見出し画像

コロナ禍で気づかされる人のやさしさと「ありがとう」の温かさ

筆者は2019年12月、第一子を出産した。生後2カ月頃までは、寒さと子どもの免疫や体力を考慮して、あまり外出していなかった。「暖かくなってきたから、そろそろ子どもと一緒にお出かけできるかな」と思った頃には、国内でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19/以下、新型コロナ)が広がり、緊急事態宣言が発令。緊急事態宣言が解除されても何となく外出を控えていて、生後半年以上経っても、徒歩圏内にしか子どもを連れて出かけていなかった。そんなわけで「自分は『子連れ外出スキル』が著しく低い」と感じている。

ようやく夏頃から子連れ外出をするようになると、街中で声をかけてもらうことが増えることに気づいた。

例えば、抱っこ紐に子どもを入れて電車に乗り、優先席に座って「はぁ〜」と一息ついた時、1席空けた隣に座っていた60代前後の女性に声をかけられた。

女性「可愛いわね~。いくつなの?」
筆者「5カ月です」
女性「可愛い盛りね。でも、夜起きたりするんでしょ?」
筆者「しっかり朝まで寝てくれるんですよ」
女性「お母さん思いなのね。でも、泣いたりしたら大変だし、お母さんも頑張ってね」
筆者「ありがとうございます」

また公園では、ベンチに座り、ベビーカーに乗せた子どもにお昼の離乳食を食べさせていたら、少し離れたベンチに座っていた70代くらいの女性から話しかけられた。

女性「何食べてるの?」
筆者「ベビーフードですが、豚肉と野菜の煮物です」
女性「あら、もうそんなものを食べているの。すごいわね~。何カ月?」
筆者「10カ月です」
女性「よく食べるの?」
筆者「そうなんです、すごい良く食べますね」
女性「もりもり食べて、大きくなるわね! お話できて楽しかったわ、ありがとう」

そして、商業施設の狭いエレベーターに乗り込んだら、ベビーカーに乗せた子どもがぐずり始めた時。後から乗ろうとする人が諦めるくらいに人が乗っていたので、筆者は内心焦り始めていた。そんな時、60代くらいの男性が子どもをあやしてくれたこともあった。

60代「(子どもに向かって、目と口を開いて)ばっ!」
(子ども静かになって、男性をじっと見つめる)
男性「(笑顔で)ほら、泣き止んだ!」
筆者「ありがとうございます」

子連れ外出スキルが低い筆者は、毎回出かける時、まだまだ緊張感が抜けない。こんな状況なので、声をかけてもらえると心が和み、ホッと温かい気持ちになる。

新型コロナの影響で、街中を歩くほとんどの人がマスクをしている。その光景を見るたびに、まだどうしても「世の中、変わってしまったな……」との思いが拭えないでいる。そしてやはり人が密集する場所に行くときには、「感染しないようにしなければ」という意識が働く。透明なベールで自分を守っているかのように、人との物理的な距離だけでなく、他人と心理的な距離もできてしまっているように感じることも。そんな状況が半年以上続いているため、心がカサカサと潤いを失っているように思う。

だからこそちょっとした声かけや気遣いが、人の心を和ませられるのだなと改めて感じる。

ところで筆者自身は、コロナ禍に「ありがとう」やちょっとした気遣いの温かさを再認識させられているが、医療機関で新型コロナ感染者の治療に従事している人たちへ温かい言葉を伝えられているか、と考える機会があった。

簡潔に言うと「あぁ、そんなこと考えていなかったな、反省……」である。街を歩いているときには、自分が新型コロナに感染しないようにということが頭の大半を締めている。自宅にいるときには「✕✕病院でクラスターがあった。患者○名、看護師○名が感染」というニュースに注目し、自分や家族が関係していない病院であることを確認してホッとしている。

最前線で新型コロナ感染者の治療に従事している人たちが、常にどんなことを思い、考えているのかは、簡単に想像できるものではないし、気持ちを理解できるとは言ってはいけないと思う。しかし思いを馳せ、「いつもありがとうございます」とねぎらう言葉はいつでもかけられるのではないか、そう思った。

ちょっとした声かけ、気遣い――。コロナ禍で例年とは違うことがたくさんあり、心がカサカサすることもあるが、出かけている時の「ありがとうございます」を今まで以上に意識したいと思う。もしかすると伝えた相手が、新型コロナ感染者の治療に従事している医療者かもしれない。または「ありがとうございます」を伝えた相手の心が和み、その人が心温まる気遣いを医療者にしてくれるかもしれないから。

■著者プロフィール
北森 悦(きたもり えつ)
上智大学卒業後「若い人も、自分の健康や医療に関心を持った方がいいのではないか」との思いから、2015年より医療ライターとしての活動を始める。これまで、250人以上の医師をはじめとする医療者をインタビュー。医療者の言葉を分かりやすく伝えてきた。目指しているのは、医療者と非医療者の間で情報の非対称性がなくなり、人々の健康寿命が延びること。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?