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~新興国2020年代のメガトレンド~ その1:ロシアボイコット

 2020年代の新興国をとりまくメガトレンドには2つの大きな流れがあり、どちらも地政学的な変化が影響しています。
一つはウクライナ戦争。
そしてもう一つは中国経済の崩壊(チャイナリスク)。
今回は、一つ目のウクライナ戦争について解説します。

ロシアボイコット

 2022年、ロシアがウクライナへ進出すると、欧米各国は経済制裁としてエネルギーや資源などロシア製品の不買運動を活発化させました。
当noteでは、便宜上これを”ロシアボイコット”と呼称します。
ロシアボイコットによって供給制約が生じ、EU諸国は自身の需要を満たすためにサプライチェーンの再構築を迫られることとなりました。

エネルギーサプライチェーンの再編

 EUにおいて、冬場の天然ガス不足が問題になったことは記憶に新しいと思います。
各国は石油や天然ガスの不足・価格高騰へ対処するため、新たなサプライチェーンの構築に乗り出しています。外交による新規の供給契約の締結、新たなパイプラインや天然ガス貯蔵施設の建設、タンカー輸送のルート変更などの取り組みが行われています。
また、電力供給源としては、再生可能エネルギーを含む新たな発電設備の建設・推進が東欧~中央アジアにかけて行われています。

キーワード:原子力

 近年Co₂を排出しないクリーンなエネルギーとして、原子力発電が再注目されています。
背景にあるのは行き過ぎた政策推進……、EU域内をあげて推し進めてきた再生可能エネルギーへの転換が計画通りいっていないのです。
加えてウクライナ戦争が起きたことにより、この問題はより深刻となりました。
EU政府では、基金によって東欧諸国の新興国へ発電施設を建設しており、原子力も大きなカテゴリとなっています。

ロジスティクスの再編

 ロシアとEUの物流にも影響が出ています。
以下は、2021~2022年までのEUからロシア、ロシアからEUへの輸出量を表したグラフです。

EU-ロシア間の物流量

 ご覧の通り、ウクライナ戦争が起きた2022年は前年に比べて両エリアの貿易量が半分に減少しています。

キーワード:中央回廊

 従来は中国から輸出された製品も含めて、ユーラシアの物流はロシアを経由してEUへと繋がっていました。
 利用されていたのは、北回廊と呼ばれるロシアを経由した陸路のルート。
ウクライナ戦争以降は、この北回廊を利用した物流が避けられています。
その代わり、中央回廊と呼ばれる中央アジアを経由したルートや空路へと移行が進められているのです。

 中でも、最も注目されているのが中央回廊。中国からカザフスタンを経由し、カスピ海を抜け、アゼルバイジャン、アルメニア、ジョージアを経由しトルコへ。トルコからEU各国へと貨物が拡散するルートです。
この他にウズベキスタン経由でカスピ海へ抜けるルートや、キルギスからウズベキスタンへ接続するルートが新たに計画されています。
 世界銀行によると、中央回廊を利用する上での問題は、多数の税関を通すことによる関税や手続きの煩雑さにあること、それにより期間とコストがかさむことが指摘されています。
 これらの問題を解決し、統合的な物流システムを構築することができれば、同ルートの物流量は2030年までに現在の3倍に増えると試算されています。

中国-EUを結ぶ物流ルートの全貌

総括

 ウクライナ戦争を機に、ヨーロッパにおいて地政学的な変化が起きました。
ロシアを経済圏から排除する動き(ロシアボイコット)が強まり、エネルギーと物流の分野において再編を迫られることになりました。
エネルギーでは新たな供給源の模索と設備投資が進められました。
物流では、ユーラシア大陸を横断するにあたり、ロシアを経由しないルートへのシフトが始まっています。

 次回はもう一つの変化、チャイナリスクから起こるメガトレンドについて概説します。

参考資料

中央回廊の概要:

中央回廊のキルギス-ウズベキスタン支線について:


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