2023/7/23〜 M君とお別れしてからの私

【このお話の前はこちら】     


      ブロックします


その一言を見た私は、頭が真っ白になってしまった…
わざと、時間をおいて見たから、そのメッセージが届いてから、もう数十分経ってしまった……
既にブロックされているのだろうか?
「試しに何か送ってみようか…?」
とも思ったけれど、それに既読がつくことがないことだけを確認したときの虚しさを想像しただけで
「やっぱりやめておこう」
という気持ちの方が強くなった。
もう確認する術はない。

いつか来るかもしれなかったお別れだけれど、
突然過ぎた。
私からすると思っていたし、
もう一度会えると思っていたし、
何より直前に
『今日は?』
という会話をしていたのに……
「ブロックまでされるようなことなの?」と、直前のメッセージを読み直した。
彼が応援するミュージシャンに、ただ嫉妬してしまっただけなのに……
ただただ会いたかっただけなのに……
私のその気持ちはわかってくれないんだね……

でも、また明日になったら、何事もなかったように
『おはよう』とか言ってくるんじゃない?
もし、明日も気持ちが収まらなかったとしても、
3日とか5日とか、1週間もしたら、何か言ってくるかもしれないし……


ところが、
待てど暮らせど、1週間経っても10日経っても、全く音沙汰は無かった。

ブロックって何よー
フェードアウトにしてよー
でも、フェードアウトは難しかったかな…?
これで良かったんだよね…?
いや、それにしても!


毎日毎日頭の中を同じ言葉がグルグル回る。

アプリで7人目に会った男性と続きそうな良い感じになったのに、
心が晴れなかった。
  【7人目の男性についてはこちら

とにかく毎日毎日、1日中M君のことを考えてしまい、
ふとした瞬間に涙が出てきてしまう……
何故なの……?

ちょうどその頃、私はピアニストの五条院凌さんのコンサートに行った。
5月にも行っていて、そのときに
「あれ?聴いたことある曲…なんだっけ?」と、心を引き込まれた曲があった。
切なくて胸がキュウっと苦しくなるような…
中森明菜の《難破船》だった。
帰ってきてからYouTubeで何度も聴いたその別れの曲を、
その時期にまたコンサートで生で聴くことになり、もう号泣だった。

《たかが恋なんて 忘れればいい…》
恋じゃなかったのに、忘れられない……
《おろかだよと笑われても あなたを追いかけ抱きしめたい…》
本当におろかだけれど、そんなこともしてしまいたいと思ってしまった。


それにしても、最後まで本名を明かさなかったM君。
そんなに見られたくないFacebookには、
本当に一体何が書いてあったの……?
何かオタク的な趣味でもあったんだろうか……?

とにかくその事が気になって仕方がなかった。
悔しいような気持ちにもなった。

「本名が知りたい!Facebookをのぞいてみたい!どうやったら知れる?」



私は満月の8月2日の昼間に、彼の住む町まで行ってみることにした。
M君はよく、自宅の庭から撮ったと思われる写真を送ってきた。
お天気が良いことを知らせる空の写真だったけれど、
庭木の上部の他に、壁の模様に特徴がある、高さがありそうな建物の一部がいつも一緒に写っていた。

彼の住む町は田舎で、小さかったから、
ちょっと探せばそれが見つかりそうな気がした。

その他にも、よく通るのだろうと思われる道の写真など、
同じ景色の写真が何枚かあった。

その辺りを歩いてみたら、家がわかるかもしれない……

そして、本当にすぐに家が見つかった。
ビックリするくらい呆気なく。

何度も見た、写真の景色と同じ景色。
同じ木。
M君の家は、住宅街の中の1件で、
家の前の細い道は、そこの住人しか通らないような道だった。


家の前を車でゆっくり通り、表札を見ようとしたら、よく見えず…
庭にちょうど洗濯物を干しているお母さんらしき人がいて、
住人でもないのに様子を伺うようにそこをゆっくり走った私をギロリとにらみつけてきた。

顔を隠したお母さんの写真も、送ってきたことがあった。
髪型が同じだったから、M君のお母さんに違いない。

ヤバイ……
凄くドキドキしながら、ちょっと離れた見えないところに車を停めて、15分程そこで過ごした。
もう洗濯物は干し終わったかな……

戻ってみて、さっきとは逆方向から家の前を通る。
やっぱり表札らしき物は見当たらなかった。
今度はお母さんがいなかったから、引き返してもう一度通ってみる。
すると、なぜか、またお母さんがいて、先程より凄んだような顔でにらみつけてきた!(ただの思い込みで、気のせいかもしれないのだけれど)

もう戻れないよな…今度見つかったら本当に怪しすぎる……
と、仕方なく周辺をうろついてみた。
それにしても、玄関脇に車が停まっていたけれど、
M君、今日は休みだったの?
もしかして、家にいたの?
お昼を食べに帰ってきていたとか?
でも、初めて会った日に、仕事の日はお昼は食べてる暇がないから食べないと言っていたし……
食べる暇さえないんだから、会社から家までは帰ってこないだろうし……
今日は何の日?
また誰かのLIVEだった?
もし休みで家の中にいたのだったら、
お母さんが
「○○ナンバーの車が何回も怪しくウロウロしている」
などと言ってしまったかもしれない……

周辺をうろつきながら
「こんなところに住んでいるんだな…」
と思った。
派遣の仕事先に行くときに、何度もすぐ近くを通ったことがあった。

でも、今日来たのは、家を見つける事が最終目的ではなくて、
名前を知る事だった。
表札が無くては、わからない。

モヤモヤした気持ちのまま、2時間かけて家に帰った。

Google Mapを使い、M君の家を見てみる。
拡大して塀や玄関を見たけれど、表札は無さそうだった。
2階の窓に、好きなサッカーチームのシールが貼ってある。
やっぱり間違いなさそうだ。
名前は分からなかったけれど、家は分かった。
どうしても会いたかったら、待ち伏せすれば会えるだろう。
でも、そんな会い方をしたら、本当に永久にお別れだろうな…
警察に捕まってしまうかもしれないし……

満月だったその夜、お月様ノートに、
M君に宛てた手紙を書いた。
満月は、感謝と手放しをする日だと、マリも YouTube も言っている。


……………………略……………………
今 お別れしないと、この先もっとお互い辛くなってしまう。
でも、突然過ぎて大きな穴がなかなか埋められない。
M君のおかげで7kgも痩せられたし、
この3ヶ月本当に毎日楽しかったし、
嬉しかった。
携帯が宝物みたいに感じられたのは久しぶりだった。
メッセージを 今 読み返しても、楽しめる。
これから先もずっと宝物。
本当にありがとう。
いつかまた普通に会えたらいいな。
M君に合う女の子が見つかるといいね。
私にもピッタリ合う人がきっと見つかる。
幸せになるからね。
ありがとう。さようなら。 


涙を流しながら書き上げたのに、
その後すぐに考えたことは
「どんなアカウントでTwitterに登録しているんだろう……
とりあえず、Facebookは実名登録だけど、下の名前しか分からないし、
そんな名前の人は日本中にいっぱいいるだろうしな……」

そして、そう思いながら私は、
M君の住む町の名前と、下の名前の漢字を入れて検索してみた。

すると…………

なんと!
同じ人のものすごい数のSNSが出てきた!
Facebook、Twitter、インスタ、ブログ……それらの記事や写真が!
写真はたくさん載せられている様子。
自分の顔写真もたくさん。
M君だ。間違いない。
Facebookは元々実名登録にしても、
その他のSNSも、M君はすべて実名でやっていたのだ!
何があっても私に名前を教えなかったのに、全世界に本名を晒していたのだ!

なぜ私はもっと早く、この検索方法を試してみなかったんだろう……?

本名でTwitterをやっている一般人がいるなんて、考えもしなかった。
ユーザー名は、誕生日とイニシャルを組み合わせたものだった。

名字は、珍しくもないと言っていたので、
髙橋とか渡辺とかかな?
なんて、雰囲気から勝手にイメージしていたけれど、
予想もしなかった名字だった。
珍しくは確かにないけど、全く想像していたものとは違っていたから、
ものすごいショックだった
…………○○M君…………

ブロックされた今になって、M君のことが分かったことが、本当に悔やまれた。

自己紹介文はコピーしたように、どのSNSも同じだった。
○○出身・在住 ○年✕月生まれ。

自己紹介文には、✕月までしか書いてなかったけれど、
最初に貼り付けてある固定の記事で、
誕生日がいつなのか、
ハッキリわかるようになっている。

超個人情報……
紹介文の内容は、マッチングアプリに書いてあったこととも、だいたい同じだった。

私は、Facebookとインスタは登録をしていないけれど、Twitterは情報を得るためだけに登録している。
M君のTweetを見てみると
どこに居る、行った、
何をしている、
何の番組を観ている、
何のラジオを聴いている、
何を買った、何を食べた、などなど、
自分の行動すべてを知らせている。

誰が知りたいの、これ。

友達はいないと言っていたけれど、フォロワーは600人を超えていて、
何と地元の新聞社にフォローされていた。

一般人なのに、何故?

買った物や食べた物は、一緒にレシートまで写している。
金額はもちろん、買った時間やお店の住所まで書かれているのに。

指の指紋も隠していない。
もし悪いことをしたら簡単に捕まってしまいそうだし、
逆に何かを疑われても、アリバイはすべて証明出来そうだ。
お金が常に全く無いから、何かを盗まれたり犯罪に巻き込まれることは無いと思っているのかな…………

それにしても!
私や警察以外に、もしM君を探そうとする人がいるとしたら、
その人も簡単にM君を見つけることが出来るだろう。
私に送ってきた、家の庭から撮った空の写真や、
近所の道路の写真は、
Twitterにもたくさん載せられていた。

「私はここにいます❕❕」
と、叫んでいるようだ。

ブログは何年か前から更新されていなかった。
登録していなくてもちょっとだけのぞけるFacebookやインスタの一部を見ると、Twitterに載せている内容と全く同じだった。

これらを見てから気付いたのだけれど、
LINEではタイムラインも載せていて、
その内容もTwitterと同じだった。

このタイムラインに、なぜもっと早く気付かなかったんだろう……?


それからの私は、
暇もないのにヒマさえあれば、
M君のTwitterをのぞくようになった。
毎日マメにつぶやいているし、場所の表記もされているから、
「今ここにいるんだな」とか、
「今日はこんなことしているんだな」
ということがわかった。
朝から夜までTweetが無い日は
「今日は何をしているの…?」
と、悲しくなった。
「もしかして、女の子と会っていたりするのかな……」
などと妄想してしまう日もあった。

やりとりをしている間、私は土日祝日などの会社がお休みの日に、M君が何をしているか聞かないようにしていたし、勝手に
「お母さんと行動すると言っていたから、普通にスーパーやホームセンターなどに買い物に行ったり、そのついでにお店でお茶でもしているんだろう」
なんて思っていたけれど、
まぁ、ビックリするほど
毎週毎週、やれサッカーの試合だの、
どこやらのイベントだの、
誰やらのLIVEだの、登山だの、
山歩きだのと出掛けている。

お母さんは平日3時間だけとはいえ、保育士の仕事を毎日していると言っていたけれど、こんなに毎週出掛けていたら、疲れやしないのかい?
と、心配になるほど…

どんなに楽しいイベントだって、何時間も車に乗って出掛けたり、
1日屋外にいたりしたら、30代や40代でも疲れちゃうと思うけどな…
可愛い息子と一緒なら、大丈夫なものなのかしら…?

そして、お父さんは毎週お一人で何をして過ごされているのでしょう?
こんなに朝から晩まで、奥さんが息子にベッタリで……

私は、私とのLINEのやりとりの時間や内容と、その前後にどこで何をしていて何をつぶやいていたのかを、全部書き出してみた。
凄いストーカーみたい……
そして、約束したのに来てくれなかった5月20日の行動も調べてみた。
残念ながら、理由がはっきりと分かるtweetは無かった。
  【気になりましたらこちらへ】

M君は、遠い遠いと言ってなかなか私の家に来なかったけれど、
土日は私の住む市にけっこう来ていた。
しかも、そのときに私とやりとりをしていたこともあったのに、一言も
『今○○市にいます』
なんて教えてくれたことは無かった。
それもまたビックリだ。

私は、朝起きるとまずは
「M君おはよう」と、心の中で言って、
自分が寝てから何かつぶやいていないかとチェックし、
夜寝る前に、Twitterをチェックしてから
「M君おやすみ」と心の中で言って、寝た。
寝ぼけて何かに《いいね》を押してしまい、慌てて消したこともあった。

朝起きてTwitterをのぞいた瞬間に、M君が
『✕✕さん(おそらく芸能人?)が夢に出てきた!』
などとつぶやいたときなどは、その報告は私にしてくれたような気になり、
「このTweet1番に見たの、私だよ!」
と、そのことを教えたくなった。
ストーカーが、ストーキングをしている相手を勝手に恋人だと思い込んでしまうのは、こういう瞬間があるからかもしれない……と、思った。

また、あるときは、
夜勤の仕事で朝までいた場所に、昼間M君が出向いていたりして、ニアミスがあり
「もう少しあそこにいれば……」
などと思ったりした。

『ラジオで流れたこの曲が良い』
などと言っているのを見ては調べて聴いてみて、こんな曲が好きなんだなぁ…と思ってみたり、

『この番組を観ました』
と言っているのを見ては、タイムシフト機能を使って、その番組を観た。

『これが美味しい』
と言っているのを見ては、自分も買って、食べたり飲んだりしてみた。

『大好きなお店』などと言っているお店には、遠くてなかなか行けないけれど、いつか行ってみようと思った。

自撮りをしている写真を見て
「ずいぶん日焼けしたね」と思って、また涙が出たりした。

綺麗な景色や、珍しい物を見ると、写真を撮って送りたいと思った。

配送の仕事をしているから、台風の日などは「今日は大変だろうな」と、心配したりした。

アプリで会った7人目の人と、良い感じのはずなのに、
毎日頭の中はM君のことばかりだった。

それにしても、
自分が学生時代にスマホなど存在しなくて、本当に良かった!
こんなものが傍らにあったら、勉強なんか出来るわけがない。
私はきっと、好きな人のSNSをくまなく調べて、行動を監視し、
フォローしている人やフォロワーの人のTweetまで細かく見ていたに違いない。


M君は、家族の写真まではさすがに載せていないけれど、
父母や弟や姪の誕生日までつぶやいている。
大丈夫なのか、こちらが心配になるレベルの個人情報公開っぷりだ。
細かく知りたい私には、もってこいなのだけど……

M君は、初めて会った日にも、
テレビに写ったアナウンサーを撮った写メを見せてきたけれど、本当にアナウンサーが好きなようで、
フォローしているのも、いいねをするのも、アナウンサーが多かった。
テレビに出ているメジャーな人ではなくて、地方局の人や、ラジオのパーソナリティなど。
その手の人にコメントすると、けっこうリプライがあるようだった。

また、夕方のニュース番組のアナウンサーがとても大好きらしく、
よく彼女のアップの写真を撮っては、
『美しい』とか『きっと性格が良いと思う』『毎日写真を撮っている』などとTweetしていた。
それを見る度に、嫉妬してしまう私……

ある日、派遣の仕事先で流れてきた曲に、また泣きそうになった。
仕事中にもかかわらず。
泣きそうになったというより、涙がこぼれた。
マスクをしていたから、他の人には気付かれなかったと思う。

松任谷由実の《リフレインが叫んでる》
だった。
《どうしてどうして僕たちは出逢ってしまったのだろう》
《どうしてどうして できるだけ やさしくしなかったのだろう 二度と会えなくなるなら…》


満月の夜に、手放したはずなのに、
全く心から離すことが出来なかった


【このお話の続きはこちら


 

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