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高校時代のある朝の記憶。

朝、薄暗い部屋の中で身支度をする。

リビングでは鬱の母が寝ているので、私はそっと布団を畳み、寝室から出て顔を洗い、制服に袖を通す。
高校生にありがちなよくわからない複雑なネクタイの結び方をする。今日もまぁまぁいい形状だ。

自分の部屋で軽く髪をセットして、レンチンしていたタッパーに入ったままの白飯をスクールバッグに放り込む。

「行ってきます」

小声で呟くこの声に返事はない。


小雨でも雪でも基本は自転車で高校に向かう。

馬鹿みたいに坂の多い住宅街を、ブレーキ壊れたらしぬよなっていうスピードで駆け抜ける。

今日もギリギリ、たぶん予鈴が鳴るくらいのタイミングでは着くだろう。


なるべく信号に引っかからないように疾走する。

日によって信号待ちを避けるために歩道橋を駆け抜けたり、右折待ちの車がいない交差点で赤信号の間に真ん中の安全地帯まで進んだり。

学校付近が上りになるのがつらい。 

まずいな、そろそろ予鈴が鳴るけど校門のまだ手前だ。

校門のところでは風紀の先生が挨拶をしている。
おはようございますと言っている体で、ぁ〜っす!みたいな挨拶っぽいのだけ言う。
無視してると思われたくないけど息切れて挨拶どころじゃないんだって。

本鈴までに教室に入れば遅刻ではない。

自転車は適当な場所に置いて、貴重品(財布と携帯)だけ持って走ろう。
上履きとかも後だ。
とりあえず下駄箱でローファーを脱いで靴下でツルツル滑る階段を駆け上がる。

この高校、お年寄りに優しいシステム(1年、2年、3年で教室階数がさがる、自転車置き場も下駄箱に近くなる)で本当によかった。

身一つで教室に着いて、おはよ〜と小声で友達に言いつつ席に着く。
教員はもう来ているが一応本鈴前なので何も言わない。

「ねぇmet、カバンは?w」
「チャリのカゴの中だよ。空気抵抗になるじゃん?w」
「出たよ、意味わかんないからそれ。後で取りに行くのめんどいじゃんw」
「遅刻するよりましだってw」

ここで本鈴が鳴る。
「朝のHR始めます」

いつも通りの1日が始まる。

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