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【第43回】UKAのWho,When,Where(術者自身の適性の問題)-1

阪和第二泉北病院 阪和人工関節センター 総長
格谷義徳 かどや よしのり

UKAのWhy(Whom)& Howすなわち適応と手技については,問題は多々あるにせよ論議の対象にはなってきた。しかしWho,When,Where,つまりどんな術者が,何例TKAしてから,年間何例執刀できる病院でUKAをするべきなのか(することが許されるのか),という術者自身の適性の問題についてはほとんど語られることが無い。

術者自身の適性の問題はいってはいけない領域でほとんど話題にされない。

この“術者側の適応”というべき問題はある意味“いってはいけない”領域でもある。理論的に詰めていくと,誰も(ごく控えめにいってもごく限られた人にしか)UKAをできなくなってしまうから。面と向かって“貴方にはUKAなんか要らない(分不相応である)”といわれれば誰でも不愉快であろう。適応を選んで,手技上の注意点を守れば“そこの貴方”にも好成績が得られますよ,という趣旨でなければ誰もセミナーなど参加しないし,本も売れないから。だからUKAをあまりやらない私のような者が発言する機会はきわめて限られている(学会でも発表する機会はないし,当然セミナーでもお呼びがかからない)。だがCOIが無い立場だからこそできる忖度の無い“10年早い”という警鐘こそが必要なのである。

それではこれから“術者側の適応”に関する論文を紐解いてみよう。この分野で最も有名な論文は“Optimal Usage of UKA”と題したOxford Groupの論文(Bone & Joint J 2015:97-B 1506-11)でNational Joint registryデータを基にUKAのacceptable usageと,optimal usageを提示したもので,下のグラフがよく引用される。

(Bone & Joint J 2015:97-B 1506-11より引用)

一見してUKA使用率(縦軸)とRevision Rate(RR,横軸)が非線形の曲線であることがわかる。著者らは,

1.  UKA使用率が50%程度までRRは低下する
2. 20%以上の使用率であればAcceptableな成績が得られる
3. ゆえに適応を広げて最低20%程度まで増加させることが推奨される

としており,UKAのacceptable usageは20%以上,optimal usageは40〜60%であると結論している。

National Joint registryのような大規模データから導き出せる結論としては正しいのだろうが(統計学者も共著者となっている),適応を広げて約20%以上にしようという意見には賛同できない。“統計はウソをつかないが,ウソつきは統計を使う”と言う言葉もあるぐらいだからデータの解釈には細心の注意が必要である(断っておくが私はOxford Groupの功績には心底,賞賛の念を抱いており,その価値を否定する意図はまったくない。あくまで理論的には今回私が示したような解釈もできるという話である。念のため)。

“ウソには3種類ある。ウソ,見え透いたウソ,そして統計だ”
byマーク・トウェイン

私の最大の懸念はLearning curveの問題が考慮されていないという点である。Registry dataはある時点を切り取った静的な状態であり,術者達が適応を広げていくという動的な状態で(のみ)起こるLearning curveの問題は考慮しようが無いともいえる。
Learning curveの及ぼす影響を見積もるためには,その母集団(何人がUKAを始める or 増やすかと)の数が必要だが,これはRegistryデータから推定するしかない。本文中にはUKAを年一例以上行う術者は約半数(1,311/2,649人)であり,81.4%が年10例以下であるとの記載がある。

具体的に考えてみよう。著者らが“適応を20%程度まで増加させる”ことを推奨しているのはどの術者層なのだろうか? 要するに主語は? という疑問である。その候補としては

 ① UKAをまったく行わない術者
 ② UKAを行っているが割合(UK率)20%以下の術者

ということになる。では次にそれぞれの数を考えてみよう。

 ① UKAを全く行わない術者:1,338/2,649人
 ② UKA率が20%以下の術者:UKAをやる術者の約70〜80%(1,000/1,311人)

後者については本文中にあるUKA率が平均10%というデータと,それが一部の術者で非常に高いという偏在性を考慮した推定値だがそれほど的はずれではなかろう。

ということは全体として(1,338+1,000=2,338/2,649人:88%),つまり全体の約9割の術者がLearning curveを経験する(であろう)母集団であると推定される。Learning curveといえば聞こえは良いが,これは単に患者さんを練習台にして手術が上手になること”であり,手術される側にとってはたまったものでは無い。その意味で多くの患者がLearning curveという名の“術者”の練習台になってしまう。

論文では“主語”を明確にしていない(あえてそうしていないのかもしれない)から,“ああUKA率を上げればいいんだな”と安易にとらえられがちである。しかし“主語”を明確に規定して彼らの主張を見直してみると
約9割の術者に”UKA率を20%以上にすることを推奨する,ということになる。UKAの難易度はTKAに比べると高く,Learning curveも歴然と存在することも考えれば,“はいそうですか”と安易に従えるものではなかろう。

何よりも問題なのはこのデータが,実際の学会やセミナーでUKAの普及・拡販の手段として頻用されてきたという事実である(日本語の教科書にもちゃんと載っている)。聴衆(読者)はインパクトのあるグラフを示されて,“ああUKAをたくさんやらないといけないんだな”と短絡的に考えてしまいがちであるが,ことは決してそんな単純ではないのである。

自戒を込めて白状すると私自身もそうであったし“誰がUKA比率を増やすべきなのか”という“主語”がポイントであるということは,今回論文を読み返してみて気付いたことである。“統計はウソをつかないが,ウソつきは統計を使う”というのは言い得て妙であるし真実の部分を含んでいる。その意味で同じデータでも視点を変えることで,異なる推奨が導き出せるのである。われわれも“Oxford group”という権威の前に盲目的に信じてきたという側面もあろう。しかし冷静に考えてみればOxford groupとて開発者としてのCOIはありまくりなのである。その意味で本稿がUKAを推奨するべき“主語”とLearning curveの問題を考える提言となれば幸甚である。

(つづく)


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