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オンライン診療システムに求められるもの

現在、オンライン診療を行っている医療機関のほとんどは診療所です。200床以上の中~大規模病院で「オンライン診療」を積極的に行っているところはほとんどありません。

なぜか?

一番の要因は、診療報酬の低さです。


■大規模病院の外来システム

200床以上の病院では、通常、外来患者に対する診療予約や受付登録、待合室の番号表示、問診入力、診察記録としての電子カルテ、処方箋発行、会計や請求書発行に関して驚くほど多くのシステムが稼働しています。

外来患者は一定のルールに沿って再来受付機の操作を行い、「受付票」や「外来基本票」と呼ばれる紙を持って、診察してもらう診療科に周り、その紙に印刷されている患者情報のバーコードをバーコードリーダーでチェックすることにより、スムーズに間違いなく適切な順番で診察がなされるようなシステムが構築されています。昔は紙カルテや手作業で近いことを行っていましたが、現在ではこれらのシステムなくして、外来患者の診療をスムーズに行うことは難しいと考えます。

なお、200床以上の医療機関では随分前から、できるだけ入院医療に力を注ぐために、外来の診察料はとても低価格に抑えられており、一般的な慢性疾患や簡単な血液検査、処置等に関する診療報酬は別に算定できないルールになっています。
そのため、上記のようなシステムには、億単位の費用がかかりますが、これらのほとんどは入院医療に係る診療報酬で賄われています。

■オンライン診療システムに求められるもの

大規模病院向けのオンライン診療システムを開発しようとした場合、既存の電子カルテシステムと同程度の利便性が求められるでしょう。勤務医(アルバイトを含む)や職員への新規操作や運用変更に関する周知はとても難しく、経営部門に不満を向けられると困るからです。

例えば、
・オンライン診療の予約がとれること。患者から新規予約や予約変更ができること。
・オンライン診療の前に、患者が問診を送信できる機能があること。
・患者が被保険者画像を送信することができ、それにより医事部門が”簡易”に保険確認や患者登録を行えること。
・オンライン診療そのものの操作に関して、通常の対面診療と同程度の操作性であること。
・待合室の番号表示や処方箋発行、各科受付や会計部門においてオンライン診療患者特有の情報共有や導線に沿ったシステム動作が必要であること。
・レセコンで、対面診療の際の診察料と同様なオンライン診療用自動算定の仕組みがあること。
・全体としてオンライン診療特有の業務ができるだけ発生しないような運用となること。
などがあげられます。

これらを網羅し、既存の電子カルテシステムとできるだけシームレスな形で、感覚的に操作できること。それと同時に患者自身のスマートフォン等にAPLを配信し、そのAPLからオンライン診療にまつわる様々な操作や確認、情報の送信が行えるようにする必要もあります。

上記のようなシステムを構築しようとすると、莫大な工数がかかりますし、それに比例して、システムの費用も高額になってしまいます。
オンライン診療に関しては、導入費用だけでなく、月々のクラウドサービス使用料やテレビ会議システムの回線料がかかる点もネックとなります。

このシステム費用をどこで賄うのか?
「オンライン診療システム」と銘打たれたシステムに対して、実際のオンライン診療で得る診療報酬以上のものを支払う医療機関があるでしょうか?

はっきり言えば「割りに合わない」のです。

それでもオンライン診療をやっていこうというのは、離島や山間部、豪雪地帯等の医療資源に乏しい場所で、強い志を持って医療に取り組んでいる数少ない医療機関です。

■オンライン診療システムの課題

とは言え、オンライン診療の需要はこれからもっと増えていきます。

企業などでテレビ会議を経験すると、15分の診察を受けるために半日がつぶれることをバカバカしく思う人はどんどん増えていくでしょう。

また、ワクチン接種が開始し、コロナ禍が落ち着いたとしても、またいつ同様の新規感染症が流行しないとも限りません。今後、医療機関においては、来院者の院内滞在時間をいかに減らしていくかということを常に念頭においておく必要があるのです。

そのために、「オンライン診療」をどこまで本気で推進するか?
ここはやはり国策に期待するしかないのかもしれません。




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