クリニック、ベンチャーなど小さな組織で決定的な活躍をしてくれる人を採用するにはどうすれば良いか?
メディヴァで20年以上に渡って、スモールビジネスにおける採用(自社向け)と、クリニック、小規模病院等(支援先)のスタッフ採用に携わってきました。
その経験から感じることは、これらの組織で採用する側から見ると、大企業に比べてネームバリューが落ちるので採用が難しいことに加え、毎回の採用人数が最小限であるため、難易度が高いということです。
そのような中でどのように対応していけば良いのでしょうか?
小規模組織における採用の難しさ
例えばクリニックで一つの職種を募集する場合、条件によっては定員1名に対して数十名〜200名以上が応募してくれることがありますが、応募者が多ければ採用が成功すると言えるでしょうか?
おそらく、書類選考、面接で有望な候補者を数名程度に絞り込むことは容易にできると思いますが、最後の選考で1名に絞り込むときにマッチングが良くないと、せっかく多くの応募者が来てくれても徒労に終わってしまいます。
また、小規模な事業での発展を考えると、組織力に頼ることが難しい場合も多く、個人に決定的な働きを求めることになります。一般的にネームバリューに劣る小規模組織が「個で活躍してくれる人」に入社してもらうことは可能なのか?と悩まれている方も多いようです。
採用で最も重要なことは「ここで何を得られるのか」の明示
そんな中で、自社(自院)の未来を一緒に創り上げてくれるようなスタッフを採用するにはどうすればよいのでしょうか?
どんな採用の場合も大枠のプロセスとしては、
1:必要とする人に応募をしてもらうこと
2:応募者の中から採用すべき人を見極めること
3:こちらからオファーを出した人に入職してもらうこと
の3つになりますが、それぞれ順を追って考えてみたいと思います。
1:応募してもらうことについて
ー募集ルート、拡散方法よりも大事なことー
応募してもらうことについて考えるときに、情報発信ルートや媒体に気持ちが傾く方が多いかもしれません。もちろんそれらは重要なのですが、一番大事なこととして強調したいことは、その人に対して募集側がどのような価値を提供できるか?という視点を持つことです。
何かを売り込むのが広告だとしたら「こちらが何を提供できるか?」を記すのが当然だと思いますが、人材募集についてはついつい「仕事を求めている人が相手なのだから仕事があることが提供価値である」と思ってしまいがちです。それで、「こちらが何か価値を提供する」というより「こちらがあなたに求めるもの」、欲しい人材のスペックや満たすべき勤務条件など、こちら側の一方的な視点から考えてしまいがちです。
応募する側は仕事を求めているのでしょうが、多くの求人の中から、各人の基準を持って選択を行っているのですから、求めることばかりで「何を得られるのか」を疎かにしては相手にされないでしょう。
応募者が求人を選ぶ基準は、業務内容、通勤、勤務の曜日や時間帯、給与などが基本的な部分ですが、これからの発展の核となってくれるレベルの人材が最も重視するのは、よりソフトな側面、明確に言えば「自分が活躍でき、やりがいと楽しさを持って働けて、成長できること」です。
この職場では、、、
・何を体験できるのか?学べるのか?
・自分のどの能力をどのレベルで発揮できるのか?
・どのようなやりがいがあるのか?
・どのような上司、同僚 と働くことができるのか?
・長く働いた末に自分はどのように成長できるのか?
といったことです。
そもそも仕事は大変なもの、辛いもの、やりがいや楽しさを求めるものではないという考えもあると思いますが、大変だけど価値のあることを成し遂げたときに、人は一段上のレベルの楽しさややりがいを感じるのだと思います。
ですから、「あなたにこういう活躍をして欲しいです」と伝えることは、相手に「要求する」ことであると同時に、相手にそのチャンスや環境を「提供する」ことでもあるのだと思います。
ここに採用の最大のポイントがあると考えます。
ー漠然と「活躍してほしい」を超えて、より絞り込むことの重要性ー
この際に、漠然と「想定したポジションで力を発揮し、活躍することで自社・自院をより良い姿に向かって前に進めてくれること」という程度では不十分だと経験から思っています。
多くの場合、ざっくりと「能力が高くて、業務を問題なくこなしてくれて、今いる人たちとうまくやってくれて、、、」という程度のイメージに止まっているようです。間違っている訳ではないですが、来て欲しい人に響くか?という観点では不十分です。
経験上、求めるもの・提供するもの(活躍の場面と内容)は的確に絞り込めば絞り込むほど相手に響くと思っています。それぞれの人が思っている本質に鋭く迫ることによって、「あ、これは自分のことだ」「自分が求めている姿にピッタリだ」と感じてもらえる可能性が高くなるのは自然なことだと思います。
例えば、
・現在置かれた状況を明示し、その中でこれから新しい事業/医療を創り出すための課題は◯◯で、 解決方法を探って欲しい。実行面では未知の状況でも粘り強く取り組んで実現してほしい
・新規事業開発が求められている状況なので、高い目標を掲げつつ、限られた資源を効率よく使いながら緻密な計画と大胆な実行をリードできる役割をになって欲しい。
・今は安定的に少しずつ業容を拡大するフェーズなのできちんと確実に業務をこなしつつ、組織を育成するリーダーになって欲しい。特に大切にしている価値観は、、、
・第二創業期を迎えており、これまでカルチャーを継続しつつも、少しずつカルチャーを変える必要があるので、緻密に組織変革を仕掛けつつ、実行面もムードメーカーとしてリードして欲しい。
・経営環境が厳しい中、この状況を乗り切る/ 新しいフェーズに向かって激動の中で新しい事業を創る組織を引っ張っていくリーダーシップを発揮して欲しい
等々、、募集する組織の数だけニーズもあり、書き出せば切りがありませんが、
・現在の状況(外部環境、事業のフェーズ、内部環境・リソースなど)
・最終的に目指しているビジョン
・どのような場面で
・どのような能力、特性を発揮して
・何を成し遂げてほしい
と、現状と目指すものをできる限りクリアに絞り込み、オープンに語って欲しいところです。
目指すビジョンや、そこに至るまでのプロセスを描写することになると思いますが、そこに”ワクワクするもの”があるか?、という視点を持つことも重要です。
ー 募集ルート、拡散方法についての視点 ー
広告媒体の選択や募集条件などよりも、メッセージの中身が相手に響くかどうかの方が重要だと書いてきましたが、情報を発信するルート、方法を適切に選択、設定することはもちろん重要です。これらの詳細についてはここで深入りせず、重要なことを以下の7つのポイントとしてあげるに留めておきます。
1.情報を広く発信する求人広告媒体はベースとして必要となる。
2.こちらからの一方的な発信だけでは不十分でスカウトなどのダイレクトリクルーティングが必要。
3.媒体の選択は、職種や想定する人物像によって有効性が異なるので、最適なものを選択できるよう常にアンテナを張ること。
4.選択が最適かどうかは事前に全て判断するのは難しく、ある程度の試行錯誤は覚悟すること。
5.媒体の有効性は常に移り変わる。ほんの数ヶ月で状況が変わるため常に変化に敏感でいる必要がある。
6.広告的媒体のみでなくSNSでの発信も行う。発信先については広告と同様の考えで選択する。
7.自社(自院)のウェブサイトにしっかり情報を用意しておき、広告やSNSからサイトへ誘導して読んで・見てもらう。
ー 媒体費用、紹介フィー等、お金についてどう考えるか ー
もう一つ、さまざまな媒体や人材サービスを利用するときの費用については気になるところだと思うので少し考えてみたいと思います。人材業界のサービスは世の中のニーズが高いことの影響か、「高い」と感じられることもあると思います。そんな時は一度、自分たちが一人の採用に平均いくらの費用を掛けているかを計算してみると良いと思います。
世の中で一人採用するためにかかっている費用の平均値はいくつかの数値が出回っていますが、概ね数十万円ー150万円というところだと思います。あるサービスを利用するかどうかを検討しているときに、これを導入したときに何人くらいの採用を目指していて、他にかかるコストを合わせて一人当たりいくらの費用がかかるのか?を考えてみると、十分コストに見合う費用かもしれません。逆に大幅に上回るようであれば、そこまでの価値はないのかもしれません。
ただし、私は採用はコストを効率化することよりも、効果を最大化することを一番のポイントとすべきだと思います。その人が入って本当に活躍してくれたときに得られるものを金額に換算すれば、何百万円かかっても割に合うものでしょう。採用費用は間接業務におけるコストの視点ではなく、効果の視点をもって行うべきだと思いますので、費用対効果も経営目線で判断すべきだと思います。
2:採用すべき人の見極めについて
ー よくある落とし穴 ー
人を見極めることについては、経験、スキル、人柄、潜在能力などいくつもの基準があり得ますし、 選考者それぞれに人材観や見極め方法があると思いますが、選考時に陥りやすい間違いが存在します。それは、「だれが一番能力が高いか」という一元的な観点で選考を進めることです。
ここでいう「能力」は一言で言えば学校で良い成績をとる能力というようなイメージですが、一番能力が高い人が最も成果を出してくれるとは限りません。
人を見極めるに当たっても、上記の1で述べた部分が最も重要で、一般的な能力ではなく、こちらの想定した場面で想定した力を発揮してくれそうなのか?という観点で”YES”なのか”NO”なのかを判断することが「見極める」ことだと思います。
思ったとおりの役割で力を発揮する姿が想像できるか"を見極めるためにはどうすれば良いでしょうか?
私の場合、まずは素直に、過去にどのような場面で、どのような選択を行ったのか、どう行動してきたのかを質問するようにしています。例えば「一番きつかったことはどんなときで、そのときにどのように対処しましたか?」「これまでに一番打ち込んだことは何ですか?」といった質問をスタートにして話を聞き、その応募者についてより理解を深め、この人であれば想定している状況でどのように対処するだろうか?とシミュレーションして答えを出します。
ー ありきたりな「面接トーク」を乗り越えるには? ー
面接用に相手が求める姿や、一般的に良いとされる人物や実績を答えとして用意してくる応募者も多いと思います。嘘と言ったら言い過ぎですが、少し”盛って”いたり、本来の姿というより目指している姿を提示される場合もよくあります。
その場合も丁寧に、いつ、どんな状況で、どう考えて、何を行ったか、その結果何が起こったか、修正が必要だった場合にどう修正したか、そこから学んだことは何か、といった感じで具体的なことを深掘りしていくことでシミュレーションがより正確に行えると思います。
表面的な”やったこと”+”その結果”ではなく、状況判断や思考過程、特に意思決定をどう行ったかというところまで話を深めていくと付け焼き刃では対応できず、説得力のある答えを無理矢理ひねり出すことも難しくなってきます。
そして、もう一つ重要だと思っているのが、こちらが伝えていることがどれくらい理解されているか?、理解されているとしたらどれくらい”響いているか”、ビジョンや価値観にどれほど共鳴してくれているのか?ということを会話の中で感じ取ることです。
人はそれぞれ自分なりに仕事の性質や能力を捉える時に、既に自分の頭にある軸や概念によって物事を理解しているところがあります。こちらが何かを投げかけた時に、それがどのような軸や概念に沿って捉えられているかを見ることが、相手を知るために非常に有効だと思っています。例えると、潜水艦同士が、お互いの姿を探知するためにソナー(音波)を発信し、その反響を感知/分析することで相手を捉えるという感じでしょうか。
もう一つこの「響いているか」を見ることの意義は、現状だけでなくポテンシャルを測ることができるというメリットもあります。それは一言で言えば「本人が認識していない能力は育てにくく、認識しているものは育つ可能性が高い」という経験則に基づいています。
ー 長く続けてくれる人をどう見極めるか ー
応募者の方はよく「これを最後の転職にしたい」と仰いますが、当初はそう思っていても、長く続けたくない職場に入ってしまった場合、結果としてそうはなりません。長く続くかどうかは、何らかの要因の結果であって、お互いの意思や希望の産物でもないと感じられます。
入職者も会社(職場)も、お互いに良いと思って長く続くかどうかは、何によって決まっているのでしょうか?
私はそれは、お互いに求めることの一致だと思います。「求めること」にも様々な要因があると思います。長期〜短期、表面的なこと〜深いこと、などの分類で、待遇、通勤、働き方、仕事内容、職場の雰囲気などなど。もちろん上に書いたような活躍のチャンスやそこに求める成長などもそうです。
それらの中でも結果として関係が長く続くかどうかを左右するのは、長期的で深いところにある意思が、その職場で実現できるかどうかだと思います。大きく言えば価値観や人生観といったところ、少なくとも仕事を通じて長期的に実現したいことが、その職場で実現できるかどうか?というところです。
その人ごと各々に、長期的で深い願望を満たして自己実現したい内容というのがあると思いますので、
・それはどういうことなのか?
・それは自社(自院)で長期的に満たすことができるものなのか?
という命題にYES・NOの答えを出すことがお互いに重要であると思います。
具体的な見極め方法はここで詳述するには大きすぎるテーマなので機会を改めたいと思いますが、一つだけ言っておくと、実は応募者ご本人にもはっきり掴めていないことが多いということです。
質問したらすぐに答えが返ってくる類のものでも無いので、丁寧に対話しつつ自分についての気付きまで到達することが必要であると思っています。
3:オファーした人に入職してもらうために
ー 選んでもらうために手を尽くすこと ー
採用すべき人が応募してきてくれて、ようやくその人を見極めたとしても、そのような人は、どこからも内定を取ることができる場合が多く、その候補者に再度、自社を選んでもらう必要があります。
そのためには採用プロセスを通じて、1で述べた内容(自社・自院の目指すものと、そこに到達するプロセスの中で、その方にどのように活躍してもらいたいか)を、より深く理解していただくことが重要だと思っています。相手に理解してもらうために出来るだけ丁寧に説明することはもちろんですが、理解してもらったかどうかを確かめつつ、足りない場合は追加説明や、担当者との面談をセットする、自社内の見学をしてもらうなど、目指すことが達成できているかを確かめつつ労を惜しまず対応するべきです。
また、全てのプロセスにおける対応、ほんの一言の言葉遣いや表情などにも、応募してくれた方への敬意とその方に活躍して欲しいという気持ちを込めることも意識するべきです。
この時によく見る間違いは「丁寧にしなければいけない」「マナー違反を避けなければ」ということのみに気を取られて、世の中の一般的なマナー、プロトコルを遂行することに終始することです。丁寧であることはもちろん大事ですが、より重要なのは、相手の立場に立つことで、いくら丁寧であってもこちらの業務の都合や成果に気を取られていると、結果としては気持ちや内容が伝わらない事務的な、もしくは相手の気になっていることに応えていない内容となり、結果として違和感を持たれてしまうでしょう。
ー 活躍が期待できる人が「やってみたい」と思うのは? ー
もう一つ重要だと思うことは、自社(自院)理念を本当に実現していきたい"場合にマッチングの良い人材は、完成されたものに当てはまるより、自分が参加して創り上げたいと思う場合が多いと感じます。候補者には、その理念に対してどこまでができているところで、これからどのような方向で力を発揮して欲しいか、といった「未来志向」の内容を出来るだけ正確に伝えることが有効でしょう。
候補者本人とこちらの求める役割や、力を発揮して欲しいポイントなどをオープンに話し、意見を交換することにより、お互いにそのイメージが一致したときに、候補者のほうにも「やってみたい」という気持ちが強く芽生えるものだ思います。
採用プロセスは、相手を見極めるだけでなく、「やってみたい」という気持ちを掻き立てられるか?キャリアを賭けて取り組みたいと思ってもらえるか?こちらが試されているということを心して取り組むべきだと思います。
まとめ ー 採用とは何なのか? ー
ここまで主に「採用する側は相手に響くようなものを提供できなければならず、それを伝えなければならない」という趣旨で書いてきましたが、そう考えてみると、クリニックやスタートアップなどの小規模事業にとってスタッフを採用するという活動は、自らの目指すものや価値観を定義し、それを広くコミュニケーションし、応募者とそのイメージを共有して、擦り合わせていくことによって、最終的にはお互いが「共鳴」しあうプロセスなのだと思います。
筆者プロフィール
岩崎克治 Katsuji Iwasaki 株式会社メディヴァ取締役
大阪大学大学院 情報工学分野 修士課程修了。
マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントを経て、1997年に(株)インクス入社。ITによる高速金型事業の立上げ、クライアント企業の製品開発プロセス改革等に従事。2002年メディヴァに参画。
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