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Medii Patient Voice/10人以上の主治医変更、診断までの13年間の苦闘

Mediiでは、難病や希少疾患を抱える患者さんをゲストにお招きし、診断や治療でのご苦労、日常生活のこと、患者さん一人ひとりのナラティブ(物語)をお話しいただく「Medii Patient Voice」というトークイベントを社内で定期開催しています。

Mediiで働くメンバーが、医師の先にいる患者さんを強くイメージしながら、Mediiが掲げるミッション「誰も取り残さない医療を」の達成に向け取り組んでいくための理解の場として、全メンバーが参加しています。私たちが手を差し伸べようとしている難病、希少疾患の患者さんがどのような想いを、体験を、苦悩を持っているかをリアルに知って、明日からの事業を通じてより多くの患者さんの笑顔に繋げたいというMedii代表 山田の強い願いから実現しています。

今回は、指定難病であり極めて稀な疾患である家族性地中海熱と診断された、竹内さん(仮名)にお話を伺うことができました。診断を受けるまでのお話と、診断を受けてからこれまでの気づき、そして病気と付き合う難しさについて、リアルな声を聞かせていただきました。


家族性地中海熱とは

指定難病とされている家族性地中海熱(FMF)は、多くは遺伝子の変異により体内の炎症を制御する機能の異常による発作性・周期性発熱と漿膜炎(臓器を守る膜部分の炎症)を主な症状とする自己炎症性疾患(自分の免疫が間違って自分の正常な細胞を攻撃してしまう疾患)です。

この疾患では、1ヶ月に1回など定期的かつ突如発作性に40度近くの発熱をきたし、胸膜や腹膜という膜部分の炎症により胸背部や腹部に激しい痛みが生じます。症状は12〜72時間持続し、その発作を一定の周期で繰り返します。

加えて、過労や月経、精神的ストレスによりこれらの発作が引き起こされることも知られており、発作が起きている期間以外には無症状の期間があるのが特徴です。しかし、自然と収まってしまうことが逆に厄介なことに、症状から一般的な風邪や腸炎などの感染症と診断され見過ごされることも多く、診断までに平均約8.8年かかると言われています。

未治療の状態が続くと、炎症によりアミロイドという異常なたんぱく質が臓器に蓄積し、心臓、腎臓や肝臓など全身の臓器の機能が徐々に低下してしまう病気です。

そのため早期に適正な診断を受けることが非常に重要となります。現在日本国内では530人がFMFと診断されていますが、実際の患者数は2,500〜3,000人とも言われています。

治療としては、コルヒチンを毎日内服することで一定割合の患者さんの症状を抑えることができるものの、全員に効くわけではないためその次の一手に苦しむことが多かった状況でした。しかし、近年カナキヌマブ(IL-1b阻害薬)という新薬が開発されて、これまで治療を一定期間行っても病気が改善しなかった患者さんに有効なことがわかってきています。

発症から診断までの道のり

苦しくても診断がつかず、様々な医療機関の受診を繰り返した13年。しょうがないと思って生きてきた

竹内さん(仮名)

私が家族性地中海熱と診断されたのが先月(このお話の機会をいただく1ヶ月前)のことなので、本当に最近のことです。しかし症状が出てから診断に至るまでは13年もかかりました。今は家族性地中海熱とわかっているので、薬を飲んで安定した生活を送れていますが、今までどういう大変な症状があったのかということをお話させていただきます。

初めて症状が出たのが大学1年生のときです。熱が41度くらいでて、お腹が痛すぎて、、内科にかかったところ炎症の数値が高すぎて入院するしかないと言われ、1週間入院しました。そのときはウイルス性の腸炎と診断されました。熱が出て、お腹が痛くなって、数日間ご飯が食べられなくなって、数日たてば治るという症状がウイルス性の腸炎とそっくりらしいです。

それ以降は半年に1回、多いときは毎月あるいは2ヶ月に1回のペースで、全く同じ症状がでていました。今は32歳なのですが、大学生の頃から最近までずっと続いていたんです。

数えたことはありませんが10回以上、この症状で病院にかかっています。総合病院にもかかっていますし、開業医の内科、消化器科などにかかっていて、全てウイルス性腸炎と診断され、整腸剤でもどうぞと言われて帰される形でした。なので自分でもウイルス性腸炎に滅茶苦茶なりやすいのかな、しょうがないのかなと思いながら生きてきました。

医師の一言をきっかけにネット検索で辿り着いた病名

病気の発見となったきっかけは、熱の出る周期が生理周期と9割以上一致していることに気づいたことです。子宮の病気なのかなと思い婦人科で子宮の病気の検査をしました。特に異常なしと言われたのですが、そのとき婦人科の先生が、「生理中に40度の熱が出るのはどう考えてもおかしい、腸炎じゃない病気なのでは」と初めて言ってくださったんです。自分の中で何かやばい病気なのかなという気持ちが湧いてきて、インターネットで『生理、高熱』などの検索ワードで何度も調べていく中で、家族性地中海熱という病気を見つけました。

家族性地中海熱はリウマチ科で診断できる病気と書かれていたのですが、自分の家の周囲にリウマチ科があるのかどうかすら知らなくて、そもそも紹介状なしでリウマチ科にかかれるのかもわからなかったので、その病名を知ってから数週間くらい空いてしまったんです。

ちゃんと病院に行こうと思ったきっかけとしては、仕事の業務上、必ず自分がいなければならないという日に、熱が出てしまうことが去年結構ありまして、急遽代わってくださいと頼まなければならないことが連続してあったんです。自分の中で業務に支障が出てしまうところがすごくつらくなってきて、何とかしようと思って半年前に、消化器科の開業医の先生に、リウマチ科の病院に紹介状を書いてほしいとお願いしました。

そこからさらに大学病院に行った方がいいと紹介いただいて、大学病院のリウマチ科にいきました。するとこの病気の診断は遺伝子検査をしないと正確にはわからないと言われたので、遺伝子検査をして、2ヶ月ほどで検査の結果が出て、家族性地中海熱と診断されました。


症状が仕事やプライベートに及ぼした影響


ーーありがとうございます。そもそも家族性地中海熱の症状の何が1番辛いのかお訊きしてもいいですか?

熱が出ることはよくある風邪の症状とそんなにかわらないと思います。熱よりもお腹が痛いのが本当につらくて、立ち上がれない、座っていられないくらいだったんです。眠れなくてのたうち回っているみたいな感じです。私は Web エンジニアで、基本的に在宅のデスクワークをしているのですが、座っていることすらできないくらい痛く、仕事を休むことが多かったです。


ーーどうすれば楽になるなど、ご自身の対処法はありましたか?

すぐに考えられるのが鎮痛剤を飲むことだと思うのですが、1度鎮痛剤を飲んでさらにお腹が痛くなってしまったことがあり、それ以来、鎮痛剤は飲めなくなってしまい、耐えるだけでした。3日間耐えることも珍しくなかったです。


ーー3日間熱とともにその痛みに耐えつつ仕事もしないといけないとなると大変だと思います。大学の時からですと、試験のときに重なったりもしますよね。

学生のときにはバイトを休んだり、友人と遊びに行くのを全部キャンセルしたことがよくありました。友人からは、すぐ熱を出す人認定をされていましたね。


ーーご自身もそうですし、ご友人もそのような大変なご病気だとは思わなかったでしょうね。やはりそういう偏見というか、理解してもらえない苦しさはありましたか。

そうですね。今までずっとただの腸炎と言われていて、一般的な病気ではあるのであまり辛さは伝わっていなかったと思います。お医者さんに相談しても、免疫をつけるためにこうした方がいいというようなアドバイスを貰うだけでした。先生側も自分の診断を疑問に思われないみたいで、違う病気かもしれないと発展していかなかったのもあると思います。


ーー病気のせいで大学生の時などやりたかった職業を諦めたりしましたか?

大学のときは比較的症状の頻度があまり多くなかったので、特に何らかの影響があったわけではないと思います。しかし、就職してからはストレスが原因なのか、頻度が増えました。心のどこかに会社を休むことをよく思われていないのでは、という不安があって、在宅でできる仕事を選んだのかな、と今となっては思います。


診断がついて、気持ちがとても楽になった

ーー病気の診断がついて、周りの目が変わったり精神的に楽になったことはありますか?

精神的には大変良くなりました。病気の診断がついたときは高いワインをあけてお祝いをしたくらいでした。周りの人の目という観点でいうと、あまり病気のことを周りに言ってはいないですね。なぜ言っていないのかというと、話したところでその病名を知らないことが一般的なので何も変わらないのかなと思ったり、病気の話をどこまでするのかが難しかったりもして、親と親しい友人1,2人にしか伝えていません。
家族性という名前からもわかる通りこの病気は遺伝性なので、親族にも同じ遺伝子を持っている可能性があるらしいのですが、母方も父方もそういう人は全くいないそうで、皆なんでだろうねって反応だけでした。
なので診断がついてから特に変わったことはないですが、自分が一番元気になったとは思います。2ヶ月に1回腸炎になるのは自分の免疫が弱いからではないか、この食べ物が悪いのではないかとか色々悩んでいたのがなくなって、とても楽になりました。


ーー難病にかかってることを周りの人に知られることは気にしたりしますか?

特に知られたくないという気持ちがあるわけではないです。やはりそれをなかなか理解してくれないだろうなと思って、言うきっかけもなかなかないという現状で、話す必要もないのかなとも思っています。


ーー自己炎症疾患友の会という家族性地中海熱の患者さんの会があるのですが、実際に確定診断をされてから同じ病気の患者さんとコミュニケーションをとる機会はありましたか。

今のところまだありません。先日Mediiの方とお話をさせていただいて、そういう会があることを知りました。ただ自分がこの病気にたどり着いたきっかけがインターネット検索だったので、同じ症状で苦しんでいる方に知って欲しいという気持ちがあって、そういう観点で今後、情報交換ができたらいいなと考えています。そういった意味では、このような機会をいただき、他の人にも知ってもらえる機会があると嬉しく思います。


13年も診断がつかなかった原因


ーー13年間の中で10回も病院にかかられて毎回ウイルス性胃腸炎と診断されたときに、ご自身でそんなことないのではと思うタイミングはありませんでしたか?

10回といっても全部違う病院なんですよね。もし同じ病院に10回行っていたら主治医の先生も何かおかしいと気づいてくれていたかもしれませんね。自分でもちろんおかしいとは思っているのですが、毎回新しい先生のところに行って毎回腸炎と診断されると、やっぱりそうなのかなと思ってしまっていました。


ーーやはり10人の医者に言われたら、そうなのかなと思ってしまいますよね。

竹内さん:
ただ、腸炎と言われた次の日の日曜日に、血液検査の結果を見た主治医から電話がかかってきたことはあります。検査の数値が異常なので安静にしてくださいといった電話がかかってきて、もしかしたら腸炎と診断したけれど検査結果的には何か思うところがあったのかもしれません。その後また次の病院に行ってしまったのでその先生とはそれきりでしたが、何度も同じ医師のもとへ行ってみるという手も一つあったのかもしれないと今は考えています。

Medii代表 山田(リウマチ膠原病専門医):
でもその信頼関係の構築も難しいですよね。医師にとって診断や治療はもちろん重要なことですが、それだけでなく、また悪くなった時はあの先生のところにいきたいなという患者さんの行動変容をいかに促していけるかということもあると思います。
医師、特に開業医は毎日かなりの数の腹痛、熱で来る患者さんを診ていますが、そのうちの99.9%以上が普通の胃腸炎といわれています。家族性地中海熱の診断の難しさは、少し経つと熱や痛みが治まり、あたかも感染症が治ったように見えてしまうことだと思います。
このように家族性地中海熱などの難病が紛れ込んでいることを見抜ける先生が少ないのは個人というより構造上の課題の一つですが、先ほどのお話にあった「血液検査の違和感のご連絡」のようにちょっとした違いを感じた時に、”いつもの感染性胃腸炎”とは違う説明や対応ができるか、はとても重要ですね。同時に、医師側もこの”違和感”という形で留まらず、より詳しい専門医にパッと相談できていれば”違和感”が”確信”に変わることもあるんだろうなと思います。


家族性地中海熱と向き合う医師の視点と患者の視点


ーー竹内さんの場合は婦人科の先生が違和感を感じて調べてくださったという話がありましたが、そのあたりいかがでしたか。

友人からおすすめされた病院で、リサーチした上で行ったのですが、本当によく話を聞いてくれました。婦人科の病気はたくさんありますが、生理中に高熱が出るというのはあまりないらしいです。お腹が痛くなる病気は、例えば子宮内膜症などがあると思いますが、熱が出るとなるとやっぱり感染なのかなとか色々考えてくださって、結果わからないと言われました。でもその時わからないことはわからないって言っていただけたのが初めてだったので、逆にそれがきっかけでたどり着けたということもあり、先生には感謝しています。


ーー珍しい病気だからこそ、主治医の先生が不慣れなように感じたことはありましたか?

竹内さん:
そうですね…今かかってるのは大学病院のリウマチ膠原病アレルギー科なのですが、薬が効けばまずその病気だろうという判定ができるので、遺伝子検査はしてもしなくてもいいと言われました。ただ自分がせっかくならちゃんと知りたかったので検査をお願いしました。
検査の結果、遺伝子上の判定が出て、且つ薬が効いてるのがわかったので、お医者さんとしてはそれ以上することがないという感じに見受けられることがありました。
例えばこの薬はどういう作用があるのか、生理のときに症状がでるのはなぜなのかという質問をしたことがあるのですが、わからないという回答を貰っただけでした。もう少し色々聞けたらいいなと常々思ってはいますが、実際薬を飲んでれば症状は出ないので、それ以上何もやりようがないのかなという気はしています。

Medii代表 山田(リウマチ膠原病専門医):
正直言うと、家族性地中海熱についてのご質問をいただいても、多くの主治医はあまり詳細な専門的なことは答えられないと思います。理由は患者さんからすると人生を左右する疾患を持つことになるのですが、その主治医の先生からすると日本に数百人しかいない患者の一人で、自分も初めて経験する患者さんだからです。
そのため、次回の外来までに調べてきますと答えざるを得ないことが多いです。また、医師としては毎日数十人、毎月千数百人という様々な疾患の患者さんを診ており、しかも7,000以上もある希少疾患を全て的確に把握することは現状自分の生活を犠牲にしてまで現場を支えて頑張っている先生には負担が追いつき切れません。
なのでいかに効率的に患者さんの課題を解決できるか、とう視点で新しい様々な仕組み作りが重要になり、Mediiが提供する医師間で症例相談ができる「E-コンサル」のように、自分の専門じゃないことに関して、より専門の医師の意見がすぐに聞ける仕組みは重要となると思います。


希少な疾患があることを患者にも医師にも知ってほしい


ー患者さん視点で、竹内さんが我々に対して期待することはありますか?

今までにかかった消化器内科などの先生の診断が間違っているとは全く思っていません。そこが一番問題なのかなとも思っていて、そもそもその家族性地中海熱のことを知らないのか、知っているけど診断ができなかったのか、私はどちらかというと前者なのかなと思っています。もし知っていればもう少し診断の可能性があったかもしれない。患者さんの数が少ない病気が色々あるということを、患者側にも医師側にも伝えていく方法が何かあったらいいなと思います。
E-コンサルという仕組みがあることも、お医者さんに伝わればいいなと思います。先生によっては患者側から言いづらい先生もいますが、最後の産婦人科の先生のように、違和感に気づき、悩んで考えてくださってその上でわからないと言ってくださった先生には伝えたかったです。



竹内さんのお話は、家族性地中海熱のような希少な疾患に対する医療構造上の限界と、患者が経験する苦難を浮き彫りにしました。13年という長い歳月と10人以上の医師を受診し苦しみ続けた末、ついに正しい診断が下されました。しかし、この竹内さんの実体験は家族性地中海熱に限らず、難病や希少疾患など専門性の高い疾患の診療に対する問題提起でもあります。希少疾患についての理解と診断率の向上が、「誰も取り残さない医療を」実現するために不可欠です。

Mediiでは、この難病診療における課題を解決するため、主治医と特定領域や疾患の専門知見をもったエキスパート専門医をつなぐ仕組みである「E-コンサル」を医師に提供しています。この仕組みにより、主治医は様々な疑問を気軽に専門医へ向けて無料で相談ができ、その回答によって患者さんがより適切な診断と治療を受けられるようになり、未来が変わっている患者さんがたくさんいます。

診断がつかなかったり、納得のいく治療が受けられず苦しんでいる患者さんが全国に大勢いて、今現在も必死に病気に向き合っていること。そして患者さんたちを救うために、全国の先生方とともに私たちMediiが存在していること。この事実を胸に刻み、「誰も取り残さない医療を」実現するためにチーム一同、真摯に、全力で突き進んでまいります。

竹内さん、貴重なお話をありがとうございました。


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