今年、僕の中で音楽が死んだ。-愛したものが色褪せるということ-

年の瀬だ。
皆さんにとって今年はどんな1年だっただろうか。
世間的な話題はコロナ一色で、感染者がまた増えたという不幸なニュースの合間を埋めるように、著名人の死や台湾の安全維持法が施行されるなど痛ましいニュースが続いた。

          ◇◇◇

僕自身はといえば、逃げ続けてきた論文をどうにか書き上げ、就職し、東京に出てきた。
色々なことがあった。
しかし僕がこの先、2020年を思い返すとき、僕が愛した数々のアーティストのことも同時に思い出すだろう。

この2020という年は僕の中で、
音楽への愛が咲き誇り、
そして死んだ年だった。

          ◇◇◇

僕はここ5年間ほど、音楽オタクだった。

この数年YouTubeで日の目を見ぬ音楽をディグることを密かな楽しみとしており、
毎年その年に見つけたお気に入りの曲で100〜200曲ほどのプレイリストを作るのを習慣にしていた。
するとその中の何組かは、少しして爆発的に売れたりする。
僕はこいつらが売れる前から目をつけていたんだぞ、みたいな古参気取りの快感に浸っていた。

          ◇◇◇

色んなアーティストを聴いてると、売れそうなアーティストか否か、自分の嗜好とは関係なく少しずつわかってくる。
歌詞がキャッチーで共感性が高いか、
イントロが短いか、
声質が流行りか、
ミキサーが適切か、
PVの映像加工がエモーショナルか、
サムネ画像の情報量が抑えられているか、
など(少なくともYouTube上で)流行る曲には条件がいくつかあった。
それと共に、音楽のムーブメント、流行の大きなうねりのようなものが漠然と見えてくるようになった。

          ◇◇◇

Twitterやインスタのストーリーで良いと思った曲のリンクやMVをあげていると、
友達におすすめの曲を聞かれる事が増えた。
勧めた曲が良かったと言われることが嬉しく、
もっと色んな人におすすめの曲を聴いてもらいたいという気持ちが芽生えてきた。
レーベルが小さかったり、プロモーションが下手だったり、曲調が時流から少し外れていたりしているせいで日の目を浴びれないアーティストはごろごろいるのだ。
彼らの音楽をもっと多くの人に聴いてほしい。
そんなちょっぴり傲慢な発信欲求が募っていった。

          ◇◇◇

そんなわけで彼女と二人でInstagramのアカウントを作った。
その人にめちゃくちゃ刺さる音楽に出逢って欲しい、また副次的に自分もそういった音楽に出逢いたいという思いを込め、
アカウントはMEET YOUR MUSICと名付けた。
週に2〜3回、テーマに沿ったプレイリストを投稿していく。
最初はフォロワーが1人増えるだけで嬉しく、それが10人になり、100人になり、1000人になった。

今思うとアカウントの規模を大きくすることに目が向いていた。
と同時にフォロワーが2000を超えたあたりで成長傾斜の限界が見え始めてきた。

まだ見ぬ曲と出逢って欲しいというコンセプトから僕らは、どちらかというとマイナーな、流行りのど真ん中からは外れた曲やアーティストを多く紹介してきた。

          ◇◇◇

しかしある時、今流行りの音楽や、誰もが知る名曲を詰め合わせたプレイリストを投稿すると、
目に見えて反応が多くフォロワーも増えた。
半ば内省的な趣味として始めたアカウントだったが、みんなが求めるものを提供するのも悪くないかと思った。

彼女と話し合って、流行りの音楽と自分たちが発信したい音楽を交互に投稿しようということになった。
元々流行の先取りのようなことは嫌いではなかった。
曲を探す際には今まで以上に流行に敏感になった。
tiktokをダウンロードし、
他の音楽アカウントをチェックし、
フェスのタイムテーブルを抑えた。
実際その中で思わぬ好みの曲と出逢えることもあった。
流行の些細な変化を見つけるのは骨の折れる作業だったが楽しさもあった。
フォロワーは5000を超え、6000を超えた。

          ◇◇◇

当時の僕自身自覚はあったのだが、次第に音楽の流行を追いかけることが目的になっていった。
そのときからプレイリストを作るために楽曲を探す事が苦痛になっていった。

投稿頻度もプレッシャーになった。
1投稿5曲、週で15曲、コンセプトに合っている曲をストックしなければいけない。
社会人になりたての僕は時間の使い方も不慣れで、音楽を聴くのに充てられる時間も少なかった。
効率化のために曲は2倍速でスキップ多用、イントロとボーカルの声だけを確認し、
"後でしっかり聴く""ボツ"のリストに割り振っていった。
そんな聴き方をしていたら音楽が僕に牙を剥くのは当たり前だ。

僕の音楽が好きだという心を殺したのは僕自身だった。

          ◇◇◇

限界を感じ、アカウントの更新はわずか半年で止まった。
アカウントが凍結してからも僕は音楽を殆どディグらなくなった。
YouTubeのおすすめはいつのまにかゲーム実況やバラエティ番組の違法アップロードで溢れるようになった。

          ◇◇◇

就活のとき、一瞬音楽業界も視野に入れていたが、今思えば目指さなくてよかった。
僕はどうやら仕事として扱う商材をどこかで憎んでしまうきらいがあるようだ。
音楽業界に入った途端音楽に嫌気がさしてしまっては元も子もなかった。

この文章を書きながら、ふと3ヶ月ぶりにインスタのアカウントを開いてみた。フォロワーは更新していたときの半分程度にまで減っていた。
更新を止めると没落は早いものだ。

          ◇◇◇

そんなわけで2020年の最後の4ヶ月は殆ど音楽を聴かなくなったのだが、とはいえこの1年は人生で一番音楽を聴いた年になった。


明日、そんな僕のささやかな音楽への愛憎を追悼する意味も込めて、2020年のベストソング10をnoteに書こうと思う。
紅白の合間にでも流し読みして、一曲でも聴いていただければ幸いだ。
その一曲がもし、あなたにとって出逢えてよかったと思える曲だったなら最高だ。

"MEET YOUR MUSIC"

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?