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【第41回】UKA再考(最高?):5W1Hで整理してみると? -1

阪和第二泉北病院 阪和人工関節センター 総長
格谷義徳 かどや よしのり

UKA(unicompartmental knee arthroplasty)は,私のようにほとんどTKAしかしない者にとっても“多少気になる”存在である。感覚的には“高性能”&“個性的”な嗜好品といえば近いだろう。車でいえばスポーツカー(ランボルギーニやフェラーリのようなスーパーカーではなく,ライトウエイトスポーツカー),ゴルフクラブなら高重心のブレード型アイアン(わからなければ読み飛ばしてもらいたい)といえばわかりやすいかもしれない。要するに無くても日ごろは困らないのだが,高機能を使いこなせたらとは思うので,やはり気になるのである。

私がUKAに馴染みが薄いのは,師匠であるMr. Freeman,近藤誠先生,新垣晃先生(いずれも私が勝手に師匠と呼んでいるだけだが)が皆UKAをしなかったからである。以前,手術手技を学ぶための最良の方法は,これと思った師匠のやり方を(少なくとも最初は)完全コピーすることだと述べた。私の信頼した師匠たちがUKAをしなかったことにはそれだけの理由があったし,その意味で私は“信頼できそう”とか“良さげ・・・”と思わせてくれるUKA surgeonに出会わなかったということなのだろう。

それが幸運であったか不幸であったかはわからないが,私が今もこの業界で生きていけているのは,一つの手技(PCL切除型TKA)を愚直にやり続けたからだと思っている。選択肢を増やさず,多芸を誇らなかったことこそが正解で,それはひとえに師に恵まれたからだと感謝している。

さて今回の話は“UKAが最高●●再考●●してみよう”というダジャレ入りの企画なのだが,とりあえずUKAの利点と欠点を知っておいてもらわないと始まらない。これについては教科書『阪和人工関節センターTKAマニュアル-Basic course-』にまとめているので抜粋しておく(下図)。

『阪和人工関節センターTKAマニュアル-Basic course-』より

改めて考えてみても利点についてはほとんど異論を挟む余地がない。他方欠点はやや高いrevision rateとそれと深くかかわる適応選択と手技,つまり“術者”に関するものである。要するに“適応を正しく選んで,上手な術者がやればUKA最高!”なのは間違いなさそうである。それだから私も“気になっている”し,“mentor”(信頼できる良き師匠と言う意味で,あえてこの言葉を使いたい)を探し続けているともいえよう。

しかし実際に“mentor”を見つけることは簡単ではない。学会やセミナーに参加したり,成書を読んだりしても,ことUKAに関しては根源的な問題点が整理されることなく,上滑りの論議に終始しているように思う。もともとわれわれ整形外科医は何か深遠なことを議論しているようで,実はほとんど何も考えていないのではと疑ってきた。だから“大切なことをきちんと整理,理解しないで,感覚に頼りがちな人が多いのだが,特にわが国のUKAに関してはこの傾向が強いように思う。

世界に眼を広げると,UKA業界におけるOxford groupの貢献は刮目すべきものがある。適応としてのantero-medial OAという病態の提唱をはじめとして,手術手技を確立するだけでなく,優れた論文を量産しており,その業績は他の追随を許さない。その理論的中枢となったのがMr. David Murrayで,話を聞いていても理論的で,まさに“切れ者”と言う印象であった。付け加えるなら旧Biomet社(U.K.)が継続的に行ってきた啓発活動と術者教育がOxford UKAの普及に大きく貢献したことは間違いない。企業がしっかり後押しして,TKAの“部分”でしかなかったUKAを,別個の概念を持つ術式として確立したのだから,これは素直に賞賛に値すると思う。

Oxford UKA:Zimmer-Biomet社カタログより
2002年10月13日の第1回Oxford Course。前列左がMr. Goodfellow,後列左から2番目がMr. Murray 後列に私の姿も見える(右から4番目)。ちなみにわが国での最初のOxford UKAは私が執刀している。

しかし,そのBiomet社がZimmer社に買収されてしまった(@2016年2月)。当時を覚えている人もいるだろうが,まさに晴天の霹靂であったし,UKA業界にとっては何とも皮肉な巡り合わせであった。なぜならZimmer社は古典的なFixed UKA (Zimmer Unicompartmental Knee:ZUK)を長年販売してきた会社だったからである。期せずしてUKAの二大勢力(Mobile&Fixed)が一つの会社の所有となり,独占禁止法の関係でZUKが売却されることになってしまう。そしてこの騒動(?)とZUKのパテント切れに乗じて,多くの企業がFixed UKA市場に参入してきているというのが業界の現状である。

これらの“新参Fixed UKA軍団はデザイン的には旧来のZUKのコピーであり,それ以上でも以下でもない。それだけZUKが完成されていたともいえるが,表面置換であるゆえに大腿骨コンポーネントは当然似通った形になるし,動態を考えればインサート形状は平坦にならざるをえない。そして肝心の適応や手技に関しては,彼らはおしなべて“寡黙”である(その理由は後で述べる)。その点に関しては本家本元であるZUKの後継機種Persona Partial Knee Systemも同じ穴の狢なのである。

あえて厳しい表現をするなら“新参Fixed UKA軍団は“Oxford UKAが長年努力して広げてきたUKA市場に”しようとしているだけなのである。その経緯や背景はいったん置いておくとして,彼らは適応,目標アライメント,手技などを明確にすることなく目先の拡販を優先している。そしてそのことが現在のUKA市場のある意味での停滞と不毛の論議の一因となっているように思えてならない。

現在のUKA市場はある意味停滞しているしカオスである(と思う)。
これには企業だけではなく論点を正しく理解できない術者側にも大きな責任がある。

本稿ではこの現状を踏まえて,UKAに関する論点を整理し,われわれが取るべき戦略を考えてみた。具体的には論点を“UKAの5W1H”という形で整理することを試みてみた。(念のため)解説しておくと,5W1Hとは「When(いつ)」「Where(どこで)」「Who(だれが)」「What(なにを)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」の英単語の頭文字をとった言葉で,情報をこの要素で整理することで,正確に伝わりやすくなるというフレームワークである。

ここでまず私が考える“UKAの5W1H”を示しておこう。

どの項目をどこに分類するかについては論議もあろうが,それはこの際大きな問題ではない。論点を分割,整理することにより根源的な問題点をあぶり出して,上滑りの論議に終止符を打つことが目的だからである。では次回から,上記の5W1Hを考えながらUKAにまつわる論点を具体的に考えてみることにしよう。

(つづく)


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