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幾重にも

駅前の小洒落たお花屋さんの前で
いかにも、花を買い慣れてなさそうな男性が
行ったり来たりを繰り返していた。

かかりつけの病院の受付を済ませ
順番まで時間があったので
一旦、外に出てみたら
男性はまだ悩んでいて
さらに、ナイスミドルの人数も増えていた。

それなりに乗降客が多い駅だが
普段は閑散としていて
小洒落た花屋に足を止める人は少ない。
なぜ、今日はナイスミドルが多いのだろう?と
疑問に思い、前を通るときにチラリと見たら
いい夫婦の日
と小さな看板に書かれていた。
そういうことか!と思うと同時に
結婚から間もない若い男性ではなく
ミドルエイジの方が花を選んでいることが
とても素敵で感動した。
もしかしたら、いい夫婦の日だけではなく
結婚記念日だったりもするのかもしれないが
いずれにしろ
ぎこちない素振りで伴侶に花を選ぶ
殿方の姿は、微笑ましい。

ちょうど通りすぎるときに、ひとりの男性が
ラナンキュラスの小さな花束を手に取った。
見ず知らずの殿方ではあるが
その方とご家族がラナンキュラスの花のように
幾重にも笑顔が重なり
末永く、倖せでありますように…と
願わずにはいられなかった。

個人的には、花束をいただくことは
正直なところ嬉しくない。
花を眺めるのは好きだし
選んでくれたことは嬉しい。
しかし、花束をいただいても
家に花瓶がないのだ。
花によっては、猫に毒となるものもあるので
猫と暮らし始めたときに
花瓶の類は、すべて処分してしまった。

30歳の誕生日に、よく行く飲食店のオーナーから
芍薬の花束をいただいた。
数ある花の種類の中でも大好きな花だったので
ものすごく嬉しかった。
しかし、家には花瓶がない。
2ℓのペットボトルをぶった切り
赤子ほどの大きさの花束を入れ、玄関に飾った。
美しい芍薬に申し訳ないほど、貧乏くさい器だが
それでも、凛とした華やかさが美しかった。

今頃、ラナンキュラスの花束を受け取った方は
きっと、美しい花瓶に入れて
笑顔の花を咲かせながら飾っているであろう。

なんでもない日を、ハッピーに過ごせるのなら
語呂合わせでも、企業の戦略であっても
記念日はよいものだ。

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