不妊治療ではどんなことをするの?①

不妊治療にはどんな種類がある?

不妊治療における治療方法は大きく分けると3つあります。排卵の時期にあわせて性交渉をもつタイミング法、排卵の時期にあわせて運動性の高い精子を集めて子宮内に注入する人工授精、排卵する前に卵子をとって体外で受精した受精卵(胚)を子宮内に入れる体外受精があります。

タイミング法

まずは排卵のメカニズムのおさらい

女性の卵巣では、月経が始まったあとから、だんだん卵子の入った卵胞が大きくなり、それに伴い血液内のエストロゲン値が上がります。
排卵時期になると、卵胞の大きさは平均20mmになります。そして、上昇したエストロゲンの影響で、脳の下垂体というところから黄体形成ホルモン(LH)というホルモンが分泌され、その30~36時間後に排卵します。

タイミング法はどういうもの?

タイミング法は、経腟超音波検査で卵胞発育の大きさを確認し、エストロゲン値や基礎体温、さらに血中あるいは尿中LHを確認しLHの分泌の上昇(LHサージ)の有無を確認し、妊娠しやすいタイミングで性交渉をもつ方法です。
排卵検査薬は、このLHを尿で確認して排卵日を予測します。

タイミング法の実際

卵胞が発育しにくい人,ホルモンが上昇しない場合はどうするの?

卵胞が自然では発育しにくい排卵障害のある女性では、排卵誘発薬であるクロミフェン(クロミッド®️)やレトロゾール(フェマーラ®️)という内服薬や、FSH製剤などの注射で卵胞を発育させる方法があります。また排卵時期にLHサージを認めないときには、hCG製剤(注射製剤)などで排卵を促し、排卵時期に合わせて性交渉のタイミングを調節します。

妊娠しやすいのは排卵日当日ではない!

よく「排卵当日が妊娠しやすい日である」と思っている方も多いのですが、実は排卵より前にタイミングをとったほうが妊娠率は高いです。特に排卵時期の2日前ぐらいから複数回性交をもつことが重要です(文献1)。

性交をもったタイミングと妊娠率

つまり、排卵日が近くなったら、ある程度定期的に性交をもっておいて、排卵検査薬が陽性になれば、その当日は必ずタイミングをとることが重要かと思います。

不妊原因が特定できない場合、タイミング法の妊娠率は低い

明らかな不妊原因を認め、その原因を取り除いた後にタイミング法を行った場合には、妊娠が期待できます。しかし、これまで月経周期が順調で、避妊せず夫婦生活を送ってきて、不妊原因が特定できない場合、若い女性でもタイミング法での妊娠率は0~5%と非常に低いです(文献2)。

人工授精

人工授精(AIH)は、採取した精液から運動性の高い精子を回収し、子宮内に注入する方法です 。名前に「人工」とついていますが、海外では100年以上前から行われていて、その当時は人工的と考えられていたのですが、非常に自然に近い不妊治療です。

人工授精の実際

どういう場合ならば人工授精は効果的?

人工授精で妊娠が期待できるのは、運動精子が卵子との受精にたどりつくために十分な量の精子が子宮の中に入ることができていない場合で、主には精液所見が軽度不良の場合性交渉がもてない場合、ヒューナーテストで異常があって子宮の中に十分な精子が入れていない場合です。ただタイミング法で妊娠しない場合に、体外受精に進む前に行われることもあります。
人工授精は非常に自然に近い不妊治療のため、1回の妊娠率も40歳未満の方でも5〜15%とあまり高くはありません(文献3)。

人工授精は何回ぐらいまで有効?

人工授精の回数とその累積出産率(出産できた方の合計)を解析した報告があります(文献4)。4回以上人工授精を行うと37歳以下で20~25%、38~40歳で約15%の方が出産できますが、41歳以上では出産までできる方は10%以下になります。
つまり、37歳以下でも4分の3以上の方は、人工授精では妊娠ができません。また妊娠できる方に絞って見てみると、4回行うと80~90%の方が妊娠します。体外受精に進みたくないから何回も人工授精を行っている方もいますが、5回目以降の人工授精は若い女性でも1回の妊娠率は5%以下のため、治療効果はほとんどありません。人工授精は3~4回までにして、妊娠しなければ、体外受精など次のステップへ進むことをお勧めします。

人工授精の累積妊娠率

次回は体外受精について紹介します。

1. Wilcox AJ, Weinberg CR, Baird DD. Timing of sexual intercourse in relation to ovulation. Effects on the probability of conception, survival of the pregnancy, and sex of the baby. N Engl J Med 1995;333:1517-21.

2. Evers JLH. Female subfertility. Lancet 2002;360:151-9.

3. Duran HE, Morshedi M, Kruger T, Oehninger S. Intrauterine insemination: a systematic review on determinants of success. Hum Reprod Update 2002;8:373-84.

4. Honda T, Tsutsumi M, Komoda F, Tatsumi K. Acceptable pregnancy rate of unstimulated intrauterine insemination: a retrospective analysis of 17,830 cycles. Reproductive Medicine and Biology 2015;14:27-32.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?