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「そう考えると、美容整形の世界も、羞恥心を利用したビジネスとも受け止められるわね。例えば、たくさん子供を産んだお母さん。これは欧米での話だけど、子供を4人5人と産んでいくと、アソコも段々ヘタってくるらしいのよ。表現は適切じゃないかもだけど、熱帯雨林に生えてる食性植物にみたいになるんだって。嫌だなぁ。でも、当の本人からするとほんとにそんな感じに思えるらしくて、人間の自分自身の体に対するコンプレックスって、ものの見え方すらも禍々しく変えちゃうのよ。そしてそれは愛するパートナーであったり、不倫相手がいたりすると、羞恥心に繋がっちゃうってわけ。そして私はもしかすると、将来そうやって悩んでいる人たちのアソコを、綺麗に元通りかそれ以上にするための手術をしながら、ご飯を食べていくことになるのよ」
「それは僕が買ってきた食料だけどね。そして君は、僕の家に住み着いた食性植物みたいなもんだ」
レイナの言ったことはよくわかったが、シュンジはそれよりも、あまりにも身勝手なレイナにイラつき始めていた。
「ほら、今日はもう帰れよ」
「はいはーい、モナカ美味しかった、ありがと」
「うん、俺の冷蔵庫に買い足しておいて、態度で感謝を示しなよ」
シュンジはレイナを送り届けて、食い散らかされたお菓子のゴミや食器を片付け、日課のランニングの準備を始めた。

シュンジの行きつけのランニングコースは、奇しくも漫湖公園という名の公園にあった。人生っておかしな偶然が続くときがあるよな、とシュンジは思った。
「Coincidences mean you're on the right path.偶然の出来事はあなたが正しい道を歩んでいることを意味する」
誰かが、座右の銘としてプロフィールに載っけていた言葉を思い出し、つぶやいた。
「だとしても、お股の偶然の一致はねぇよな」
シュンジは自虐的になりながらも、ランニングウェアに着替え、ランニングシューズを履き、万全の体制で漫湖公園へと向かった。そして、水辺の湿地帯に密生するマングローブを横目に、ヌルヌル動いて走る自分を想像したが、自分の運動意欲を駆り立てるためにはあまりにもマンマンやかましいし、何よりもクールに走っている自分をイメージするには、あまりにも素材一つ一つが卑猥なおもむき過ぎて、全くもってメンタル作りに失敗した。
走れば気は晴れるさ。そう思い直せた頃には、アクアは漫湖公園の有料駐車場に到着していた。

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