マッチングアプリで出会った男性のこと⑤

6人目の人は、年は4つ下だった。
自分の写真を載せている人で、パッと見は元ヤンみたいな感じ…
写真の印象は、
かっこ良くはないけど、ブサイクでもなく、
好みのタイプでもないけど、たまにはこんな人もいいかな…と、いう感じ。
あちらからのいいねにお返しをしてマッチングした。

とてもマメな人で、
毎日「おはよう!今日も頑張ろう」とか、
「お昼だね。午後も頑張ろう」とか
夜に「お疲れ様〜」などとメッセージを送ってくる。
あちらに既読がわかる機能がついているかわからないけれど、
私は1日1通くらいしか返信をしなかったのに、毎日毎日マメにメッセージをくれた。

ブルドーザーの写真もあったから、土木関係のお仕事かな?と思っていた。
『勉強が好き』というコミュニティが同じだったのかもしれない。
仕事に使うからと、いろいろな資格にチャレンジしているとのことだった。
向上心がある人とか、今も資格の勉強をしている人が良いな…と思っていたから、そういうところはとても希望の条件に当てはまるけれど、
積極的に返信しようとも思えないあたり、もうそこで終わっている感じはした。

それでも、「会ってみたら思った人と違うかも!」という希望はあったので、会う約束を取り付けた。
『面と向かってお茶とかだと緊張しちゃうから、ドライブしない?』
と言われ
「良い案だな」と思った。
ドライブしながら話が合えば、途中で食事やお茶が出来るお店に入ることも出来るかもしれないし、
ドライブのみで済めばお互いお金はかからないから、
(相手はガソリン代くらいかかるでしょうけど)
どちら負担?などという気遣いもしなくていい。

その男性と約束したのは、5人目の男性と会った次の日だった。
夕方まで仕事が入っていたので、17時半にショッピングモールの駐車場で待ち合わせをした。
やっぱり元ヤンが乗っていそうな車でやってきた。
車種は、わからない。
見てもわからないし、興味もないから、聞かなかった。

「初めまして、よろしくお願いします」
と、車に乗り込むと
『海と山、どっちが好き?』
と聞かれた。
元々海は好きじゃなかったから、
「山かな」と答えると、
『じゃあ、〇〇山行かない?』と言われ
「はい」と答えた。
そこから〇〇山までは1時間くらいだから、車で行ける中腹辺りの駐車場まで行って、夜景でも見て、まあ、往復3時間くらいか…帰りは早くて20時半か…と、まず思ってしまった。
次の日はホテルの朝食サービスの仕事が入っていて、4時半に起きなければならなかったから、出来るだけ早く帰りたかった。

ところが、走り出してみると、まぁ驚くほどの安全運転…
「1時間じゃ着かないじゃん!」
と思ったけれど、目的地に到着することがそもそもの目的ではないから仕方がない。

その男性は、やっぱり見た目は元ヤンっぽかったけれど、
話しやすかったし、しっかりしていて、とても性格が良さそうだった。
離婚した理由も事細かに話してくれて、
「どうしても再婚したくて、家を建てたんだ」
と、言っていた。
まだ建てたばかりで、今は庭や駐車場を自分でつくったり、
部屋の中に置いた観葉植物の手入れなどをすることが休みの日の楽しみだと言っていた。
これまでに会った人の事を聞いてみると、
まだ1人にしか会ったことはなくて、
こちらはお付き合いをしてもいいと思っていたのに、相手の人は、
娘や孫の世話で忙しく、あまり時間がとれなくてダメになってしまった、
と、話していた。
また、アプリ上ではさくらが多いということや、
どんな人がさくらや業者らしいかなどの話や、
マッチングしてやりとりをしていた人が、既婚者で、
自分から「私はヤリモクです」と言ってきた、
などという事も話してくれた。
会う日を決めるときに、どうしても平日の昼間しか会えないとか、
親の介護をしていて土日や夜は無理だとか言っていたらしい。
女性側にそんな人がいるっていうことは、男性側にもいるんだろうな…と思った。
男性のプロフィールではときどき、
【マッチングする人がいつも、既婚者や彼氏持ち】とか
【こっちは本気で探しているんだから】など、
怒りの言葉が書かれているのを目にしたことがあった。
男性は有料だから、そりゃあ腹も立つでしょうね…

途中で
『喉が渇いたからコンビニに寄ってもいい?』と
コンビニに寄ったので、車の中で待つつもりでいると
『降りなよ』と誘ってくれ
『何か飲んだら?何がいい?』と、とても自然に私の分の飲み物を買ってくれた。
何か飲む?とか、喉乾いてない?とかの言葉を使われていたら
遠慮して「大丈夫です」と、断ってしまったと思う。
また、小さなクロワッサンがいくつか入った物を買い、
車の中で
『ちょっと食べない?』と声もかけてくれた。
お腹はすいてなかったので食べなかったけれど、
すべての声掛けが、押しつけがましくもなく、さりげなくて、
とても居心地が良かった。
メッセージのやりとりの中で疑問に思ったこともいろいろと質問してくれて、お互い無言になったり気まずくなるような暇はなかった。

私は、その日の4日後に新車の納車を控えていたのに、
ガソリンをぼんやりと満タンに入れてしまい、
「ガソリンを抜く方法ってないのかな…元ヤンっぽいし、仕事も土木関係っぽいから、もしかしたら知っているかな…」と考えていたので、彼に聞いてみた。
ネットで調べると
【危険なので絶対にやってはいけない】とばかり書いてあったけれど、
ガソリンもかなり高騰していたので諦めがつかなかったのだ。
すると、案の定
『ホースで吸うと抜けるよ。職場で使う車に入れ替えたりすることあるから、やってあげようか?』と言ってくれた。
今日、この人に会って良かった~と、思った。
それに使うホースとやらを、途中ホームセンターで買おうということになったけれど、ずっと山道を走っていてお店など無く、
そうこうしているうちに、お店が閉まってしまうのでは?という時間になってきた。すると
『もう今日は〇〇山に行くのはやめよう。ホームセンターでホース買って、車に戻ろう』と言ってきた。
〇〇山はもう目前だったけれど、そこから1番近いホームセンターまで行き、透明の細いホースを購入した。
何のために1時間半もかけてこのホームセンターまで来たのか?という感じだった。
もと来た山道をそのまま戻り、ショッピングモールの駐車場へ戻ったけれど、もう真っ暗だった。
できるだけ他の車が停まっていない、そして街灯が明るい場所へお互いの車を移動させた。
私は、ガソリンを入れる缶は持っていて(過去に道の途中でガス欠になってしまったことがあり、それ以来常に車に積んである)それに入れて欲しいと頼んだ。
彼は私の車の給油口から、購入した透明の細いホースを入れて、
それを吸ったけれど、すぐに
ゲホッゲホッ、オエッ、と、咳き込んだ。
思い切り吸うと、ガソリンが途中まで上がって来て、ホースを下げると出てくるものらしい。
でも、自家用車ではそのようなことが簡単に出来ないようになっているのか、2度ほどやってくれたが、全く吸えた様子は無かった。
『これは無理だね。諦めるしかないわ』
とゲホゲホしながら言われ
「そっか…。じゃあ諦めるか…」と答えるしかなかった。

そして、そのままそこでお別れをした。

初めて会った女にガソリンなんか吸わされて、可哀そうに…
夜ご飯が不味かっただろうな…申し訳ない…
と思いつつも、まだガソリンが無駄になりそうなことが悔やまれて仕方なかった。

家に着いてから、お礼と謝罪のメッセージを送った。
とりあえずその日は、それだけにしたけれど、
「彼は無いな」と思った。
とてもとても居心地よくて、お付き合いをしたら楽しそうだった。
でも、どうしても外見が好きにはなれそうになかった。
伊藤淳史をちょっと良くしたような顔で、
私はどうしても、お猿系のお顔が苦手だった。
前日に会ったカッコ良い人について行ってしまったけれど、
今日この男性に同じように誘われたとしても、絶対にそれはありえない。
お付き合いをすることになれば、いつかその日がやってくるだろうけれど、
ちょっと生理的に無理かも…

でも、本当に性格が良い人で勿体ない。
誰かに紹介したいとさえ思った。
でも、家を建てた場所も問題だった。
とても田舎で、県庁所在地に住んでいる私や私の周りのシングルには不便すぎる土地だった。

次の日、もったいぶっても仕方がないと思い、
「居心地はよかったけれど、私は、私にこのアプリを紹介してくれた人のように、妥協せずに100人にも会うつもりでいます。あなたはまだ6人目なのです」とメッセージを送った。
彼は
『100人に会うのもいいけど、本当にピッタリ合う人には、会った瞬間に分かると思うよ。きっと俺ではなかったんだろうね』
と、何とも物分かりの良い、そして、こちらも嫌な気持ちにならないような返事をくれた。

お互いブロックはせずに、でもやりとりは続けなかった。


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