見出し画像

オンライン診療、5Gが後押し。新たな価値の組み合わせを創出できるか?

新型コロナウイルス感染症(covid-19)の感染が拡大する中、感染の危険がない受診方法として、情報通信機器(スマートフォンやパソコンなど)を使ったオンライン診療が注目を集めている。

オンライン診療は、医療機関および患者さんにどのように受け止められているのだろうか。いくつかの調査からから見えてきた現状と、今後の展望についてまとめてみる。

コロナ禍で非対面診療増えるもオンライン診療はわずか1割程度

新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、政府は2020年4月に電話やオンラインによる診療について時限的な規制緩和を行った。これにより、今まで認められてきた慢性疾患などの再診だけでなく、初診についてもオンライン診療が可能になった。 

通院による新型コロナウイルスの感染を避けたいというニーズは高く、非対面での診療を選ぶ人は増加している。日本医師会の調査[※1]によると、2020年4月の電話等による再診料算定回数は、前年の同月に比べ約16倍 と大幅に増えた。 

また、日経メディカルが2020年5月に医師3900人を対象に行ったアンケート[※2] でも、今年に入って電話やオンラインによる診療を行った医師は52.7%にのぼった。

ここで注意すべきなのはその内訳で、非対面診療の87.3%が電話による診療で、スマートフォンやパソコンなどを使ったいわゆるオンライン診療を行ったのは、12.7%にとどまっていることだ。オンライン診療については、まだまだ普及率が低いというのが現状だ。

普及しない理由は「診断の難しさ」と「コスト」

オンライン診療が普及しない理由の一つとして、多くの医師が訴えるのが、触診や検査などができないといった物理的な制約だ。特に診断に多くの情報を必要とする初診については、オンライン診療に対して慎重な意見が多い。

株式会社eヘルスケアが2020年5月に行った調査[※3] によると、電話やオンラインによる初診を実施している医療機関は28%にとどまり、今後も初診受付は実施する予定がないとの回答が55%であった。初診受付をしない理由としては「実際に診察しないとわからないことが多い」「誤診が心配」などの意見があり、情報量の少なさから診断の正確性が下がることを懸念する声が多かった。 

病院経営の面から考えても、オンライン診療を実施するためのハードルは決して低くはない。オンライン診療は既存のテレビ電話を利用することも可能だが、通信システムの整備やセキュリティ対策などを考えると、新たなオンライン診療サービスを導入するのが現実的だ。サービスや通信環境などにコストをかけるだけのメリットが見いだせないうちは、オンライン診療を取り入れる医療機関が増えるのは難しいだろう。

患者側からみるとオンライン診療はメリットが多い

患者にとってオンライン診療は、新型コロナウイルスの感染防止という観点だけでなく、さまざまなメリットのある受診方法である。病院への移動や待ち時間がなくなることで、高齢者や子ども連れでの通院の負担は大きく軽減される。 

また、ビジネスパーソンなど「病院に行きたくても忙しくて時間が割けない」という人も多いだろう。働き盛りの世代にとっては、通院にかける時間や手間を減らせるオンライン診療は、アクセスの良い受診方法として非常に魅力的だ。

三菱総合研究所と医療情報システム開発センターが一般市民2,578名に行ったWebアンケート[※4] によると、コロナ収束後もオンライン診療を選択肢の一つとして希望している人が6割を超えている。患者の側から見ると、オンライン診療が便利な受診手段として受け入れられつつあることがわかる。

オンライン診療の可能性をいかに見いだせるかがカギ

患者サイドからは歓迎ムードのオンライン診療だが、医療現場ではまだまだ導入に賛否両論がある。その一因として、オンライン診療がその本来の力を発揮できていないことが考えられる。非対面診療を選ぶ理由が「感染防止」や「利便性」であるうちは、電話診療でも十分対応が可能で、オンライン診療でなければならない理由は今の所はっきりとは見いだされていないのが現実だ。 

オンライン診療と電話診療との違いは、情報通信機器を利用することによって、多くのデータをやり取りすることができるという点だ。今後5Gが普及すれば、その利便性は飛躍的に上がると予想される。テレビ電話の質も上がり、高性能のカメラを利用すれば、より対面に近い形の視覚情報が得られる。自宅にいる患者がウエアラブル端末を装着すれば、血圧や心電図、睡眠記録など、たくさんの患者のデータを治療に生かすこともできる。 

オンライン診療の可能性については、全国各地でさまざまな実証実験が行われている。仙台市では、スマートフォンとつながる聴診器を利用したオンライン診療の実証実験が始まった[※5] 。長野県では、医療機器を載せた車で看護師が患者の自宅に出向き、血圧、血糖値、心電図を測定。そのデータを元に医師がオンライン診療を行うという、ヘルスケアモビリティの実証実験も行われている。[※6] 

オンライン診療の可能性を広げるためには、実証実験のように、医療機関や患者だけでなく企業や大学など幅広いリソースを巻き込んでいくことが必須だ。対面診療の補完としてのオンライン診療ではなく、「オンライン診療だからこそ」できることを見いだしていけば、可能性はどんどん広がっていく。オンライン診療が医療機関にも、患者にも新たな価値を生み出すことができれば、普及は一気に進んでいくのではないだろうか。


■参照データ出典
[※1]日本医師会 新型コロナウイルス感染症対応下での 医業経営状況等アンケート調査 2020 年 3~4 月
http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20200610_6.pdf

[※2]日経メディカル医師3900人に聞いた「電話・オンライン診療を実施しましたか?」  
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/report/t349/202006/565699.html

[※3]eヘルスケア 第3回新型コロナウイルス(新型肺炎/Covid-19)調査
http://info.drsquare.jp/pr/TrackingCovid-19SurveyReport_wave3.pdf

[※4]株式会社三菱総合研究所「コロナ収束後も6割超がオンライン診療に前向き」
https://www.mri.co.jp/news/press/20200612.html

[※5]朝日新聞(2020年8月19日)スマホ通し聴診・薬は郵送 仙台市でオンライン診療実験https://www.asahi.com/articles/ASN8L6TPBN8LUNHB001.html

[※6]MONET Technologies株式会社 伊那市とMONET、次世代モビリティサービスに関する業務連携協定を締結
https://www.monet-technologies.com/news/press/2019/20190514_01

■著者プロフィール 
西村 陽子(にしむら ようこ)
人材派遣会社営業、TV番組リサーチャー、子育て講座の講師(現職)を経て、2008年よりライターを始める。医療、美容、生活、子育てなどの分野で幅広く執筆している。アプリを開発する長男、AIを使いこなす次男に刺激を受け、ITの勉強中。【医療×IT】が患者、医療従事者にもたらすメリット(幸せ)を伝えられるようなライターを目指す。モットーは既存の価値観にとらわれず、柔軟であること。
日本化粧品検定1級、コスメコンシェルジュ、美肌食マイスター初級、薬膳漢方マイスター、認定子育てアドバイザー、実用日本語教育能力検定試験合格。
https://note.com/acacia49http://acacia.her.jp/




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?