自宅のアパートに到着すると、シュンジの専用の駐車スペースの横には、レイナのレモン色のビートルが停められていた。シュンジは、またか、と思った。合鍵を強制的に作らされ、不用意に渡してしまったがために、レイナはシュンジの家に頻繁に居座るようになっていた。レイナには、押しの強さと相手の気持ちを上手く盛り立てる話術と、きわめつけには、それらを効果的に支える魅力的な容姿が備わっていた。シュンジは当初、当たり前に合鍵の件に関しては抵抗したが、レイナと知り合ってからは日を追うごとにまんまと良いように懐柔されてしまい、なし崩し的に現在の状況に陥っていった。部屋の鍵は開いていた。玄関からはもう、レイナの姿が見えていた。買い込んでおいたお茶やスナック菓子を勝手に食べていた。シュンジが部屋に入ってきても、全く反応がない。テレビに夢中になっているようだった。再放送の情報バラエティー番組を観ていた。
「あ。いらっしゃい」
CMに入ったらしく、シュンジに声をかけた。
「おかえりでもなく、いらっしゃいかよ。まるでもうこの家の主だな」
「まあまあ、良いじゃない、楽しいし」
確かにシュンジの生活はレイナと出会ってからは、楽しいかどうかは怪しいが、刺激的な生活にはなっていた。
「冷蔵庫の中身まで漁りやがって。ちゃんと補充しろよな」
「了解了解、にしてもさーシュンジ、森永のチョコモナカジャンボってこんにパリパリしてたっけ。めっちゃ美味しいんだけど」
「ああそれな。もちろん個体差というか、お店で手に取った時点でもう、流通の手際の違いとかでパリパリかシナシナかの違いはあるんだろうけど、俺はちゃんと、少しでも溶けないように他の冷たいアイスとまとめて買って袋に入れてんのよ。そのちょっとした工夫による違いかもな。中身が溶けて皮の部分に染み込むとふやけるだろうからね」
「ヘーーー。涙ぐましいね。お疲れ様」
レイナはシュンジを見ながら、バリバリとモナカを食べ続けた。美味しそうに食べられて、モナカも本望だろうと思い込むことでシュンジは自分の気持ちを落ち着かせた。だが、その気持ちを蒸し返すように例のCMが流れてきた。なーつはこーかんがかーゆくなる〜♪
「あー、これよこれ、国が義務付けて防護服の隣にでも、この商品を置かせるようにすりゃいいのよ」
「そりゃ傑作だ」
全国の医療従事者の股間に清涼感を届ける日本。たちあがれ日本。

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