見出し画像

E-コンサルの適切性と今後の展望

前回(アメリカにおけるE-コンサルの事例と有効性)、米国最大級の医療ネットワーク、Partners HealthCare System内でのE-コンサルの研究を紹介しました。

専門医への不要な対面診察を減らし、患者負担も減らすことができるといった有用性が見いだされました。今回は、引き続きその研究で評価されたE-コンサルの適切性について紹介します。[1]

▲前回の記事はこちらからご確認いただけます

「質問の適切性」の4つの評価

 これまでのE-コンサルの有用性に関する研究では、受診回避率や専門医が回答するまでの時間短縮などを評価するだけでした。本研究ではE-コンサルの有用性に「質問の適切性」を結びつけました。

「質問の適切性」を評価した理由は、受診回避に及ぼす影響を把握するための効果的な指標がなかったことや、受診回避率だけでは例えば「プライマリ・ケア医が自分でガイドライン等を調べる代わりに専門医が質問に答える」といった事例を考慮することができなかったためです。「質問の適切性」は以下の4つの点で評価されました。

①各種学会のガイドラインや広く利用可能なエビデンスに基づく資料(UpToDate®)などを参照すれば解決する簡単な質問か。

例)長時間の移動後に発症した初発の深部静脈血栓症に対する抗凝固療法の期間は?

②単なる医療施設に関する質問等、医師が答える必要のない質問か。

例)自院で行ったパンチバイオプシーの検体をどこに送ればよいですか?

③Eコンサルを介さずすぐに専門医受診を促すべき緊急性のある質問か。例)関節炎と胸膜炎があり、全身性エリテマトーデスの再燃と思うのですが、どうしたらよいですか?外来通院で対応できますか?

④患者の状況をE-コンサル形式で扱うには複雑すぎる質問か。

例)〇〇さんは7年前に嚢胞性線維症で肺移植を受けている43歳女性で、アスペルギルス肺炎とカンジダ症を合併し、発熱を繰り返している患者です。

上記のいずれかに当てはまる質問はE-コンサルとして不適切と定義しました。

今後のE-コンサルの展望

 E-コンサルの適切性をコンサルト記録のレビューにより行ったところ、741件のうち520件(70.2%)が適切と判断されました。適切とされた割合は、60.5%(膠原病科)から77.9%(精神科)の範囲でした。適切でないと判断された理由の多くが、ガイドライン等の確認不備とE-コンサルで解決するには複雑すぎるということでした。

 この論文の著者らは、E-コンサルの適切性を理解することは有益で、適切性を改善することができれば、E-コンサルの有用性はさらに高まると考えています。

 今後、E-コンサルプラットフォームを導入・改良する際には、上記のような基準をE-コンサル利用のガイダンスとして設けるとよいかもしれません。仮に適切でないと判断されたコンサルテーションも、データとして蓄積し、よくある質問という形式での提示や専門医に対面診察を依頼すべき事例として紹介することは、プライマリ・ケア医への教育において有益と考えられます。

 例えば、膠原病科でよくあるE-コンサルの質問として「抗核抗体価が単独で陽性である場合、どのように評価すればよいか」というものがあり、これに対しては「抗核抗体上昇の集団有病率」について回答されます。しかし、「抗核抗体陽性で関節痛がある患者の診断」についてアドバイスを求めた場合は、膠原病専門医は状況の複雑さが増すと考え、対面診察を求めることがあります。この「抗核抗体上昇」に関するガイダンスをE-コンサルプラットフォームに提示することで、プライマリ・ケア医はE-コンサルにするのか、それとも対面診察を依頼するのかを検討することも可能です。

 また専門医に質問する前に確認すべきこと、といったトピックの提示も質問者側にとって有益な情報となりえます。実際によく知らない領域の疾病を診療する時、専門医にとっては当たり前のことすら知らずに専門医に意見を求めたくなることがあります。そういう時にも、今までのコンサルテーションの事例集やよくある質問があると非常に便利であり、より的確なコンサルテーションを行うことができるのではないでしょうか。

Mediiのプラットフォームサービス「E-コンサル®」

 株式会社Mediiが提供する遠隔専門医コンサルサービス「E-コンサル®」では、過去のコンサルテーション事例集が公開されており、実際にどのように回答がもらえるのかや自分の質問したいことと似た事例がないかを参照することができます。

 今回の研究の結果、E-コンサルは従来の対面診察と比較して、効率的なケアモデルであることが示されました。また診療科によって受診回避率や適切性が異なることから、E-コンサルに適合性の高い専門診療科があることもわかりました。

新規会員登録はこちらから

 E-コンサルは専門医へのアクセスを改善するための効果的で患者中心のアプローチと言えます。適切なE-コンサルは対面診察の必要性を減らし、それによって患者と医療従事者のコストと時間を削減することが可能です。今回の研究は、医療システムが統合された大規模医療ネットワーク内で行われましたが、「E-コンサル®」ようなポータルサイトでも代替可能と考えられます。より大きなネットワークを構築することが可能であり、プライマリ・ケア医が日本のどこにいても、全国の専門医からアドバイスを受け、患者が最適な医療を受けられる環境が整う未来はそう遠くありません。

参考文献
[1] Ahmed S, et al. Utility,Appropriateness, and Content of Electronic Consultations Across Medical Subspecialities. Ann Intern Med. 2020;10:641-647

執筆者:Dr.心拍 
総合病院勤務医として臨床または研究に従事。医学博士。複数の専門医資格を有し、論文執筆や国内外の学会発表も実践しつつ、若手の指導にもあたる。これまで培った経験を生かして医師ライターとしても活躍。また専門知識を生かして監修や編集、Webディレクターとしても活動している。最近は予防医学、デジタルヘルス、遠隔医療、AI、美容、健康、睡眠などに関心を広げデジタルヘルス企業に関する記事の連載も行っている。様々な企業との連携やコンサルティングも経験し、幅広い分野での貢献に努めている。

寄稿者:株式会社Medii 代表取締役 山田 裕揮
リウマチ膠原病専門医。自身も免疫難病患者でもある。「どこにいても より良い医療を 全ての人に」を掲げ、ドクターtoドクターのオンライン専門医相談システムを運営するヘルステック領域のスタートアップ企業。500人以上の専門医が登録し、地域偏在の課題が大きい免疫難病や希少難病を中心に全40専門領域を網羅し、専門知見を必要とする医師とオンライン相談でマッチングしている。医師と患者の双方向から捉えた地域医療の課題である専門医偏在問題の解決を目指している。