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「思ってしまったんだけどさ、今現在の医療業界はさておき、日常生活でお股が蒸れんのは、どっちかというと女性の方なんじゃないかな」
シュンジは自分が、股間股間言い過ぎていたような気がしていたので、言い方をお股に路線変更した。
「まあ、そうかもね。生理やらナプキンやら。男の生活にはないであろう、お股の水分やら密閉性を考えると」この手の話はレイナぐらいにしか話せないだろうなと、シュンジは思い、続きを待った。
「でも私は、普段から薄着だし、すぐ脱いじゃうからあんまりかも」
「うん、男は蒸れたところで最悪ノーパンになれば良いし、ボクサーパンツでもブリーフでもトランクスでも、下着に関しては、通気性を考えた選択肢がいくらかある。だから俺は、あのCMには変な印象を抱いたんだよ」
レイナの発言から、この部屋に脱ぎ捨てられた女性下着や、帰ってくると全裸でレポート作りをしていたレイナをシュンジは思い出し、その記憶を抑えるように話し続けた。
「で、思ったのが、あのCMはあの会社の戦略なんだよ」
「え、シュンジ、ノーパン派なの」
「違うけどさ。例えばの話だよ」
シュンジはこういうレイナの調子に惑わされ続け、今に至る。レイナはモナカを食べ終えていた。
「あれは、ニッチな男性用のデリケートゾーンケア用品としての宣伝というよりは、インパクトを狙ったCMだ。そしてその狙いは、こうして僕らがあのCMのことを話していることからも十分に成功している。さらに言うと、少数とはいえ、もちろん男性にも同じ悩みを持った人はいるんだろうけど、似たようなことで悩んでいる女性の中には、あのCMをきっかけにああいうケア用品の存在を知った人もいるはずで、つまり、新しい顧客の創造にも成功しているんだよ。だから、あの会社は女性用にもあの商品を販売しているだろうと思って調べたけど、そもそも男性用の方が、派生した商品だったよ。まだある。あのCMの雰囲気は、羞恥心が老化したおっさん達だからこそ作り出せるものなんだ。女性が同じように演技したところで、放送倫理機構から女性をバカにしているとか、もしかするとあのCM自体にも苦情は入れたかもしれないけど、どちらにせよトータルとしての苦情は、主に女優を起用した場合よりはかなりましな数になっただろうと思うよ」
「はははは、そうかもね。無い羞恥心の有効利用ね」
「そういうことになるかな」
シュンジは、口を潤すためにコップにお茶を注ぎ、一気に飲み干した。

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