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臨床検査技師 タスク・シフト/シェア講習会について~既に受講した立場から~

みなさん、こんにちは。メドフィットアカデミア 服部です。
私は鳥取県の臨床検査技師なのですが、みなさん「鳥取県」のことご存知ですか?
人口最小の県であり、横に長いのに新幹線が通っていない、そんな県です。
都市か田舎かと問われれば、田舎に分類されます。
しかし、この鳥取県の臨床検査技師会である鳥臨技はとても行動が早く、既に臨床検査技師のタスク・シフト/シェア講習会(実技)の第1回目を終えました。ちょうど2022年4月17日のことです。
まだ準備中である県も多く、東京都でさえ開催していないこの講習、実際に受けてみてどう感じたのか、それをシェアできればと思います。

鳥取県はここ!島根の右です!

講習の実際

講習は9時~17時30分までという日程で1日かけて行われました。
内容は コンテンツ1 コンテンツ2 コンテンツ3 と分けられており、受講者は3グループにわかれて時間ごとにそれぞれのコンテンツを移動して受講するという形式でした。

コンテンツ1
静脈路確保・造影剤注入

コンテンツ2
持続皮下グルコース検査
検査のために、経⼝、経⿐⼜は気管カニューレ内部から喀痰を吸引して採取する⾏為

コンテンツ3
直腸肛門検査
消化管内視鏡検査・治療において、医師の⽴会いの下、⽣検鉗⼦を⽤いて消化管から組織検体を採取する⾏為

昼休憩時動画視聴:成分採血、MEP・SEPなど

といったカリキュラムでした。
コンテンツごとに講師の先生が二人ずつ対応してくださり、充実した研修となりました。

私の所感

静脈路確保・造影剤注入について

私はもともと心臓カテーテル検査のモニタリング業務なども担当しており、トランスデューサーや三方活栓の扱いに慣れていました。
しかし、他の受講者の方では三方活栓の扱いがはじめてで戸惑っている方もいました。
今までにどのような経験をしてきたかで現時点でも「できること」「できないこと」が臨床検査技師それぞれで異なっていることを実感しました。

造影剤に関しては、タスクシフトのホームページ上では「注入行為」まで可能になったのかわかりにくいと感じていましたが、今回、実際に注入まで実技講習を行いましたので、可能になったのだとわかりました。
今回は注入までの講習ですので、実際の業務の時は超音波検査を担う技師との連携、注入のタイミングや手順はそれぞれの施設で詰めていく必要があると感じました。

持続皮下グルコース検査

こちらは私にとっては馴染みの薄い検査でした。
実際どのように装着しているのか、どのように測定しているのか、現場で活躍されている看護師さんが教えてくれました。
皮下脂肪の有無を考慮した装着に加え、持っているスマホ端末の機種も気にする必要があるところは時代を感じました。
現在のFreeStyleリブレはAndroid端末でのアプリ取得だとうまく測定できない場合があり、iPhoneならば問題なく測定できるようです。
もちろん、専用の測定端末もあり、お渡しするようですが、普段持ち歩いているスマホで測定できた方が利用者には便利だろうと思います。
Androidは仕様上、それぞれのメーカーで規格が微妙に異なることからアプリの安定した起動が難しいのかなと、AndroidとiPhoneの違いにも思いを巡らせました。

検査のために、経⼝、経⿐⼜は気管カニューレ内部から喀痰を吸引して採取する⾏為

モデルを使用して吸引の実習を行いました。
実習では粘性の低い液体の吸引で目的の位置にカテーテルを到達できているかを確認しましたが、実際の痰は粘性が高く、短時間で患者の苦痛を最小限にしながら吸引するのは大変なことだと実感しました。
検査室にいると、たまにスピッツの中に痰が入っておらず、管のなかに残留したまま検体を提出されることがあり、なんでだろうと思っていましたが、なんとなくその事情もわかったような気がします。

直腸肛門検査

この検査を行っている施設は全国でもまだ少数のようです。
目的としては便失禁の原因がどこにあるのかということを直腸内にトランスデューサーを入れて圧測定を行うことで把握することでした。
肛門括約筋は内肛門括約筋と外肛門括約筋にわかれますが、内肛門括約筋の方は平滑筋(不随意筋)、外肛門括約筋は横紋筋(随意筋)です。
このどちらの障害なのか、混合しているのかを条件を変えながら測定することで検査していくものでした。
この検査は他の検査以上に患者の羞恥心などを抑える必要があり、検査手技のみならず、対応もしっかりと学ぶ必要性を感じました。

消化管内視鏡検査・治療において、医師の⽴会いの下、⽣検鉗⼦を⽤いて消化管から組織検体を採取する⾏為

生検鉗子を実際に扱いながら模擬の肉片をモデルの先に設置し、つかみ取って検体提出まで行うというシミュレーションを行いました。
生検鉗子を扱うことははじめてでしたので、小さいながらもその鋭利な切れ味に驚きました。慎重に扱わないと間違った部位をつかんだり、出血を広げたり、自身を傷つけたりと危険が伴うため慣れが必要だと感じました。
また、医者と共同で行うことになるためチームワークの重要性を感じました。

成分採血

これは昼食時のセミナーで、動画コンテンツをみての学習でした。
目の前に装置がないので少し理解が難しいところがありました。
これに関しては動画内でも「臨床検査技師」だけが担当するのではなく他職種と連携して進めるものであることが強調されていましたので、実際に行うことになる施設はより他職種との連携を図っていく必要があると感じました。

MER・SEP

これは術中モニタリングの話でした。
動画では主に脊椎の手術のことでしたが、私は脳外科の術中モニタリングで経験があり、理解は容易でした。
動画ではコイル電極を頭にねじ込むように装着していましたが、私が経験した脳外科の手術では開頭するため5連の特殊な電極を脳表に置く形で医師に位置を調整してもらいながら行っていました。
それぞれで気を付けることが異なり、どのモニタリングを行うか、環境をどう整えるか、どの電極を使用するかなどを執刀する科の医師と綿密なディスカッションが必要なことは確かだと感じました。
余談ですが、私はこの術中モニタリングに従事するのがとても好きでした。
事前にどこの手術でどこの神経をどのようにモニタリングするか、どこの筋で導出すれば良好な波形が得やすくモニタリングとして意義あるものになるのか、手術場のノイズ混入対策はどうしようかなど様々な想定を行ったうえで立会、時には夜遅くになりながらも最後の波形がしっかり導出された瞬間の安堵と達成感はとても大きいものでした。
今でこそ「超音波検査」メインで神経学的検査に従事していないものの、私の臨床検査技師としての人生を語るうえでこの体験は切っても切り離せないものだと思っています。
大学生のころは実は脳波の研究をしていて、地方の小さな雑誌ですが論文投稿までしたことも忘れられません。

全体を通して

とても充実した講習だと感じました。
鳥臨技の実務委員の方々、講師を引き受けてくださった先生方に感謝するばかりです。
ワクチン接種のときもそうでしたが、鳥取県の技師会の動きはとても早く他県の技師に比べても必要な情報や講習がすぐに準備される印象です。
特に今回のように資格に付随する権限の有無にかかわる講習は会員に情報が行き渡るか、講習が計画されているのかどうかなどはその地方の会員の士気にも関わります。
鳥取県で迅速に動いてくださった方々には頭が上がりません。

他県の状況

日臨技ホームページから状況をみたり、コミュニティで聞いた情報をまとめたりしましたが、まだまだ準備中であったり、準備中であってもそもそも計画しているのかどうかが不透明であったりする自治体があるようです。
これはそれぞれの地方の技師会の問題なのか、地方自治体の問題なのかわかりませんが、所属している自治体によってこのような重要な講習会を受けるスピードに差がでてしまうことは会員にとっては不安ではないかと思います。
日臨技が全体の統括としてもっと情報発信をしてくれたら…と思ってしまいます。

日臨技について考える

以上のことからどうしても不安や不満がたまってしまいますし、もっと広報をしっかりしてほしい、会員ページの宮島会長の動画を文字起こししておいてほしいなど私も思うところが多々あります。
しかし、ふと日臨技を運営している技師さんたちの立場となって考えてみると、かなり無理をして頑張っていらっしゃるのではないか、単純にもっとやってと責めるのは筋が通らないのではないかと最近、私は思うようになりました。
日臨技を運営している臨床検査技師も日々の業務をこなした上で活動を行っているのですよね。
これはとても大変なことだと思いませんか?
運営陣にいるということは病院内での立場も技師長だったりや主任だったりするのでしょう。
自身の職場をまとめるだけでも大変なのに、臨床検査技師の中では最も大きな団体としての活動は私生活を削らざるを得ないところもあるかと考えます。
実際に他県でその県技師会の役員をしている知人は、技師会業務の負担の大きさを嘆いていました。その分、報酬があれば良いですがあまり報酬がでるようなものでもないようです。
そうなると運営する担い手不足が問題になってくる時期がくるのではないか、いや、もしかしたらもう来ているのではないかと私は考えています。

臨床検査技師の未来を考える

これから確実にAIによる技術革新が起こります。
そのとき臨床検査技師はどのような立場で診療に、地域住民に貢献していくのか、それをディスカッションする必要性を感じます。
実は日臨技は学会などで既に未来を見据えた取り組みをしている先生方のセッションを組むなどして模索しているように感じます。
しかし著名な先生であればあるほど、なかなか話す機会もないかと思います。
ディスカッションとは相手の意見を一方的に聞くことではなく、その意見を聞いた上で自分の考えをまとめ発信し、また相手から意見をもらうことです。
つまり「相互方向」でなければ成立しません。
今はパンデミックの影響もあり、直接会って話すということが難しいのですが、逆にオンラインの催しが活発になり、遠くの地にいてもディスカッションが容易になってきました。
冒頭で紹介したように、今、この発信を行っている「服部」は地方の住民です。しかしオンラインの発達によってこのように意見を述べたり、セミナーの講師をさせていただいたりしています。
時代は既に動き始めているのです。
今後、メドフィットアカデミアでも、提携している「くまのこ検査技師塾」でも「未来を考える」セミナーを開催していけたら良いなと思っています。
ぜひ、みなさんも一緒に「私たち臨床検査技師の未来」を考えてみませんか?

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