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なぜビリルビン脳症(核黄疸)では順番に症状が変わるの?橋→中脳→大脳基底核と黄疸が上昇(?)

医師国家試験では、よくビリルビン脳症(核黄疸)の症状の順番を問う問題が出題されますよね。症状も多く、暗記が大変な項目の1つです。
ですが、どうしてPraagh分類1期は筋緊張低下で2期は後弓反張、3期は症状の消失、4期はアテトーゼのように症状の出現する順番が決まっているのでしょう?ここに注目すれば覚えやすくなる気がしますね。


(注意!)以下の記事は今までの報告に基づき、解剖学的・神経学的に私が理屈をつけて覚えるために考えていたことです。論文などで証明はされていません。そのため、それを理解していただいた上でお読みください。




そもそもビリルビン脳症(核黄疸)とは?

ビリルビン脳症とは、まず新生児溶血性貧血(血液型不適合妊娠による胎児血球破壊、パルボウイルス胎児感染 etc.)によって、赤血球中のHbが大量に間接ビリルビン(脂溶性ビリルビン)となります。
通常は間接ビリルビンはアルブミンという蛋白質とくっついていますが、増えすぎてアルブミンが結合しない間接ビリルビンが出現し、アンバウンドビリルビン(UB)となります。
このアンバウンドビリルビンは脳血液関門を通過してしまうので脳神経核に沈着するのです。これがビリルビン脳症の病態です。

アンバウンドビリルビン(UB)はどこに沈着する?

アンバウンドビリルビン(UB)が神経毒性を持つことは,古くから知られていて、UBによる神経障害が起きる部位は選択的であることが明らかになっています。淡蒼球・視床下核・海馬・動眼神経核・蝸牛神経腹側核・小脳プルキンエ細胞・小脳歯状核に好発し、神経壊死を誘発するすることが知られています¹。

沈着部位から分かるように、大脳基底核や動眼神経、蝸牛神経系に沈着するため

  • 大脳基底核障害→錐体外路障害(2期痙縮・4期アテトーゼなど)

  • 動眼神経障害→2期の落陽現象(眼球の黒目が、下のまぶたへ入り込む

  • 動眼神経障害→4期の上方注視麻痺

  • 蝸牛神経障害→難聴         が出現するのは納得できますね

また、1期ではMoro反射の消失も見られるのですが、これは前庭神経核・蝸牛神経核の障害(延髄橋レベルの高さ)によるという報告があります³。

そして、過去の解剖報告では、黄疸沈着がみられたのが
1.橋・延髄・オリーブ核・海馬回
2.視丘・視丘下部
3.大脳基底核
の順に多かったという報告から、まず1期に橋・延髄・オリーブ核・海馬回に黄疸が出現すると予想されます。そして、最も遅い4期に大脳基底核が障害され、アテトーゼや錐体外路症状が出現すると考えることができます。

延髄が脳の位置では最も低い位置にあり、また、延髄最後野は血流から物質を受け取りやすく脳血液関門が弱いことが知られています(NMO最後野症候群を参照)ので、たしかに延髄から黄疸が始まるのは納得です。

後は、上記の事実を踏まえてなぜ1期→…→4期の順に症状が出るのか考えてみましょう。

1期 筋緊張低下・Moro反射消失

筋緊張(筋トーヌス)は橋網様体が最終的に支配しています。
橋網様体内の興奮性線維に病変があると、脊髄への下行性興奮性インパルスが失われるため、筋緊張が低下することがあります。
逆に、網様体において抑制性線維が障害されると、これは筋緊張亢進(痙性)を引き起こす可能性があります⁵。
すなわち、1期では橋網様体の筋緊張促進経路が障害されるので筋緊張が低下していると考えられます。
また、上述の通り、Moro反射蝸牛神経・前庭神経核により生じ、これらは延髄・橋レベルに位置するのでこれも納得できます。

2期 後弓反張・四肢強直・落陽現象

1期では橋網様体の筋緊張促進経路が障害されるので筋緊張がまず低下するのだと予想されますね。では、次に後弓反張と四肢強直のメカニズムを考えてみます。
突然ですが後弓反張と四肢強直は救急科の意識障害で見たこと無いでしょうか?そう!除脳硬直です!
この除脳硬直は中脳・橋レベルの皮質網様体路の障害で起こります。
すなわち、延髄・橋から上方に黄疸が登っていき、中脳レベルの黄疸が生じたため後弓反張(除脳硬直)が起きると考えるのが妥当だと考えます。
落陽現象(眼球が下を向く)に関わっているはずの動眼神経核も確かに中脳、特に中脳水道付近に位置しますので、2期は中脳レベルの黄疸と考えて矛盾はなさそうです。

4期 アテトーゼ・上方注視

最後に4期ですが、これは中脳より上方まで黄疸が登っていき大脳基底核に黄疸が出現したためアテトーゼが出現すると考えるのが妥当でしょう。
また、上方注視麻痺パリノー症候群(中脳背側梗塞)でも見られます。動眼神経の方が中脳水道に近いので、先に動眼神経核がやられ、それより後方外側に位置する中脳背側が後にやられると考えられますね。

まとめ

ビリルビン脳症は延髄から中脳水道に沿って大脳基底核まで黄疸が上昇すると考えられる。

  1. 1期延髄橋網様体障害による筋緊張・Moro反射消失

  2. 2期中脳障害による除脳硬直(後弓反張)動眼神経核障害による落陽現象

  3. 4期中脳背側障害による上方注視麻痺(パリノー症候群と同様)、大脳基底核障害によるアテトーゼ・錐体外路症状

のように、下方から上方へ黄疸が進んでいくため1期→4期に進んでいくのでしょう。このように、下方から上方へ黄疸が進んでいくと考えれば覚えるのも難しくはないでしょう。

もちろん、報告に基づいている部分もありますが、これは全て私の仮説で事実かどうかは確認できません。ですが、解剖学的・神経学的に考えて納得しながら覚えていく一助になれば幸いです。

参考
1)https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20200415_birirubin_tebiki.pdf
2)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrsj1983/23/1/23_1_2/_pdf
3)https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjscn/52/3/52_141/_pdf/-char/ja
4)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnms1923/26/5/26_5_336/_pdf
5)https://www.stroke-lab.com/literature/3691#%E7%B6%B2%E6%A7%98%E4%BD%93%E8%84%8A%E9%AB%84%E8%B7%AF%E3%81%AE%E7%97%85%E6%85%8B

6)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25914638/


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