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シュンジは考え込んだ。しかし、どう答えても結果は変わらないと感じて、思うがままを言った。
「世界大戦、大量虐殺、パンデミック、宇宙人の侵略」
「宇宙人の侵略!?あっはっはっはっは。映画の見過ぎだろお前。俺が宇宙人にでも見えるか?あははは、良いだろう、教えてやる。近いのは大量虐殺だ」
やっぱりかとシュンジは思った。テンサウイルス陰謀論の現実的な線は、思想犯が引き起こした、パンデミックの皮を被った大量虐殺しかない。そう結論付けていた。他の答えは、ただ言っただけにしか過ぎなかった。
「ヒトラーはユダヤ人をホロコーストで約600万人、あの世送りにした。あいつの思想は、民族思想をベースにした確固たるドイツ人としての選民意識と、資本主義をも取り入れようとした全体主義的思想から成り立っている。あいつは、第一次世界大戦後に路頭に迷っていたドイツの民衆を、プロパガンダによってユダヤ人のイメージを、ドイツ人が享受するはずだった利益を裏社会から搾取する、悪人に仕立て上げることによって、思うがままに操り、そして、自身に独裁権が委ねられた組織を巧みに築き上げながら同時に指揮し、ホロコーストを実行した。知ってたか、お前は」
「ああ、それくらいなら」
「よし、良いだろう」
男は話を続けた。
「俺の作製したテンサには、ホロコースト級の大量殺人を完遂するだけの潜在能力があることに、俺自身、気がついていた。だが、今さらヒトラーの思想だなんて時代遅れだ。今の時代は、好きなことで生きていく、なんだろ?」
「そうかもな。ユーチューバーが耳にタコができるほど言ってるよ」
「そうだ。俺の耳にもそれは届いていた。俺もそれには共感していたんだ。俺の好きなこととはすなわち、ウイルス研究だ」

「そうかい。じゃあ一生、研究室で研究していれば良かったものを。お前の罪は重い。死に値する人間だ」
「おうおう、怖いねぇ」
男は何ともなさそうに続けた。
「ユーチューバーのモチベーションは何から来ている」
「金儲けだろ。あるいは視聴者に喜んでもらう。自作の動画に対する反応。再生回数」

「関心するなぁ。こんな絶体絶命の状況で、よくそんなにスルスルと答えを頭から引き出せる。もうわかっただろう、俺の目的が」
シュンジは、自分の導き出した結論が信じられなかった。
「お前は、自作のウイルスを世に解き放ち、世間の反応が見たかった。そして、テンサによる死者数は、ユーチューバーにとっての動画の再生回数みたいなもので、お前にとっては可愛い可愛いテンサちゃんの、世の中への反響を表す一つの指標にしか過ぎなかった、ってことか」
「お前は、人の話をよく聞けて、しかも汲み取った上にまとめるのが上手いな。ただし、テンサちゃんは余計だ。テンサは人類史上に残る傑作だ。そしてこの俺が、生みの親だ。

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