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特別支援学校からの発信「問題行動の背景を氷山モデルで考えてみる」

「困ったな」「やめてほしいな」と周りの大人たちが考える、問題行動といわれる子どもたち行動があります。

「なんでそんなことするの、いけないじゃない」「やめなさい」と注意したり、怒ったりすることは簡単です…が、それでその問題行動がなくなるわけではありません。仮になくなったとしても、その子が一時的に我慢して耐えているだけで、大抵後で大きな反動が返ってきます。根っこの部分では解決していないのです。

「周りが困ったと思っている子は、実は本人が『困っている子』だ」なんて言葉もあります。

「なんでちゃんとやらないんだ!」と厳しく叱る前に、その子の困っている背景を考えてみましょう。

今回はそんな方法の一つ、氷山モデルを紹介します。


氷山モデルとは

氷山の一角という言葉があります。あのタイタニック号も衝突した、海に浮いている氷山は、実は海に浮いている山のように見える部分よりも、海の下に沈んでいる部分の方がずっと大きいのです。

子どもたちの問題行動と言われる、例えば暴言・暴力や立ち歩き、立ち歩き、大声で叫ぶ、課題をやりたがらない、ルールを守れない…などは、この氷山の一角、目に見える部分です。

それら問題行動の背景にはずっと大きな沈んだ氷山が隠れているんだ、そしてその背景を探っていこうというのが氷山モデルの考え方です。

(画像はBOUZAN NOTE!!より)

本人の特性や発達を振り返る実態把握

目に見えない沈んだ部分の氷山、問題行動の背景を考える際には、本人の特性や経験、気づき、周囲の環境や状況を整理して、推測していくことが必要になります。

本人の特性を考えていくためには、障がいの特性や発達の道筋を知っておくことが必要になります。

障がい特性を知るというのは、例えばASD(自閉スペクトラム症)やADHDなどの発達障がいや、知的障がいをはじめ、その子の抱える障がいや疾患についてとその具体的な支援方法について知っておくということです。

例えば、ASDには、ウィングの唱えた「社会性」「コミュニケーション」「想像力」の特性や、こだわり行動、感覚過敏/鈍麻などの特性があります。ADHDには、「不注意」「多動性」「衝動性」などの特性があります。

また発達の道筋を知っておくことは、その子の今の位置がどの辺りなのか、次の課題がどれになりそうなのかを考えることに繋がります。問題行動の背景に、その子にとって難しすぎる課題があることは珍しくありません。

具体的な、発達障がいの特性や発達の道筋については、またの機会に記事で紹介したいと思います。

ですが、大事なことを1つだけ確認しておきます。それは、例え同じ診断であっても、すべての人が同じ特性を同じくらいに持っていることはないということです。当たり前の話ですが、人は一人ひとり違います。診断名などではなく、その子がどうなのかという視点で丁寧に実態把握をしていくことが本当に大切です。

問題行動の背景を考える

(画像はBOUZAN NOTE!!より)

BOUZAN NOTE!!さんより「氷山モデルシート」を引用させていただきました。

本人の障がい特性に由来するもの、本人のこれまでの経験に由来するもの、問題行動の背景にあると思われる環境や状況が記載されていますよね。

問題行動だけを見ていると本人のやる気や我慢だけに目が向いてしまいがちです。でも、その背景にも目を向けてみましょう。そうすればよいアイデアが浮かんでくるかもしれません。

例えば「授業中に教室から飛び出す」のはどうでしょうか。

もしかしたら課題の難易度が、本人に合っていないのかもしれません。何をすればいいのかが、言葉の説明だけでは理解できないのかもしれません。視覚的な手がかりがあればわかるのかもしれません。

課題ができないことを周囲からからかわれたり、馬鹿にされたりするのかもしれません。それが過去の思い出をフラッシュバックさせてしまうのかもしれません。失敗や間違いを受け入れられる雰囲気があれば、チャレンジできるかもしれません。

過去に教室を飛び出せば苦手な課題をしなくてもよかったという経験を積んできたのかもしれません。その子に合わせた課題があれば飛び出す必要はなくなるかもしれません。

「かまって欲しい」という気持ちが背景にあるのかもしれません。本人の気持ちを受け止めつつ、適切な代替手段、飛び出すではない他の行動を伝える必要があるのかもしれません。

次に何するのかわからず不安になってしまったのかもしれません。見通しをもてる支援があることで、安心して参加できるようになるかもしれません。

窓から見える運動場のバスケットボールが気になったのかもしれません。目や耳に入る情報や刺激が多すぎるのかもしれません。座席配置や教室の掲示を工夫してもいいのかもしれません。

集中力の限界なのかもしれません。40分以上も集中し続けるのって大変ですよね。話を聞くだけでなく、書いたり、話し合ったり、身体を動かしたりする活動があればいいのかもしれません。活動の合間に休憩時間があればリフレッシュできるかもしれません。

ずっと席に座っているのが我慢できないのかもしれません。プリントを配る仕事をお願いしたり、ボールを握ったり、椅子をバランスボールに変えたりなど身体を動かす活動を取り入れれば大丈夫かもしれません。

感覚の過敏さが背景にあるかもしれません。話し合いのザワザワ声や、音楽鑑賞の大きな音、絵の具やクレパスの匂い、窓の光に反射するノートの眩しさなどが原因かもしれません。イヤーマフやグリーンノートなど道具を工夫すれば参加できるようになるかもしれません。

原因は無数に考えられますし、ここに例として紹介したものが当てはまることもあれば、見当違いなこともあるでしょう。

大事なことはその子の実態を見ていく中でしか、その子の行動の背景を考えたり、その支援を工夫していくことはできないということです。

背景を考えていくって大事なんですよ。

まとめ

教員になりたての頃、「なんでできないんだ!」「ちゃんとしろよ!」と子どもに対して思っていた時期がありました。

今は少し違います。

「どうしたら、この子ができる、わかる、やる気になりそうかな?」

「この課題はこの子に合っているのかな?もっと生活に繋がる、子どもたちが興味を持つ題材や進め方はないかな?」

「大きすぎる課題を要求していないかな?子どもたちを追い込み過ぎていないかな?この取り組みが終わったら、ちょっとゆっくりしようかな」

そんな風に考えるようになりました。

それは、目の前の子どもたちのことを観察して、自分の言動や関わり方を振り返っていくことを教えてくれた先輩方のおかげです。

そして今回紹介した氷山モデルはそんな考え方をするのに役立つツールです。

目の前の子どもたちの行動の、その背景を考える際にぜひ活用してみてください。


参考にしたサイト

1.自閉症教育・支援フレームワーク BOUZAN NOTE!!「気になる行動には理由があります(氷山モデルで考える)」

2.広島県「発達障害のある人の支援において ⑩その他の支援」

3.LITALICO発達ナビ「発達が気になる子の「学習でのつまずき」の背景とは?支援で最も大切にすべき視点とアプローチ【講演ルポ】」



表紙の画像はみんなのフォトギャラリーから選んだ氷山のイラストです。