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’23/6 世界銀行 世界経済見通しレビュー

 6月6日、世界銀行による最新の世界経済見通しが公表されました。
経済成長率は1月に発表された時は1.7%でしたが、今回2.1%となり、0.4%ポイントの上方修正となりました。
 前回1月とのプレスリリースをざっと見比べてみると、大まかですが以下のような違いが見えてきます。

・1月のレポートで使われていた景気後退という文言が、
 今回は成長の減速というマイルドな表現に代わっている。
・インフレに関する表現が減っている。
・米国の金利上昇が、金融市場が未発達な途上国で危機に発達するリスクが
 新たに論じられている。

今後の世界経済の見通し

 世界経済は引き続き減速し、年末に底をうち、2024年から回復基調になることが示されています。先進国も同様で、今年は0.7%に減速し、来年には1.2%にまで回復すると予想されています。
2023年は年初の予想に反して上方修正されており、その分の反動で来年の伸びは緩やかになるようです。
これが意味することは、ソフトランディングになるということだと思います。

世界経済全体の成長率推移

各地域の状況

 経済成長率推移とレポートの内容から、見通しの明るい地域とそうでない地域に分けて整理していきたいと思います。
見通しの明暗は以下の3つの基準をもとに判断しています。

 1.直近の成長率が上方修正されている
 2.来年以降も成長率が良好
 3.レポートの内容がポジティブ

見通しの明るい地域

東アジア・オセアニア
 今最もホットな地域です。中国経済が急速に回復しているというポジティブサプライズが含まれているためです。
 中国は2022年の減速から23年に急回復する予測となっており、今から景気後退に入る各国と比べて一足早い経済再開となっています。
この経済再開が個人消費を促進するため、2023年の成長率は5.5%に回復すると予測されています。1月の予測よりも1.2%上方修正とかなり良好です。
経済の回復ドライバーが個人消費、とりわけサービス業であることからインフレの影響を受けにくく、金融政策も緩和スタンスを維持できるとのことでした。不動産セクターは、政策に支えられ、長引く低迷から脱却し始めているそうです。
2024年以降は23年の再開ブーストの反動で、成長率が緩やかになると想定されています。

中国の成長率推移

 地域全体としては中国が強いため成長率が上昇していますが、それ以外の地域に関しては、コロナ後の経済再開の勢いが衰えるため、若干の減速が見込まれています。
 東南アジア諸国に関しても若干の減速が見込まれていますが、1月の予測から0.数%程度上方修正されています。
 中国の回復の波及効果は、同国の回復ドライバーがサービス業ベースであることから、あまり期待できないようです。

東アジア・オセアニアの成長率推移

ヨーロッパ・中央アジア
 
中国、ロシアの回復が予想を上回った影響を受け、1月予測に比べて緩やかな減速となっています。
数字上のGDP成長率においても、2023年が1.3%上方修正とかなり良好です。
 ロシアやウクライナからの貿易、移民、金融の流入によりCIS諸国(コーカサス・中央アジア)の成長はより急速なものとなったと言われています。
詳細は割愛しますが、各国のGDP成長率においてもCIS諸国は突出しており、ウクライナ戦争の影響による経済活動のシフトがすでに発生していることが分かります。

ヨーロッパ・中央アジアの成長率推移

南アジア
 
この地域では、インドとネパール、モルディブが成長を牽引しています。
先進国の急速な金融引き締め、中国の弱い成長、ウクライナ戦争の波及効果の影響をあまり受けなかったことが示唆されており、安定した成長を続けている地域と言えます。
バングラデシュ、スリランカなどは財政問題により引き続き芳しくない状況のようですが、経済規模から考えると影響は小さいでしょう。
 数値上は2023年の成長率は5.9%と高く、25年にかけても成長が衰えない予想となっています。
特にネパールは年々成長率が加速する予測です。

南アジアの成長率推移

見通しの暗い地域

中南米
 
今後10年間生産性と労働力の伸びが平均を下回るため、潜在的な生産高の伸びは、新興国の中で最も低くなると予想されています。
一方カリブ海諸国では、ガイアナの石油ブームの他に、観光業の回復と送金に後押しされて、良好な経済成長になるようです。

中南米の成長率推移

中東・北アフリカ
 
2022年はエネルギー価格の高騰により、10年来の高成長を記録しました。
その反動で2023年以降の成長率は鈍化しています。中でも石油輸出国の23年の成長率は、6ヶ月前の予想から大幅に引き下げられました。
石油輸入国については2023年は減速しますが、24年からは回復に向かうことが示唆されています。
インフレによる好況の反動でしばらくは厳しい状況となるでしょう。

中東・北アフリカの成長率推移

アフリカ(サブサハラ)
 
この地域最大の産油国であるアンゴラ、ナイジェリアでは石油価格の下落と生産の停滞により、経済が低迷しているとのことです。
 インフレ率が2桁台の国が多くを占めており、貧困層の生活が悪化しています。また、この地域の国は外貨準備率が低い国が多く、財政不安も重しとなっています。
数値上では、GDP成長率が年々増加していく予測になっている国が多いため、成長余地は大きいことが分かります。

アフリカ(サブサハラ)の成長率推移

総括

 中南米、中東、アフリカの見通しが厳しい一方で、東アジア・オセアニア、南アジア、ヨーロッパ・中央アジアの見通しは明るいものとなっています。
 見通しの明るい3地域は、今後の株価がどうなるか楽しみです。
中でも、直近数ヶ月はポジティブサプライズ(中国の急速回復、GDP成長率1%弱上方修正)が織り込まれていない東アジア・オセアニア(特に中国)とヨーロッパ・中央アジアは面白そうです。
南アジアに関しては、見通しが安定しており、世界経済の不協和音の影響をあまり受けていないようですので、新興国の中の優等生といった印象を受けました。個人的にはネパールにすごく惹かれます。
 財政の弱い国については、アメリカの利上げによる財政不安の影響があるため、株価がどうなるか不安なところですね。
アフリカなどは先進国のロシアボイコットによる開発ブームが起きそうな下地はあるのですが、特にこのリスクが大きいため、途上国の中でも最後の最後に出番が回ってくるように感じました。

 本投稿では割愛していますが、レポートでは各国の成長率見通しが見れますので、一通り眺めてみるのも面白いのではないでしょうか。

参考資料

世界銀行 世界経済見通し:

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