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ウクライナ銘柄への投資機会を考える(おむすびch再掲)

ウクライナ銘柄として唯一国内からの投資が可能な農業セクターについて状況を分析し、投資機会を考えていきます。

1.マクロ要因の確認
①エネルギー不足
ゼレンスキー大統領は発電施設の50%が被害を受けたと言っています。
現在ウクライナでは慢性的な電力不足に陥っており、農業企業も生産・加工設備の稼働に影響が出ています。
たとえ戦争が終わったとしても、発電施設の復旧には時間を要することには注意が必要です。

②穀物生産高

スライド①をご覧ください。
各作物の収量はわずかな落ち込みは見られますが、大きな変化はありません。
トウモロコシのみ大きく下がっています。
これはトウモロコシは乾燥させるために多くのガスと電力を必要とするためで、ウクライナの発電施設がロシアからの攻撃を受けていますので、電力不足が起因となっていると考えられます。

③穀物輸出量
スライド①より、2022年度の予想値は昨年の70%となっています。
上半期までの実績は50%程度でしたので、穀物回廊の取り組みを通して回復してきたようです。
ですが、ロシア側からの妨害工作の影響により大量の船舶検査待ちが出るなど状況は芳しくないようです。
先日ロシア側が穀物回廊の延長に合意しましたが、今後も不透明な状況が続くこと、輸出量が平時に戻るのは容易ではないことを念頭に入れておいた方がよさそうです。
現在は輸出ができない滞留穀物の保管コストの負担が各企業の業績に影響を及ぼしています。
鉄道で国境を抜けた後にバルト海やルーマニアの港経由で輸出する代替ルートが利用可能ですが、こちらを利用する場合輸送コストが激増するようです。
売上を回復することができるとしても、結果的に企業業績が落ち込んでしまいますので、ビジネスとしては破綻していると考えた方がよさそうです。
代替ルートは、アフリカの飢餓地域を救う以上の効果は見込めそうにありません。

2.個別企業の被害状況の確認
①Kernel Holdingsの被害状況

アセットの被害はスライド②の通りとなっています。

また、スライド③に示す通り、負債がEBITDA比で約7倍に増加、稼働資産が6割に減少しています。
CEOが以下のように述べており、被害は大きいようです。
・穀物輸出の見込みが立たないことから、農地を134,000ヘクタール売却
・輸出ができないため、粉砕プラントの運転を停止
・第4四半期の穀物輸出は、第2四半期比でわずか4%、ヒマワリ油は15%
・海上ルートに代わる代替ルートはなし
・占領地にある棚卸資産の減少(穀物在庫と設備)
・戦前のひまわり油輸出量の85~90%を占めていた黒海の港が使えなくなった。

②ASTARTA Holdingsの被害状況
直接の被害はなしとCEOが発表しています。
輸送コストは増加しているとのことです。

③その他の被害状況
上場している銘柄には比較的小さな企業が多いためか、大規模な被害が出ている企業はないようでした。
上半期にロシア進軍地域の農地を調査(地雷確認など)したため、播種ができない圃場がある企業もあったようです。

企業によって被害状況は異なる状況です。生産量・販売量が大きい企業ほど小回りが効きづらく業績が厳しいようにも感じます。
決算資料ではどの企業も売り上げに大きな落ち込みは見られませんが、これは穀物価格の上昇によるものだそうです。
生産高にも影響はなさそうですが、前述したとおり、港が使えないことによるコスト増が重くのしかかっており、どの企業も利益が大きく落ち込んでいます。

3.リスクの整理
リスクは長期要因と一時要因に分けることができます。
①長期要因
・アセットの被害
ロシア侵略地域に圃場がある。貯蔵庫や加工施設に被害がある。
→個別企業により事情は異なる。
・ウクライナ発電施設の被害による電力不足(マクロ要因)
→自前の発電設備を持っている企業もあり。どこまで自前で賄えるかどうかにより生産能力とコストに影響が生じる。

②一時要因
・港からの輸出(マクロ要因)
→穀物回廊の状況次第。売上に直接影響する。
代替手段(鉄道)を利用する場合コストが激増。
滞留穀物の保管コストも上昇する。
規模の大きな企業は自前の輸出ターミナルを持っているケースもあり、輸出できないと管理コストが負担となる。(例:Kernel Holdings)
・運転資金の借り入れ増
→港が使えない状況が長引けば負債が増える。

4.投資対象とタイミング
①投資対象
長期要因の影響が少ない銘柄を選ぶのがコツだと思います。条件は以下の通りです。
・バイオマス発電施設など自前の発電設備を持っており、生産に必要な電力を大きなコスト増なしに賄える。
 (戦争終了後、国際社会の援助で負担が軽減される可能性もあり。)
・電力消費の多いトウモロコシの売上比率が少ない。
・プレスリリースより、アセットの被害が少ないことが分かっている。

②投資タイミング
戦争が終わった時です。
業績上のボトルネックのほとんどが港が使えないことに起因しており、戦争が終われば取り払われるからです。
それまでは、穀物回廊の期間が延長されるとしても不透明な状況が続くでしょう。

戦後復興によって売上が急拡大する業態でもありませんので、業績の回復を見込みながらのバリュー投資になると思います。

■参考情報
ウクライナの穀物輸出量:
https://bit.ly/3XfIlGu

Kernel Holdings 2022決算資料:
https://bit.ly/3VdrpPa

ASTARTA Holdings 2022 9M決算資料:
https://bit.ly/3Er2TTA

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