(人工呼吸器設定は従圧式が前提です。)
■ 患者さんの状態変化による呼吸調節
手術が始まって
ちょっとしたころ
「あれ?換気量が減って、EtCO2が上がってきたな。」
ということがあります。
設定を変えていないのに換気量が減ります。
なぜでしょう?
よく遭遇する原因は2つあります。
痰がたまる
無気肺がふえた
です。
- 痰がたまる
たばこを吸っていたひとに多いです。
胸部を聴診してみるとゴロゴロと音がして
ひどいと聴かなくても呼吸回路がガラガラと振動します。
痰が原因と判断したら吸引です。
挿管チューブの中に
吸引用のチューブをいれ、吸痰します。
気管支の末端につまった痰は
気管支鏡で奥まで入らないと吸えないこともあります。
- 無気肺
人工呼吸中、酸素を投与していると
吸収性無気肺が起きやすくなります。
酸素は血液に吸収されやすい気体です。
肺胞が酸素で満たされていると
やがて吸収されて肺胞がつぶれます。
肥満のひとに多いですが、
だれでも少なからず無気肺はできてしまいます。
ぐーっと陽圧をかけて
つぶれた肺胞を膨らませます。
またつぶれてしまわないようにPEEP
の設定をあげたりもします。
■体位変換による呼吸調節
- 頭低位
「頭を下げてください!」
術者から
頭低位を要求されることがあります。
ロボットの前立腺全摘術などは
もう「逆さ吊り」といってもいいくらい
頭を下げます。
すると
腹部の臓器が重力で頭側に傾いて
横隔膜を押し上げ
肺をつぶします。
人工呼吸器に目をやると
換気量が減っている。
同じ圧で換気を続けているので
横隔膜が押されたぶん
量が減ってしまうんですね。
圧をあげても換気量を維持できない場合、
術者と相談して頭低位を
ゆるめます。
いわゆる
「換気がきつい」状態です。
- 頭高位
逆に
頭が上がる場合には
腹部臓器が押し下がるので
「換気がラク」になります。
少ない圧で
同じ換気量が達成できます。
そのままの設定にしておくと
換気量が入りすぎてしまうこともあるので注意です。
■手術進行による呼吸調節
- 片肺換気
呼吸器外科の手術では
手術する肺を「わざと」虚脱させて
手術がしやすいようにします。
片側の肺でのみ換気を行うので「片肺換気」といいます。
ダブル−ルメンチューブという特殊なチューブを使って
「分離肺換気」を行います。
ちょっとアドバンストな内容になるので詳細はお話しませんが、
同じ条件のままでは
酸素化が悪くなる、
二酸化炭素が高くなる
可能性があります。
高度な調整が必要になります。
- 気腹
外科の腹腔鏡手術では
お腹にいくつかポートをさしこみ、
そこから二酸化炭素ガスでふくらませて
内視鏡で手術をします。
これを「気腹」といいます。
またガスでお腹が張って
横隔膜が押し上げられるため
換気量が減ります。
換気量が減ることで二酸化炭素がからだにたまる上、
二酸化炭素ガスを注入するので、
これが血液から吸収されて
どんどんたまっていきます。
換気量を増やして対応しますが、
高二酸化炭素血症はある程度許容するのが
最近の考えたです。
■まとめ
さて、
呼吸器の設定は一度したらおしまい!
ではない話をしてきました。
麻酔維持期では
呼吸器の調節を、
変わり続ける状況に合わせて
変えていく必要があります。
ここで紹介した例は
ほんの一部です。
さまざまな変化を見逃さないよう
麻酔科医は監視をしています。
さいごまでお読みいただきありがとうございました!
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