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不毛で魅惑の次世代バトル デサンティスvsニューサムの人気知事対決

先月30日、少し前まで共和党のホープとして注目の的だったのに大統領選に正式立候補した途端に勢いを失い今やトランプ氏はおろかニッキー・ヘイリー元国連大使に抜かれつつあるフロリダ州知事ロン・デサンティス氏(45)と、民主党知事で人気トップクラス、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事(56)が、一対一の討論会で初の直接対決を果たしました。

司会は共和党支持の保守系でメディアFOXニュースの看板キャスター、ショーン・ハニティー氏。デサンティス氏はもちろんニューサム氏とも個人的に仲が良く、2人に直接対決を持ちかけたところ快諾され、今回のディベートが実現したそうです。

デサンティス氏はともかく、ニューサム氏は大統領選に未出馬であるばかりか、「出馬はない」と念を押し続け、討論中も「(デサンティス氏との)共通点がある。それは、私も彼も2024年、党の指名候補になることはないということだ」と宣言する場面がありました。

そもそも討論に引っ張り出される立場ですらないのですが、確かに民主党のホープとして注目度では抜群の人材。コロナ禍初期のアメリカで最初に州全体のロックダウンに踏み切り、感染対策でニューヨークのクオモ前州知事と並ぶリーダーシップを発揮して以来、全国区で知名度を上げました。しかもクオモ氏と違ってその後セクハラで失墜することもなく(コロナ禍パーティー疑惑というプチ騒動はありましたが)、さらには歴代政治家の中でも随一、ハリウッド顔負けの超絶イケメンとあって、本人がいくら否定しても“バイデン氏に代わる大統領候補“との呼び声が尽きません。

カリフォルニア州 ギャビン・ニューサム知事

一方のデサンティス氏も勢いには陰りが見えているとは言え、まだ45歳。仮に来年の大統領選で撃沈しても、共和党のキープレーヤーで居続ける可能性は高いでしょう。そのため今回の討論会を“2028年の前哨戦”と見る向きもあるようです。

フロリダ州 ロン・デサンティス知事

では、肝心の討論会について深掘りしたいと思います。

FOXニュースが恥も外聞もなく偏向メディアぶりを披露

冒頭、司会のハニティー氏は「私が生粋の保守派だということは広く知られているが、今日は中立の立場を守り、議論の一部にはならない」と宣言したのですが、蓋を開けてみると準備された質問や資料はまあカリフォルニアにとってネガティブな内容ばかりが選び抜かれていました。以下、具体例です。

人口流出:2021〜2022年の州の人口増減が、カリフォルニアは人口75万人減、フロリダは45万5000人増。なぜ?
治安:2022年、殺人、レイプ、傷害、強盗などを含めた凶悪犯罪発生数が、カリフォルニアは49万9500件、フロリダは25万8900件、全米平均38万700件。どう見る?
ホームレス:カリフォルニアは17万2000人、フロリダは2万6000人。何が原因?
税金:所得税はカリフォルニア8%、フロリダは0(所得税なし)。どう見る?
失業率:カリフォルニアは4.8%、フロリダは2.8%。どう見る?
ガソリン代:カリフォルニアは1ガロンあたり4.85ドル、フロリダは3.17ドル。 どう見る?

FOX News「Great Red vs. Blue State Debate」(2023年11月30日放送)より抜粋

フロリダにとってネガティブな数字はほとんど提示されず、唯一固定資産税がカリフォルニアに比べ0.2%ほど高いことくらいでした。

そもそもFOXニュース主催、ハニティー氏がモデレーターという時点でこうなることは大方の人が予想済みでした。ウォール・ストリート・ジャーナルは討論前日の論説記事でもっと辛辣な統計をリストアップし、「もし討論でこの辺を突かれたらニューサム、痛いよね」と述べていましたが、これがほぼドンピシャ当たった形です。

バイアス満載という前提条件はさておき、いかに効果的に自分の立場をアピールするかが討論の醍醐味とすれば、今回の勝者は僅差でデサンティス氏だったかなと個人的には思います。

ニューサム氏に「嘘つき」のレッテルを貼ろうとしてチャチャを入れたり、小馬鹿にした笑いを浮かべる攻撃の仕方は多少のいやらしさを感じさせたものの、主張のポイントは極めて明確で子供にも伝わるほど分かりやすく、アピールの「基本のき」を押さえている印象でした。さらに相手を論破する場面で「教育に悪いポルノ漫画切り抜き」「サンフランシスコの人糞マップ」といった小道具を持ち出したり(実はルールで禁止されているそうですが、討論の最中は突っ込まれてはいませんでした)、「カリフォルニアからフロリダに移住したら最高だったという人に会った。ちなみにギャビン・ニューサムの義父だけどね」とユーモアを交えたりといった場面がありましたが、このような“見せ方”の巧みさはカリスマ知事としてプレゼンの場数を踏んできた成果でしょう。

対するニューサム氏。言わばアウェーな空気に切り込むのを覚悟で準備をしてきたようですが、その準備が仇になったと思われる箇所がいくつかありました。特に冒頭、早々に「人口流出・流入」について議論が始まり、先攻のデサンティス氏がその背景を説明する形で主張したのに対し、ニューサム氏は唐突に「自分が討論会で成すべきこと」を語り出したかと思うと、漠然としたデサンティス氏への攻撃を展開。最後に先述の「私も彼も指名候補にならない」との主張で発言を終え、ハニティー、デサンティスの両氏から「質問に答えてない」とツッコまれるという失態をやらかしました。

一般的に討論会は冒頭で「オープニング・ステイトメント」という自分の主義主張をアピールするくだりがあることが多いので、おそらくニューサム氏もそのつもりで準備していたのでしょう。それが思いがけず早々に本題に入ったために準備した内容が流れにそぐわず、結果アドリブ力のなさを晒してしまった形です。ただ、出鼻をくじかれ2人にイジられつつも動揺や照れ笑いなどせず、デサンティス氏の挑発的な態度につられる様子も微塵もなく、あくまで終始自分のペースを保って討論を続けたのには、けっこうなメンタルの強さを感じました。

ブックバン問題に「好きじゃない」 率直すぎるニューサム戦法

トピック自体がフロリダを持ち上げる内容ばかりなので、当然議論はデサンティス氏に有利に運び、波に乗ってフロリダを持ち上げカリフォルニアをディスれば良かったのですが、ニューサム氏はそうはいきません。上述のような不利な統計にいちいち反証しなければならず、しかも民主党の代表として、カリフォルニアだけでなくバイデン政権を持ち上げるという重責もありました。

そんな逆風の中でも、フロリダの政策の問題点を指摘したり、バイデン政権の功績をアピールしたりするタイミングを見つけては、要所要所で挟み込んでいたので、アウェーな状況の割に善戦したと言っていいと思います。

特に印象的だったのはABCニュースも「討論中最も白熱していた」と評していた、教育に関する議論のくだりです。議題はフロリダで小学校3年生までは性的指向やジェンダー・アイデンティに関する教育を公立校で禁止するという通称「Don't Say Gay」法という州法について。デサンティス氏は「学校は子供の教育の場で、思想を教える場所ではない」との主張を展開し、先述の「教育に悪いポルノ漫画切り抜き」を持ち出し、「こんな本がカリフォルニアの学校に置かれている」と攻撃に出ました。

ニューサム氏はこれに対して、Don't Say Gay法の影響でフロリダの学校の図書館から大量の書籍が撤去される現状、いわゆる「ブックバン現象」に言及し、「デサンティスの指揮のもと、昨年1年間で1406冊の書籍が禁止された。トニ・モリスンアマンダ・ゴーマンの書籍の何が悪いというんだ。彼は教育を文化の排斥の武器に利用している」と指摘。さらに1980年代、共和党の故レーガン大統領がカリフォルニア州知事だった頃、同性愛者の教職員就任を禁止する州法が成立しかけたのをレーガン氏は阻止したと例を挙げた上で「LGBTQコミュニティーの品位を落とす君のやり方は好きになれない。自身に反対する人々の品位を落として辱める君のやり方を好きになれない。根本的に不快だ」となかなか身も蓋もない批判に出ました。

ニューサム氏の個人的な感情移入がやや過ぎたきらいはありますが、実際ブックバンはフロリダの強硬政策の中でリベラル派だけでなく一部共和党の穏健派からも疑問が指摘される話題の一つ。そこに政治的議論を超えて率直な思いを込めて切り込んだのは、高ポイントだったように思います。

逆境がデフォルト ニューサム氏にはバイデン路線を継ぐ資質が?

デサンティス氏の明快な論調と時に余裕綽々の態度(内心どうかは別にして)は強みでもありますが、これが災いして親近感や人間味に欠ける側面もあります。この点は共和党の身内のFOXニュースですらもデサンティス氏の「課題」として挙げていて、あるコメンテーターは「これがジョー・バイデンにあってロン・デサンティスにないもの」と指摘しています。

一方のニューサム氏は、この「ジョー・バイデンにあってロン・デサンティスにないもの」を持っていると思わせる瞬間が、討論会の中の一幕から垣間見えました。

ニューサム氏がデサンティス氏への反論で、フロリダで昨年開催された知的障害のある人たちが参加する「スペシャルオリンピックス」について言及したくだり。背景にあるのは、当時主催者側が新型コロナワクチン接種を参加者に義務化したのにデサンティス氏が反発し、「義務化するなら罰金2750万ドルを課す」として、結果的に主催者側が義務化取り消しを余儀なくされたという出来事です。

これをニューサム氏が「不当」だと指摘すると、デサンティス氏は「特定のアスリートを参加させないことこそ差別だ。大会で戦いたいというダウン症の子供たちを蚊帳の外に置きたいのか。なんて酷いliberal bully(リベラル派のいじめっ子)だ」と猛反発。すると、冷静さを保ちながらもニューサム氏は「ところで、私は耐えられるよ。慣れているからね」と一見意味不明の発言をしました。

続けてデサンティス氏の政策を「トランスジェンダーへの攻撃、同性愛者への攻撃(=Don't Say Gay法)、弱者たちへの攻撃、女性に対する攻撃(=妊娠中絶禁止法)」と非難した上で再び「私は耐えられる」と言い、そしてこで出たのがこの発言です。

私はbullyに慣れている。君はbully以外の何者でもない。分かってるぞ。人を脅して辱める。それが君のやり方だ

どうやらニューサム氏は、このbullyという単語に反応していたようです。そこからは互いが互いをbullyと呼び合う不毛な議論が続き、見かねたハニティー氏が軌道修正する展開になりました。

ニューサム氏の「私はbullyに慣れている」という発言には、根深い背景があります。隙のないルックスと知事にまで上り詰めた現在の地位とは裏腹に、幼少期はとある事情に悩まされ、いじめられた過去があるそうで、先述したメンタルの強さはここに秘密があるようです。そして、これはバイデン氏の幼少期の経験とも重なる部分でもあります。

次回のブログでは、このニューサム氏を悩ませた、バイデン氏とも共通する「とある事情」について、詳しく語ろうと思います。


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