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特別支援学校からの発信「子どもたちの言葉の背景を考える」

言葉とは便利ですが自分の気持ちを上手く伝えるのには不便なものです。大人の僕でさえそうなのですから、子どもたちにとってはなおさらですよね。今回はそんな上手く言葉で伝えられない子どもたちの気持ちを推測したり、言語化したりすることについて話していきたいと思います。

「子どもの○○は多義語」のツイートから

記事を書こうと思ったきっかけは、Twitterで子どもの精神看護師@こど看さんの子どもの「○○」は多義語というツイートです。

例えば子どもたちの「イヤだ」には、言葉の額面通り「嫌だ、やりたくない」という意味とは限りません。

「不安だ」「助けてほしい」「怖い」「疲れてるからやりたくない」「困っている」「そばにいてほしい」「イライラする」「(イヤだと言ったけど)別にイヤじゃない」「甘えたい」「話しを聞いてほしい」「(つい口癖で言ってしまった)」「(本当はやりたいけれど上手く伝えられない)」「(みんながそう言ってるから)」などなどいろんな意味を秘めている可能性があります。

もちろん子どもによって普段から「イヤだ」という言葉を言う、言わないやその時のニュアンスみたいなものもあると思います。ですが「そう…イヤなんだ。わかった」と額面通りの言葉を受けて、打ち切るのではなく、「そっか、イヤなんだ。じゃあなにがイヤなの?どんなふうに感じているの?」なんて話を聞いていくうちに、その子が感じているものや抱えている想いがみえてくることがあります。

気持ちを上手く伝えることは難しいことです。大人の僕も伝えるのがめんどくさくて違う風に伝えたり、ややこしくなりそうだからと我慢して受け入れることがたくさんあります。

だからこそ、時間をとって「イヤだ」の裏にあるその子が感じているものや抱えている想いをじっくり考えることがとても大事だと思うのです。


話は変わりますが、保護者や教員の立場からは、子どもたちに「イヤだ」と言われると困ってしまうところですが、これは逆にチャンスでもあります。

もちろん頑張ってやってほしいという思いはあるかもしれません。でも僕が関わってきた子どもたちの中には「イヤだ」と断ることができず、自分で抱え込みすぎてしんどくなってしまう子もいました。断ることができずに騙されたり、いいように使われてしまうこともあります。断るスキルって実はとても大事なんです。

(画像はみんなの教育技術より)

「言われたことを忠実にこなすだけではなく、自立し自分で考え判断したり、無理なときは断ったり交渉できる人になってほしい」そう僕は思うので、「イヤだ」は子どもたちの成長のチャンスなのです。

断るスキルを身につけることにも、実際に断ったりしたときにどうなるのかを体験することにもつながります。もちろん全てを断ることは難しいので、どうしたらいけるのかを交渉することにもつながります。提案・交渉するようなアプローチについては以下の記事にまとめています。

子どもの背景を考えるとこちらの対応が変わってくる

「いやだー」「アホ、バカ、ボケ」「死ね」「消えろ」そんな子どもたちの暴言は「辛い」「恥ずかしい」「悔しい」なんて気持ちを表しているのかもしれません。

周りの大人や友だちに構ってほしいから、わざと悪口を言ったり、からかったり、いたずらをする子もいます。

もちろん暴言やいたずらは、世の中で誰しもに受け入れられるものではありません。ダメなものはダメと伝えることも大切です。でも、ダメなものをダメだと禁止するだけで全てが解決するわけではありません。こちらが感情的になって怒りや威圧をぶつけて、一時的にその暴言やいたずらがなくなっても同じことです。

その暴言やいたずらの背景にある、「辛いよー」「構ってほしいよー」という子どもたちの隠れた気持ちを受け止めて、具体的な代替手段、代わりのより良い方法を子どもたちが身につけないとなにも変わらないのです。

気持ちを上手く伝える方法を一緒に考える

具体的な方法を一緒に考えていく前に、学校やクラスの雰囲気はどうでしょうか?間違えたり、失敗したりを受け入れられない、できない子を蔑むような雰囲気はないでしょうか?もしそうならその雰囲気から変えていかないといけないでしょう。

僕が盲学校で働いていた時に、地域の学校から盲学校へルーペや単眼鏡の使い方を学びに来ているのに、地域の学校へ帰ったときに「恥ずかしいから」とせっかく練習したルーペをランドセルから出せない子がいました。もしかしたらその子のクラスの雰囲気が変われば、自分からルーペを出せたのかもしれません。

僕は自分の授業では「間違ったり失敗したりしても大丈夫!」と常々言っています。

自分自身が失敗したり、間違ったときに子どもたちの前で「悔しい!」「恥ずかしい!」なんて自分から言うようにしています。

そうして失敗したり、間違ったりしても大丈夫な雰囲気を目指します。

それに加えてお互いに人間なので、遊ぶときはたくさん遊ぶ、褒めるときは具体的に褒めることで、関係をつくっていきます。

そうすることで、少しずつ子どもたちが「辛いよー」「構ってほしいよー」といった弱み、本音を出してくれるようになります。

そうすることで、くやしいときはどうしたらいいのか、構ってほしいときはどうしたらいいのかを一緒に考えていけるようになります。

ドッチボールで負けて悔しいときには、「悔しい!」と思いを声に出す方法も、場所を変えて好きなグッズを使って気持ちを切り替える方法も、思いっきり身体を動かして発散する方法もあるでしょう。

大事なのはこどもたちと一緒に代わりの方法を考えて、試してみて、子どもたちが効果を実感することです。

そうすれば子どもたちの行動は変わっていくかもしれません。

自分の気持ちを知る、気持ちを表す言葉を増やす

子どもたちの中には、自分の気持ちに気づいていない子も少なくありません。また「嬉しい(快)」「嫌(不快)」のどちらかしか気持ちを表現できない子もいます。

そんなときには「今怒っているんだね」「イライラしているね」「悔しいんだね」とその子の気持ちを言語化してあげましょう。言語化すると、自分の感情を認識することができます。それが感情をコントロールすることへ続く一歩となります。

例えば、友だちに叩かれて泣いていたA君との会話。

A君(泣きながら寄って来て)「Bちゃんがたたいたの…」
先生「そうなんだ。たたかれてイヤだったのね?」
A君「うん、イヤだった!」
先生「悲しくなっちゃったのね?」
A君「うん、かなしい!」(ほどなくして泣き止む)

(画像は夏見台幼稚園より)

「うれしい」や「いや(怒り)」の段階がわかれていなくて、0か100ですぐにキレてしまう子もたくさんいます。

感情の温度計を使いながら、徐々に感情の段階、グラデーションがわかるようになれば、キレる前にクールダウンを選択することができるようになります。またアンガーマネジメントで感情をコントロールする方法や、自分の否定的な考え方をリフレーミングでポジティブに捉えることを学んでいきます。

(画像は1級ラジオ体操指導士 当山倫子のブログより)

いろんな気持ちを表す言葉を知り、自分の状態と関連づけて伝えられるようになることも大切です。僕は大阪府人権教育研究協議会の「いま、どんなきもち?」を使ったり、子どもたちに思いつく限りの感情を表す言葉を出してもらい、その中からいくつかを感情のカードとして選んで「その感情になるのはどんなとき?」なんて質問しながら確認したりしています。

(画像は大阪府人権教育研究協議会より)

帰りの会で出来事を発表するときに、ピッタリ合う気持ちを選んだり、「ヤッター!」「ちくしょう!」などの言葉を感情をこめて言ってもらったりしています。

まとめ

冒頭にも書いたように、Twitterで子どもの精神看護師@こど看さんの「子どもの○○は多義語」というツイートを見かけて今回の記事を書いてみました。

「イヤだ!」という子たちに対して、感情的に叱ったり、「イヤなの、じゃあやらなくていいよ」と冷たく対応したり…確かに世の中に出たら、そういう対応をとられることもあるかと思います。僕自身も余裕のないときには、そんな対応をしてしまうこともあります。

でもその子たちの言葉の背景を考えてみると、字義通りの意味でその言葉を捉えて対応するだけでは根っこの部分の課題は解決しません。そんなことを自分への戒めも含めて、忘れないようにしたいなという気持ちで書いてみました。

またどこかの機会で、自分が取り組んできた気持ちの学習についても紹介できたらなと思います。

子どもたちの気持ちを受け止め、その子が何を感じているのかを考えるためのお役に立てば幸いです。



表紙の画像は、子どもの精神看護師@こど看さんの「子どものイヤは多義語」というツイートから引用しました。